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周りを見る目 見られる目 (ゲオハルト視点)
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晩餐会から三日目の昼すぎに俺が騎士団の練習場に入った時リヒト殿下は既に騎士たちの指導を終えたあとだった。
彼の姿は既になく死屍累々といった様子の騎士たちが床に転がっていた。
動けるものは倒れたものの世話に忙しく俺が練習場に来たということに気づいたものはごく少数だった。
そしてその少数の視線が俺を見た瞬間に哀れみを含んだことに頭に血が上る。
(皆俺がリヒト殿下に襲われたことをしっているのか)
ひよっこ共に向けられた哀れみに自尊心が傷つけられる。それと同時に思い出してしまった甘い刺激が体の奥を疼かせたことに絶望をする。たったの二日で作り変えられた己の嗜好が恐ろしくそのまま動けずしばらく練習場の入り口で固まってしまった。
「おやおやリヒトのやつだいぶ派手にやったな」
後ろから聞こえてきた耳障りの良いビロードのような艶のある声に振り向くとそこには第二王子殿下がいた。
「アルベルト様」
「やあゲオハルト。久しいな。愚弟が迷惑をかけていないかい。あいつは顔も頭もいいが人の言うことは聞かないからな。君に迷惑をかけていないか兄として心配だ」
にっこりと人当たりのよい笑顔を俺に向けるアルベルト殿下。耳の下で切りそろえられた夜色の髪に金色の瞳、色彩も顔立ちもほぼ同じだというのにアルベルト様とリヒト様から受ける印象はだいぶ違う。背がリヒト様より若干低く線も細いので第一印象は優しげである。がこの方は優れた知性を柔らかな印象で隠しており三兄弟殿下たちのなかで一番判断に容赦がないということは貴族たちには知られていることだ。
(この笑顔の下に今日は何を思っていらっしゃるのやら)
「お久しぶりです。先日の式典ではろくにご挨拶も出来ず失礼しました」
「なぁに。引きこもり辺境伯がやっと顔を出してくれたんだ。それだけで十分。それにこれからはもう少し私達とも親しく話す機会も増えよう。なんせ弟の愛しの君だよろしくたのむ」
「愛しの君?!」
殿下が知らないわけがないのだがリヒト様とのことを知られていると思うとげっそりとした気分になる。
リヒト様に対してではなくあの方にすがって罪悪感を軽くしたいと思った自分に対しての嫌悪感は今も俺の心の奥から消えないでいる。
「何を驚く?二日も部屋にこもっておいて。常人ならさておきあのリヒトだぞ?外面は良いがご令嬢には全く興味をもたずに君以外の他人への興味が薄い。だから兄も私も心配していたんだ。それが私達に頼み込んで思いを成就させた。兄として弟の情緒がちゃんと成長していて嬉しくて涙がこぼれたよ」
涙を拭う真似までするアルベルト殿下はいつもより砕けていらっしゃる。
それ、面白がって笑いすぎて出た涙では。と思ったが言わないでおいた。王族がどんなに親しげにしてきても己の中の線引を間違えるとろくなことにならない。
ふとアルベルト殿下の表情が引き締まった。
さらに一歩間をつめて俺を強く見つめてくる。
「だが弟を泣かせたら私達が黙っていないことを忘れるな」
この殿下方は私達が思っていたほど仲が悪かったわけではなかったのか。いらぬ勘ぐりまでして辺境に引きこもっていた自分の愚かさに笑いがこぼれた。
「何を笑う?」
「長年生きていても何も見えていないものだと思いまして」
「君は人の上に立つ立場の割には周りを見ないようにしてきたからな。少しは気をつけないと君の足元をすくいたい奴らはこれからも出てくる。リヒトと君が辺境を固め私達が国を支えなくてはならない、くれぐれも頼むぞ」
「は」
「ひとまず騎士団の鍛え直しからだな。昼も夜も若いもの相手ですまないがよろしくな」
そう言うとアルベルト殿下は俺の肩を一度たたき踵を返した。
「は」
生真面目に頭を下げてアルベルト殿下を見送ったあと最後の言葉はからかわれたのだと俺はやっと気づいた。
(だから腹芸は苦手なんだ!)
顔を赤くし頭を抱えた俺にいくつもの床からの視線が刺さるのを感じる。
(明日からの訓練おぼえておけ!!)
