ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第1章1節 学園生活/始まりの一学期

第35話 友達

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「……前、リーシャ、言った……女子、気持ち、わかってない……おれ、それ、わからない。でも、今、すごく、わかる……!!」

「――おまえ、わかってない! エリスの気持ち、わかってない……!!」


 拳を震わせながら、叫ぶようにルシュドは言った。





「――サンキュー。オマエ今ボクが言いたいこと大体言ってくれたわ」


 イザークは立ち上がり、ルシュドの隣に押し入る。


「エリス、泣いていたぜ。オマエに会ってどんな顔すればいいかわかんないって。逆に言うと困らせているオマエはすげー悪いってこった」
「……オレが、泣かせている?」

「そうだ。オマエ入学式ん時言ったよな。エリスを守る騎士だって。そんなオマエがこのザマじゃあな、エリスも浮かばれねえなあ」
「……」


 目を閉じる。



 それから数秒程、間を置いて。


「……オレはもうあいつの傍には入れない」
「え、何だよ急に」
「あいつを悲しませる原因がオレにあるなら――オレはいない方がいい――」
「だったら今すぐ壁に頭打ち付けて死ぬか? それとも鞘から剣出して喉元に刺すか?」


 調子に乗り出したイザークが言葉を綴る様は、暖炉の火が薪をくべられて燃え上がっていくのに似ていて。


「仮に今すぐオマエがいなくなってみろ。そっちの方がもっと悲しむと思うぜ。三日三晩泣いても癒されない悲しみに支配されることになるけど、それでいいのかよ?」
「――それなら」


 アーサーは掛け布団を強く握り締める。


「それなら、どうすればいい」
「ああん?」
「近くにいても悲しませる、いなくなっても悲しませる――それならオレは、どこで何をすればいい?」
「ふざけんなよ!!!」



 怒りを表出したイザークがベッドの柵を叩く。キレが悪く痛みを彷彿とされる音が、一瞬駆け抜けた。



「オマエさあ……散々エリスに忠誠誓ってますーみたいな素振り見せてるけどさあ……エリスの何を知ってんの?」
「それは――」
「好きな食べ物、色、教師、教科、場所、服の種類、動物、本、植物。全部言えるか?」
「――」


 否定しきれない、否定を認めたくない顔で、イザークを見つめるアーサー。


「その様子じゃ一つも言えないようだな? ちなみにボクは一つ言えるぜ。エリスは苺が好きなんだ。実家が苺農家やってるからな」
「……あれ。その時アーサーも一緒にいたような……」


 カタリナの言葉に、悪気のない言葉に、得意気にするイザーク。


「――これで証明された。オマエはエリスのことを知らない、知ろうとしていなかったってことだ」
「……」

「どうだ? 今思い出せるか? 出せないだろ? オマエは、ボク達の、エリスの話、全然聞いてないもんなあ――」
「……ははは」


 アーサーの身体が震え出し、そのまま彼は苦しそうにに胸を抑える。



 呼吸がみるみるうちに荒くなっていく。保健室教師を呼んで対処してもらうべき状況だが、見舞いに来た四人揃ってそうしようとはしない。


 ここで畳みかけないとだめだと、無意識のうちに感じ取っていたのだ。



「……ああ。そうだな。最悪じゃないか。主君のこともわからない騎士なんて。そうだ。そうだそうだそうだ。主君に害成す騎士は存在してはいけない――」
「いい加減にしてよ、この朴念仁!!!」


 静観していたリーシャが、とうとう憤慨の声を上げた。


「さっきからずっと人生の終わりみたいな顔してるけどさ……まだ三ヶ月だよ!? 最初の期末試験も終わっていないの!! そんな短い間で他人のことなんてわかるわけない!!」
「……だが、あんたは……」

「私? 確かによくエリスに話しかけてるけど、全然わかんないよ? 悲しんでいるとは思ったけど、本当は心の底で馬鹿にしているかもしれないよ?」
「――嘘だ」

「だからわからない、わからないの!! 三ヶ月程度じゃ、そんな期間じゃ心の内を見せてくれるなんてことはあり得ない――だから知らないといけないの。心の内の前にある、単純な表層部分をね。それが好きな食べ物とか動物とか、そういうことなの。そういうことなんだって、理解してよ!!!」



 かき切れそうな大声で、叫ぶように言うリーシャ。



 それが影響したのか、アーサーの震えは少しづつ収まっていく。



「……わかれば、いいのか?」
「そうだ。知る、わかる、大事」
「なら……わかるためには、どうすればいい」
「んなもん訊きゃあいいだろうが」


 合間がなかった。

 すかさず返答された。


「……訊く?」
「一つは本人に直接訊く。好きな食べ物なんですかーって。あとは本人が他の奴と駄弁っているのを聞く。そうすりゃ自ずとどんな性格なのかわかってくる」



 アーサーの視界の全てを、急に迫ってきたイザークの顔が覆い尽くす。



「いいか、物事の基本は『キク』ことだ。聞いて訊いて情報を仕入れそれを自分で解釈して口に出す。人間なんてのはその繰り返しで生きていくんだ。何も知らねえのに口に出したって上手くいかない」

「オマエは剣を振るうのに誰にも使い方を教わらなかったのか? 違うだろ? 最初に使い方を教わって、それで素振りとかやっていったはずだ」



 見据えてくる瞳は、真剣そのもの。


 普段はあれだけふざけた態度で授業を受けているのに――



「あとあれだな、知ったら覚えろ。記憶して次に活かすように心掛けろ。情報だけじゃなくって、自分の接し方とかもな」
「……敵を倒している方がまだ楽だな」
「そうか。それは無心で倒しているからだろうな。敵にも感情があるとか考え始めればそうはいかねえと思うぞ?」

