ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

文字の大きさ
38 / 247
第1章1節 学園生活/始まりの一学期

第37話 ガゼル

しおりを挟む
 数日後。


「うぇーい放課後放課後ー! 帰って寝るぞー!」
「寝るなー! 帰って課題だうぇーい!」
「エリスさんよ現実を突き付けるなうぇーい!」

「ワオーンワオーン!」
「う、うぇーい、うぇーい……」
「無理なさらずにお嬢様……」



 アーサーは完全に回復し、授業や課外活動にも復帰していた。今日も今日とでイザーク、エリス、カタリナの会話に耳を傾けている。



「……」
「ワン」


 今は頬杖をついてノートを眺めている。何もない白紙のページを見て一息つく。


「……中に入れ」
「ワン?」
「奴とは……一対一で話したい」
「……ワンッ」


 カヴァスを中に収まったのを確認し、アーサーは荷物をまとめ出す。


 それをイザークが見逃すはずがない。


「おい、帰んのかアーサー。この後何かあるのか?」
「……行きたい所がある」
「え、どこだよ」
「オレにしか関係のない所だ」
「じゃあボクも行くぞ」

「駄目だ。オレが一人で行かないといけない」
「ふざけんなよ。それで先週どうなったか思い出せ」


 声色が明らかに、苛立ちを含んだものに様変わりする。




「……どんなことするの?」
「オレと、それからあんた。二人だけに関わることだ」


 アーサーはエリスを見つめるだけだったが、それで言いたいことがエリスには理解できた。


 しかしイザークとカタリナは理解し得ないので、戸惑うばかりだ。


「……そうなんだ。それなら、わたしは何も言えない、かな……」
「エリス? オマエまで何言って……」

「……」
「おい……!」



 アーサーが去っていき、教室に三人残される。



「……やっぱり心配だ。ボク見てくる。サイリ、荷物持ち頼む」





 教室を出て、そのまま五階まで上がったアーサーは、

 生徒会室の前に立っていた生徒に声をかけた。


「……ここにいたか」
「……あ? 何の用だよ」


 ハンスは指を弄りながらアーサーを睨む。




「あんたはオレの正体を知っている」
「そうだけど」
「オレはそれを言いふらされると困る」
「そうみたいだねえ」

「……何? 口封じのためにぼくに媚びようってこと?」
「……ああ」
「ふーん」



 前髪を触り、口を尖らせるハンス。貴族の嫡男らしい礼節はどこにも見当たらない態度だ。



「……媚びるって何するのさ。前のようにはもうできないぞ、見張りもついたし」
「見張り?」


 ハンスは自分のナイトメア、雲の精霊のシルフィを親指で指す。その下にはもう一人、瓜二つのシルフィが浮かんでいた。





「――アーサー!! オマエここにいたのか!!」
「ハンス待たせたな。次は何処に……」


 イザークが階段を駆け上がってくるのと同時に、生徒会室からヴィクトールが出てきた。



 人数が四人になったが、相手の出方を窺う姿勢は変わらない。むしろ人数が増えたことによって、益々気を張り詰めなくてはいけなくなった。


「ぜぇ……ぜぇ……ってオマエはハンス!! もう名前知ってるからな!! また何かアーサーにしようとしてんのか!?」
「……アーサーと言ったな。俺からも言わせてもらうが、此奴には二度と関わらない方がいい。その方がお互いのためだ」
「……」
「……」


 その場にいる全員が無言になっていき、緊張感が支配していく――



 しかし、


「――すっ、すみませーんっっっ! そこにいる生徒達避けてぇぇぇぇぇ!」


 やや甲高い生徒の叫び声が静寂を破る。




「……はぁ?」
「避けるって……」
「何が……」
「来るんだ……?」


 逃げてほしい存在は、すぐに四人の眼中に入った。



 車輪に波動を纏わせ、衝撃波を起こして突っ込んでくる――台車である。


 台車がこちらに向かって突進してきているのである。



「ちっ……!」
「もぎゃー!?」
「……くっ!」
「ぬぅん!」


 四人は思い思いの方法で台車を躱す。



 そして台車は勢いのまま壁に衝突し――


 ひっくり返って、黒煙を噴いて、動きを止めた。




「部長の馬鹿ぁぁぁー!!! もう手に負えない暴れ馬になってるじゃないですかぁぁぁー!!!」


 薄いベージュ色の髪の生徒がやってきて台車を起こしながら、悲痛に叫ぶ。


「……あっ皆大丈夫!? びっくりさせてごめん……おわっ!?」


 起こされた台車はなんと、勝手に移動を始めようとする。意思を持っているかのようだ。


「重ねてごめん! これ一緒に押さえて部室まで持っていってくれないかな!?」
「……押さえるだけでいいんですか?」
「魔力は殆ど使い果たしているから! ただほんのちょっと残っているみたいで、見ての通り勝手に動こうとしてい…るぅん!!」


