ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

文字の大きさ
37 / 247
第1章1節 学園生活/始まりの一学期

第36話 監視対象なハンス

しおりを挟む
(……くそがよ)


 ハンスはベッドに横になり、天井を凝視している。服装は学生服から病衣になっており、所々包帯が巻かれている部分があった。

 治っている真っ最中なのだろう、痒いし痒いし痒い。しかし痒いのは皮膚だけでない。


(何で……ぼくがあいつに。たかが使い魔なんかに……)


 ハンスは戦いの記憶を少しずつ呼び覚ましていく。


 沸々と憎悪が沸き上がり、少しずつ目が開かれる。


 掻きむしりたい。飢えている。




「あら。やっとお目覚めかしら、ハンス」


 彼の隣にいた人物が声をかけてきた。分厚い眼鏡をかけた女生徒で、彼女はベッドの隣の丸椅子に座っている。


 ハンスはすぐさま目を細め、声のトーンを明るくして彼女に応えた。普段教師や他の生徒にしているように、演技に入る。


「えっと……どちら様でしょうか……?」
「サラよ。サラ・マクシムス」
「マクシムス……?」
「エレナージュにマクシムスっていう魔術師がいるんだけど、ソイツの娘。知ってる?」
「……すみません、わからないです」
「あっそ。まあいいわ。別に覚えてなくてもいいし」


 サラはそっぽを向く。この時点でハンスからの心証は悪い。


「でも、わざわざお見舞いに来てくれるなんて……お優しいんですね。ぼくのこと知っているんですか?」
「いい子面するのウザいから止めてくれる?」



 二人の横では、サリアとシルフィが本を挟んで互いの様子を観察し合っている。どちらも感情を表に出さないタイプのナイトメアである為、主君であってもその心境は図れない。


 一方で突き放ったようなサラの言葉に、ハンスは皮を被る必要はないと判断した。薄目が開かれ目玉が彼女を睨む。



「……猿如きが何の用だ」
「ふーん、それがアナタの本性ねえ……リーン先生がアナタのこと愚痴っているのを聞いて、興味が湧いたから視察しに来たのよ」
「……」
「あらあら、随分と怖い目するのね?」



 険悪な雰囲気漂う二人の耳に、どたどたと駆け回る騒音が入ってきた。



 警戒するハンスに対して、サラは露骨に嫌悪感を顔に浮かべる。



「うおおおおお! ハンス元気にしているかー!」
「クラリア! 保健室では静かにしろ! 走り回るな!」
「はぁ……」


 カーテンを開けてクラリアとクラリス、そしてヴィクトールが顔を出してきた。


 ヴィクトールの手には鮮やかな花束が握られており、彼はそれをベッド脇の花瓶に差す。誠意が一切感じられない程乱雑に。


「先生から聞いたぜ! 怪我は殆ど治ったんだってな! 本当におめでたいぜ! ってサラもいるじゃねーか!」
「……何でアナタここにいるのよ」
「そりゃー席が前後だからなー! ちなみにヴィクトールは隣の席だぜ!」
「ああ……そういう」


 クラリアと目を合わせながら、サラはヴィクトールをベッドから引き離す。



 そしてクラリアの興味がハンスに向いた瞬間、ヴィクトールにこそこそ尋ねる。


「ねえ……クラリアは今回の騒動のこと、どこまで知ってるの」
「ハンスが大怪我をした……という所までだな、あの様子だと。誰とやったのか、何故決闘を仕掛けたのか、どちらから先に来たのかまでは知らないと思うぞ」
「……あー」


 脳裏にある日の授業の光景が浮かぶ。


「エリスが巻き込まれたってこともわからない感じ?」
「エリス……? 誰だそれは」

「一組の女生徒よ。赤髪で緑目。いつもアーサーっていう金髪の生徒と一緒にいる」
「……思い出した。一回だけ会ったことがある」
「あっそ。それで今回決闘したのはハンスとアーサーで、エリスはそれに巻き込まれてしまったらしいわ。血が流れる様を間近で見てしまったわけね」
「そう……だったのか」


 ヴィクトールは悔しそうに唇を噛む。


「え? アナタも知らなかったの?」
「正直俺も把握できていなくてな……生徒会でもあるのに、情けない」
「まあ一年生ならそんなもんじゃないの? 知らないけど」
「で、そのエリスとクラリアに何の関係が?」

