ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第1章1節 学園生活/始まりの一学期

第51話 秘密の島とはじめての笑顔

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 第一階層。スコーティオ家が治める居住区。農家、商人、学者や軍人を除いた民の殆どはここに住んでいる。石、煉瓦、木、その他さまざまな建材の家々が隙間なしに建っており、街並みを歩いているだけでも子供達の遊ぶ声や主婦の井戸端会議の声、そして領土の拡張を進める工事の音が聞こえてきていた。




「いや~……いいね。この辺落ち着いているね」
「何だか学園生活で一番充実した日だったなあ……」


 四人は駄弁りながらのんびり住宅街を歩く。


「……休もう。足が棒になってきた」
「さんせー」



 そうしてイザークは通りがかった公園のベンチに腰かける。


 公園らしく周囲にはブランコや滑り台が置かれているが、手入れがされていないようで所々塗料が剥がれていた。



「こんな場所もあるんだね……」
「領主であろうとも全部管理できてないのかな?」
「今出張中って言ってたし……」


 エリスとカタリナもイザークに続いて、腰と膝と足を休ませる。




 しかしアーサーはベンチには座らず、公園を歩き回っていた。


「ワンワン」
「……ん」


 公園にぽつりと植えられていた一本の木を前にして、突然カヴァスが吠え出したからだ。


「ヴー……ワン!」
「どれ……」


 アーサーはカヴァスの元に向かい、そして根元の土を払っていく。


 するとそれは現れた。


「……これは」


 人が一人入れる大きさの円が地面に描かれており、それは複雑な模様で飾られていた。そして光っては消えるのを繰り返している。

 アーサーは詳しく観察しようと、それの上に手をついた――


「魔法陣……っ!?」





「……あれ? アーサーは?」


 エリスがふと周囲を見回すと、彼の姿はどこにもなかった。


「……帰った? 嘘だろ?」
「ううん、わたしだけを置いて帰るってことはないと思うけど……」
「ワン!」
「……カヴァス?」


 カヴァスが三人の元に駆け寄り吠える。



 そして吠えられるがまま連れられていき、三人も魔法陣を発見した。


「ワンワンッ!」
「……こっち?」
「……何だこれ?」
「すごい神秘的……」
「ワン!」


 躊躇う様子も見せず、カヴァスは魔法陣に飛び込む。



 その姿は淡い光に包まれ消えていった。


「消えたぁ!?」
「もしかして、アーサーもこの中に……?」


 三人は顔を見合わせる。


「……アーサーが行ったなら行くしかないよね?」
「何よりすげー冒険って感じしてきた! 行こうぜ!」
「ご、ごくり……」





 巨大な八つの石柱。それは円状に並び、天高く聳え立っている。


 円の中央には更に巨大な石柱が鎮座し、雲を突き抜けて静かに地上を見下ろしている。


 魔法陣に吸い込まれたアーサーの目に真っ先に入ったのは、そんな壮麗な石柱の数々だった。




「おおっと、着いた着いた……」
「アーサー! 大丈夫?」
「……ここ、どこ?」


 どうやら遅れて三人もやってきた様子。それに気付き、アーサーは三人の方を振り向く。


「……来たか」
「うん、来たけど……ここは?」
「わからない」



 エリスも周囲を見回す。石柱の他にも森や海を見つけることができた。


 そして一際巨大な石柱の根元に魔法陣が描かれている。先程公園で見つけたものと同一の紋様であった。



「取り敢えず歩いてみようぜ、この……島?」
「海見えるから島じゃない?」
「じゃあ海岸とかもあるかもな。とにかく行こうぜ」
「まずはこの……石柱から……」


 四人は石柱群を一瞥し、それから一つ一つの石柱に触れながら巡っていく。


「何か……魔力を感じる。ほんのりと、だけど……」
「誰が何のために立てたんだろうなあ」
「元々生えてたんじゃない?」
「それにしては綺麗な円状になっている」

「じゃあ建てたの? 人間十人でも届かない高さの物を?」
「それはそれで無理があるよなあ……」



 そして一周した後、中央の石柱まで戻ってきた。根元にある魔法陣は魔力を蓄えているのかきらきらと瞬いている。



「この魔法陣から出てきたんだよね?」
「このデッカい石柱から魔力もらってんのかなあ」
「確かに……この石柱だけ魔力の感じが違う……かも?」
「とにかく何か神秘的なもんってことにしようぜ」
「それじゃあ海行こうか~」





 それから数十分かけて、四人は島の外周を歩いていった。



 ゆっくりと日が水平線に落ちていき、海を橙色に染めていく。





「……で、これで一周したわけだけど」
「小さな森と丘があって、周りがぐるっと海に覆われていたね。あとおっきい木」
「外から流れ着いていた物はあったけど……人は住んでいなかったね」
「……」