 生徒は持ち手を握り何とか台車を制御している。



 イザークはすっと台車に乗り、アーサーとヴィクトールがぎゅっと持ち手を握る。ハンスもヴィクトールにずいっと引っ張られて持ち手を握った。


「おお! 上から抑えるの頭いいね! よーし行くぞー! えっちらおっちらー!」



 五人は台車を引っ張っていく。一年生の四人、この生徒の有無を言わせぬ雰囲気の前には、全員が同じように屈服しているようだった。





 引っ張っていった先は生徒会室と同じ階層にある、部室群の一室。壁を本棚が覆い、床にも机にも紙が散乱している。

 紙に書かれているのは文字以外にも、似顔絵や風景画など様々だ。どれも素人の生徒が描いたであろう雑さである。



 そんな部屋に五人は入室。すると慌てた様子の女子生徒に迎え入れられる。



「ガゼル君!? 大丈夫だった!?」
「大丈夫じゃなかったんでちょうどそこにいた生徒達にお手伝いしてもらいました!!」
「本当……ごめんね皆!」
「あれー、あんな大きな音が出るはずじゃなかったんだけどなあ……!?」


 台車は部室に入れられ、そして隅に片付けられた。


 その間にガゼルは、殺人兵器と化した台車を見ながら頭を掻いている生徒に突っかかる。


「部長、もう止めましょう!!! 素人に魔力回路なんて無理なんですよ!!! 次やったら死人が出るかもしれませんよ!?」
「いやいやこれはまだ第一号だから! 次の第二号がグレードアップする布石だから!」

「もう信じられません部長の言葉!!! 前にもありましたよね!!! インク瓶に魔力通した瞬間中身が噴き出して、部室中インクまみれになったの!!! 僕あれ未だに根に持っていますからね!!!」
「あれは不幸な事故だったって言ってるだろぉぉぉ!!!」
「どう考えても人災だろうがボケェェェェェ!!!」



 理不尽と常識で殴り合うガゼルと部長の応酬を、


 ぽかんとして見つめている一年生四人。



「まあいいや! ガゼルには面倒かけた! 今日はもう帰っていいぞ! 
「部長を憎みながらありがたくそうさせてもらいますッッッ!!! さあ君達ちょっとこっちおいで!」


 促されたのでガゼルと共に教室を出ることに。





「ぜーっ、ぜーっ……ああ喉が痛い。帰ったら喉飴舐めなきゃ……本当にごめんね皆。部長はいつもあんな感じで備品を勝手に改造して迷惑かけてるんだ。いや、今回は本気で死人が出る所だった……」


 教室から出てすぐに鞄からタオルを取り出し、汗を拭くガゼル。顔にはすっかり疲れが浮かんでいた。


「あ、自己紹介しとこう。僕はガゼル。三年生で新聞部……うん、ここは新聞部の部室なんだ。以上自己紹介終わり。それでこの後君達予定は?」
「……ない」
「ありませんよ。こっちのエルフも同様です」
「……」
「ないっす」



「だったら好都合! 今からカーセラムに行こう! そこで好きなメニュー奢ったげるよ! というか奢らないと申し訳が立たない!」


 聞き慣れない名詞を耳にして、四人は首を傾げ顔を見合わせる。


「……あ、もしかして君達一年生? カーセラム知らない感じかな? それなら益々丁度いい、この機会に知っとこう!」
「まあタダ飯が食えるなら……ボクは行くよ。オマエらも来い。アーサーは強制な」
「どうしてそうなるんだ……」
「……人間の食文化を知っておくのもいいんじゃないか?」
「そうですね。折角だし甘えておきます!」


 ハンスは高い声と糸目に切り替えていた。言葉も丁寧で、先輩生徒に媚びるつもりなのは明白である。


 他の三人はそんなハンスに対して怪訝そうな顔をするが、ガゼルは既に歩き出していた為それに気付いていない。


「よーしレッツラゴー! あ、その前に君達名前は?」
「ボクはイザークです。左から順にアーサー、ヴィクトール、ハンス。さらにこの黒いのがサイリで……あとはわかりません!」
「よし、一先ず主君は覚えたよ! 改めてレッツラゴー!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。  カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。 ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)  異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。  他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。  自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します

みかん畑
ファンタジー
無能と蔑まれ、Aランクパーティを追放された結界師フィン。 行き場を失った彼を拾ったのは、辺境伯の娘リリカだった。 国土結界の恩恵が届かない辺境で、フィンの結界は本当の価値を発揮していく。 領地再建、政治の駆け引き、そして少女のまっすぐな想い。 これは無能と呼ばれた男が、辺境で居場所を見つけ、やがて年の差婚へと至る物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。 だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ! 捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……? 無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!

処理中です...