「……」
「同じなんだよ、戦うことと人と関わるということは。その点では騎士も学生も何ら変わりねえ」



 そこまで言って、彼はフッと笑った。引き継ぐようにカタリナが口を開く。



「……ねえアーサー。今の喩えもそうだけど、アーサーって物事を難しく考えすぎなんじゃないかな。何で敵を倒すとか、そんな物騒なこと言うの」
「オレはそのために生まれてきた――」



 突然短剣が掠め、言葉を遮る。



 それはアーサーの背後にある壁に突き刺さり、カタリナはそれを抜きながら一言、


「……どうすればいいんだろう? もう今後は物騒なこと言ったら、これで突き刺すぐらいしないとだめかな?」




「……」
「カ、カタリナ……オマエそんな物騒なもん持ち歩いているのか……?」


「……あ、ごめん。護身用にちょっとね。あと果物切ったり箱解体したり、色々便利なんだよ」
「そ、そっすか。まああれだ、考え方変えるのも練習しないとな。あと人のこと知ってくうちに変わるっしょ! 何なら普段のボクの言動パクってくれても構わないぜ!?」


 そう言うイザークは、先程の真剣な調子から、普段の気さくな雰囲気に様変わりだ。


 散々見慣れて、懲り懲りだと思っていたあのふざけた様相である。


「あー……そうだ。知るっていっても全部は知らなくてもいいからね? スリーサイズとか体重とか訊かれても困るから」
「何か訊きにくいことあったら……あたしが訊いてくるよ」
「でも、まず、ごめんなさい。エリス、会う、最初、言う。いいな?」
「……」



 手を挙げ、激昂し、刃物を取り出した彼らは――一転して明るい表情を見せる。



 先程の鬼気迫った言動が幻のように思える程に。




「訊きたいことがある」

「あんた達はどうしてここにいるんだ。どうしてオレに会いにきたんだ。どうして――そこまでオレに構うんだ」




 沈黙が少し流れた後、イザークがにやりと笑う。



「……折角の機会だ。その理由を一発で表してくれる言葉を教えてやる」

「――友達。オマエのことを友達だと思っているから来たんだ」




 彼が愉しそうに言ったその言葉は、アーサーの目を丸くさせるには十分すぎた。




「友達?」
「そう友達。一緒に何かやったりする、好意を持っている人間のこった」
「それは、仲間とは違うのか?」
「仲間と同じだけど違う。同じ目的のために一緒に動くなら、嫌いなヤツでも仲間さ。だけど友達は同じ目的のために一緒に動き、かつ好きなヤツだ。しかも目的が違っても好意は残ったまんまだ」
「好意……」

「コイツとなら一緒にいたい、本音をぶちまけてもいい、そんな感じで自分と波長が合うヤツだ。ボク達はオマエとそういう関係になってもいいと思ってる」
「……それは」
「それは何故って言おうとしてるだろ!? そんなのオマエの席がボクの前だからに決まってるだろー!」
「ぐふっ……!?」


 背中をバシバシと叩いてくるイザーク。アーサーが止めようとしても、勢いが強いので言葉が出せない。


「……最初はよくわからなかったけど。でもこれまで一緒にいたから、あたしもそんな気持ちになってる」
「私と貴方は課外活動が一緒! 周りは先輩ばっかりだから、一年生だけでつるむ! 以上!」
「おれ、同じ、リーシャと!」



「……そんなことで」
「人の縁なんてそんなもんさ~! 神様じゃないんだからこんぐらいでいいんだ!」


 雑だ。あまりにも粗雑が過ぎる。アーサーはあまりにも無鉄砲すぎる理論を聞いて、何度も瞬きをする。



 四人の顔を順番に見つめ、たった数十分の間に起こった出来事を整理していると、


 カーテンが開いた。



「失礼するわぇ。アーサー君、お見舞いの子一人追加よぉ」


 そしてゲルダと入れ違いに生徒が一人入ってくる。



「あ……みんな……」
「……エリス? 活動は終わったの?」
「……終わったよ。だから、来てみた」
「よし。アーサー、さっき、覚えてる。そうだな?」
「……」


 イザークが奥に移動し、入れ替わりにエリスが立つ。




 数分か、数十分か。実際はそうでもなかった時間の、沈黙の後。


「――今回の件で悲しませたこと、悪いと思っている」



「……うん。ありがとう、みんな。ありがとう、アーサー……」


 エリスはアーサーの右手を握る。



(……嬉しい?)


 心にそっと染み入るような、暖かい何か。


(……安心?)



 それに耽っている時間も束の間、イザークの声が現実に引き戻す。



「よし。エリスここに立ってろよ。コイツはオマエに訊かなきゃいけないこと山程あるんだから」
「へっ、何のこと……?」
「アーサー。訊く、何か、考える」
「……」


「早く早く。早くする」
「……」
「だ、だから……そんな怖い顔で悩まないでよ……もっと気楽に、だよ? また短剣飛ばすよ?」
「はいはい、笑顔笑顔ー。できないんなら私が笑顔にしてやるー!!」
「むぐっ……!?」



 降り頻る雨に分厚い曇り空。そんな雨模様を引き裂く一筋の光のように、六人は保健室で語り合うのだった。
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