「二人は裁縫の授業で一緒なの。恥ずかしながらワタシもなんだけど。それでこの間エリスが元気なくて、クラリアがそれに突っかかろうとしていたから、ナイトメアがそれを止めてた」
「……奴なら普通に有り得そうだな」
「まあそうね。そんなことがあったけど、その理由がわかったわーって納得した、それだけ」
「ふむ……」



 丁度話の切れ目のタイミングで、クラリアが二人目がけて突進してきた。



「おおーい! 何話してんだ二人共ー!」
「アナタって鳥頭よねって話をしていたわ」
「鳥だと!? アタシは狼だぞ!」
「はいはい、脳筋馬鹿は置いといて。ヴィクトール、アナタ何か言うことないの」
「ん、ああ。そうだな……」


 ヴィクトールがハンスの隣に立とうとしたので、クラリアが慌てて横にはける。



 そして隣に立った眼鏡の彼は、極限まで顔をハンスに近付けて話す。


「先生から聞いたぞ。もう怪我は完治しているんだろ?」
「……」

「ということは学園に来ることもできるということだな」
「……行く価値がない」


「許さん。貴様のような奴がいると風紀が乱れる。何よりクラスの一人、学園の一人という自覚を持ってもらうために、意地でも来てもらうぞ」
「はっ、そんなこと」

「朝起きたら貴様の部屋まで迎えに行ってやる。そこから一日が終わるまでずっと一緒に行動だ。自由が与えられるのは寮に帰ってから……としたいが、貴様の行動次第ではどうなるかわからんぞ」
「……やってみろよ。絶対にてめえを欺いて逃げてやる」
「果たして上手くいくかな」



 ヴィクトールが指を鳴らすと、彼と瓜二つの人間が地面から這い出てきた。眼鏡はかけていない所が唯一の違いだ。



「俺のナイトメアだ。名をシャドウと言う。此奴は人の影の中に潜むことができてな――逃げようものなら追跡させるぞ」

「付け加えておくが、俺がここまでして貴様を監視するのは、先生方を超越した上からの命令だ。ジョン・エルフィン・メティア殿……貴様の父上が直々に、俺を監視役に指名されたのだ」





「……」

「……くそが」



 父親の名前を出されて、苦虫を食い潰したような顔は、醜さすら感じさせる。



「でもよー、授業サボることばっか言ってっけどよー。授業も楽しいのいっぱいあるぞー! 魔法の話聞くの面白いし、文字がわかるのも楽しいし! 何より皆で受ければ楽しいこと間違いなしだぜー!」
「ふっ……それもそうだな。とにかく貴様には授業に出てもらう。この前はまだ転入してきたばかりで目が甘かったが、次はこうはいかんぞ」
「逃げ道潰されちゃったわね。はんっ、まあ頑張って」


 引き笑いと共に、サラは鞄に本をぶち込み始める。


「ん? もう帰んのか?」
「同じクラスの連中が来ちゃったから、ワタシはもういいわ。思う存分話しなさいな。じゃあね、次があるかはわからないけど」

「アタシは裁縫の授業で会うぜ!」
「……ああ。考えないようにしていたのにこの狼は……!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな
ファンタジー
全てを創世せし神によって造られた、様々な種族が生息する世界──その名はレディアダント。 世界は神の子孫代々によって守られ、幾多の脅威に挑みし者達は人々の間では英雄として語り継がれ、勇者とも呼ばれていた。 そして勇者の一人であり、大魔導師となる者によって建国されたレイニーラ王国。民は魔法を英雄の力として崇め、王国に住む少年グライン・エアフレイドは大魔導師に憧れていた。魔法学校を卒業したグラインは王国を守る魔法戦士兵団の入団を志願し、入団テストを受ける事になる。 一つの試練から始まる物語は、やがて大きな戦いへと発展するようになる──。 ※RPG感のある王道路線型の光と闇のファンタジーです。ストーリー内容、戦闘描写において流血表現、残酷表現が含まれる場合もあり。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

女男の世界

キョウキョウ
ライト文芸
 仕事の帰りに通るいつもの道、いつもと同じ時間に歩いてると背後から何かの気配。気づいた時には脇腹を刺されて生涯を閉じてしまった佐藤優。  再び目を開いたとき、彼の身体は何故か若返っていた。学生時代に戻っていた。しかも、記憶にある世界とは違う、極端に男性が少なく女性が多い歪な世界。  男女比が異なる世界で違った常識、全く別の知識に四苦八苦する優。  彼は、この価値観の違うこの世界でどう生きていくだろうか。 ※過去に小説家になろう等で公開していたものと同じ内容です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...