 四人は今度は島を一周し、最初の魔法陣の元まで戻ってきていたところだ。セバスン、サイリ、カヴァスも出てきて話に混ざっている。


「どうしたのアーサー。さっきから腕組んで黙っているけど」
「いや……この島。海岸線を歩いてみて気付いたが、結界が張ってある」
「結界?」
「といっても弱かった。結界事体が弱いのか、オレがあまり感じ取れなかったのか……そこはわからない」

「ワンワン!」
「わたくしも感じましたぞ」
「サイリも感じたってさ~」


 イザークは石柱に寄りかかり空を見上げる。


「いやスゲえよアーサー。人間なのにちょっとでも感じ取れるってスゲーじゃん」
「……ああ」
「そうだね……」


 解答を曖昧にしつつエリスは島全体を眺めていた。


「そういえばこの島ってさ……どこにあるんだろう?」
「ん? どゆこと?」
「北のニライム氷海とか、アルブリアとアンディネの合間のミダイル海とかあるでしょ。どこの海に浮かんでいるんだろうって話」
「氷海ではねえな。暖かいというか……屋外と同じ暑さだ」
「どこにも島っぽいのは見当たらないなー……」


 カタリナも地平線の彼方に目を向ける。沈む太陽以外には何も見当たらない。


「それでさっき、アーサーが結界があるって言ってたでしょ。だから結界に隠されて外から遮断されているのかなーって」
「ありそうだなあ……」


 全員が静かになり、それぞれ考え込む。





 そんな時間が暫く続いた後――


「ねえ……ここさ、秘密基地にしない?」


 エリスがそう言った。





 風の吹き抜ける音、漣が押し寄せる音が意地悪な笑みを包む。



「……詳しく、お願いしようか~?」



 イザークも彼女と同じぐらい、意地悪な声で返答する。





「この島、誰もいないでしょ。だからわたし達が色んなことしても怒られないと思うんだよね」
「ボクもそう思いますわマジで」

「え……で、でもさ、ここの入り口ってあの魔法陣だよね。公園にあるなら誰かにばれちゃうんじゃ……」
「あの公園って寂れていたじゃん。それってつまり誰も来ていないってことでしょ。それに発見されているなら、公園とかじゃなくってもっと整備されていると思うなぁーカタリナぁー」
「あ、うん……そうかも……?」


「この島にも言えることだけど、こんなに自然が野晒しになっているのって結界で存在が知られていないからじゃないかな? それならきっとばれないよっ」


 そわそわした様子で、早口で持論を展開するエリス。




 提案された三人はまた考え込んでいたが――



「――オレは賛成だ」


 一番最初にアーサーが声を上げた。




「……本当?」
「ああ。きっとあの石柱を作った連中も喜んでくれるだろうさ」


 アーサーは顔を背けたまま言い放つのだった。




「……へへっ。アーサーに先に言われちまうとはなあ。ボクも大賛成一択だぁ!」
「あたしも……賛成!」


 イザークとカタリナも笑顔で手を挙げた。エリスは嬉しそうに微笑みを返す。


「……えへへっ、ありがとう」
「いいっていいって! よし、そうと決まったら準備しないとな! 夏休みでここに置けそうなもん探してくるわ!」
「家に何かあったかなあ……」
「意外な物があるかもしれませんよ、お嬢様」


 イザークとカタリナはわいわい呟きながら、魔法陣に足を進める。


「わたし達も探してこないと。ね、アーサー」
「……そうだな」


 彼はその場から一切動かずに、水平線の彼方をじっと見つめていた。


「探してこないと、だな――」





 好奇心に煌めく海と、探求心に染められる夕暮れ空が。



 ほんの少しアーサーの顔を照らした。





「あ……!」

「ねえアーサー! 今、笑ってた! 笑ってたよ!」



 エリスにそう駆け寄られて、アーサーは我に返ったような表情になる。



「……笑っていた? オレが?」
「うん! 今笑顔になってた! アーサーが笑っているの、初めて見た……!」
「……そうか」


 はっとするアーサーと、心の底から嬉しそうなエリス。


「みんなにも言わなきゃ。アーサー、とてもいい笑顔だった……」
「……やめろ。あいつに知られたらまた厄介なことになる……」
「そう?」
「そうだ。これは……その……」


 言葉を濁して俯くアーサーに、その真意を察したエリス。


「……わかった。わたしとアーサーの『秘密』、だね!」
「……ああ」



「おーい! オマエら何やってんだー!」
「もう日も暮れちゃうし、早く帰ろうー!」
「はーい! 今行くよー!」



 歩き出すその直前に、二人はこのようにやり取りをした。



「……感謝、する」
「……うん!」
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