俺は素振りのための木剣を手にし練習場の隅へと向かった。
彼の姿は既になく死屍累々といった様子の騎士たちが床に転がっていた。
動けるものは倒れたものの世話に忙しく俺が練習場に来たということに気づいたものはごく少数だった。
そしてその少数の視線が俺を見た瞬間に哀れみを含んだことに頭に血が上る。
(皆俺がリヒト殿下に襲われたことをしっているのか)
ひよっこ共に向けられた哀れみに自尊心が傷つけられる。それと同時に思い出してしまった甘い刺激が体の奥を疼かせたことに絶望をする。たったの二日で作り変えられた己の嗜好が恐ろしくそのまま動けずしばらく練習場の入り口で固まってしまった。
「おやおやリヒトのやつだいぶ派手にやったな」
後ろから聞こえてきた耳障りの良いビロードのような艶のある声に振り向くとそこには第二王子殿下がいた。
「アルベルト様」
「やあゲオハルト。久しいな。愚弟が迷惑をかけていないかい。あいつは顔も頭もいいが人の言うことは聞かないからな。君に迷惑をかけていないか兄として心配だ」
にっこりと人当たりのよい笑顔を俺に向けるアルベルト殿下。耳の下で切りそろえられた夜色の髪に金色の瞳、色彩も顔立ちもほぼ同じだというのにアルベルト様とリヒト様から受ける印象はだいぶ違う。背がリヒト様より若干低く線も細いので第一印象は優しげである。がこの方は優れた知性を柔らかな印象で隠しており三兄弟殿下たちのなかで一番判断に容赦がないということは貴族たちには知られていることだ。
(この笑顔の下に今日は何を思っていらっしゃるのやら)
「お久しぶりです。先日の式典ではろくにご挨拶も出来ず失礼しました」
「なぁに。引きこもり辺境伯がやっと顔を出してくれたんだ。それだけで十分。それにこれからはもう少し私達とも親しく話す機会も増えよう。なんせ弟の愛しの君だよろしくたのむ」
「愛しの君?!」
殿下が知らないわけがないのだがリヒト様とのことを知られていると思うとげっそりとした気分になる。
リヒト様に対してではなくあの方にすがって罪悪感を軽くしたいと思った自分に対しての嫌悪感は今も俺の心の奥から消えないでいる。
「何を驚く?二日も部屋にこもっておいて。常人ならさておきあのリヒトだぞ?外面は良いがご令嬢には全く興味をもたずに君以外の他人への興味が薄い。だから兄も私も心配していたんだ。それが私達に頼み込んで思いを成就させた。兄として弟の情緒がちゃんと成長していて嬉しくて涙がこぼれたよ」
涙を拭う真似までするアルベルト殿下はいつもより砕けていらっしゃる。
それ、面白がって笑いすぎて出た涙では。と思ったが言わないでおいた。王族がどんなに親しげにしてきても己の中の線引を間違えるとろくなことにならない。
ふとアルベルト殿下の表情が引き締まった。
さらに一歩間をつめて俺を強く見つめてくる。
「だが弟を泣かせたら私達が黙っていないことを忘れるな」
この殿下方は私達が思っていたほど仲が悪かったわけではなかったのか。いらぬ勘ぐりまでして辺境に引きこもっていた自分の愚かさに笑いがこぼれた。
「何を笑う?」
「長年生きていても何も見えていないものだと思いまして」
「君は人の上に立つ立場の割には周りを見ないようにしてきたからな。少しは気をつけないと君の足元をすくいたい奴らはこれからも出てくる。リヒトと君が辺境を固め私達が国を支えなくてはならない、くれぐれも頼むぞ」
「は」
「ひとまず騎士団の鍛え直しからだな。昼も夜も若いもの相手ですまないがよろしくな」
そう言うとアルベルト殿下は俺の肩を一度たたき踵を返した。
「は」
生真面目に頭を下げてアルベルト殿下を見送ったあと最後の言葉はからかわれたのだと俺はやっと気づいた。
(だから腹芸は苦手なんだ!)
顔を赤くし頭を抱えた俺にいくつもの床からの視線が刺さるのを感じる。
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俺は素振りのための木剣を手にし練習場の隅へと向かった。
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