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◇八話◇
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「――ってぇ」
手首をふりながら、床に座りこんだユーグがくやしげに呟く。
「腕をあげたね、きみも」
ランヴァルドは余裕の表情で、それがよけいにユーグをいらだたせた。
副団長をつとめるだけあって、ランヴァルドの腕前は化け物かと思うほどのものだった。
普通の団員ではまったく歯が立たない。
そのなかで言えば、ユーグはよくやったほうだった。
「ユーグ! だいじょうぶですか⁉」
しかし響いたオデットの声、ランヴァルドの横を通りすぎ、ユーグに駆け寄った彼女に、
ランヴァルドは青い目を見開いた。
「は? オデット? どうしてこんなとこにいるんだ?」
「それはいいのです、あなたこそなにをバカなことをしているんです!
ランヴァルド様に挑むなんて!」
「バカなことってなんだ、俺だってそれなりに強いぞ」
「知っていますけど、ランヴァルド様にかなうはずないでしょう!」
もうっ、と言って治癒術を使うオデットと、
それに勝ち誇ったように笑ったユーグ。
「……、オデット」
聞こえないくらいの声で彼女の名を呼んで。
ランヴァルドはその場からはなれた。
自分には決して見せてくれない顔をする。
ユーグの前では、彼女は自然体でいる。
それがひどくランヴァルドをいらだたせた。
……。
「……夫といえども、幼馴染にはかなわないのねえ」
ふふっ、と笑ってランヴァルドの執務室に顔をだしたのはアンネリースだった。
「なにか用なのかい? 私にとってのきみは疫病神に近しいのだが」
そっけなく答えるランヴァルドに、アンネリースはふんと鼻を鳴らす。
「このあいだオデットが大ケガをしたの、あなたを庇ったからだったのね。
わたくし、あのこがそこまであなたを想っていたなんて知らなかったわ」
「……、どうかな、政略結婚でなければ彼女が誰を夫に選んだのか、
かんたんに想像がつくよ」
「あら、さすがに拗ねたの?」
アンネリースはさもおかしそうに笑う。
まるでいたずらっこのようだ。
「オデットにとってあなたは憧れの王子様なのよ、
ユーグは家族のようなもの、だからしようがないじゃない」
「――これ以上、いらだたせないでくれないか」
「あら不満? ユーグは男として見てもらえていないのに」
すっとアンネリースが執務机に近づいて手をつき、
ランヴァルドの顔をのぞきこむ。
「わたくしすこし考えをあらためたのよ、
あのこがそんなにあなたを好きなら、認めてあげなくもないって」
「そう言うのなら、彼女の誤解をとくのとともに、
これ以上私の近くによらないでくれないか」
「考えてあげなくもないわ。だけどもともと、あの子がこんなにあなたを信じないのはあなたのせいでもあってよ。
わたくしがなにか言ったからって、信じるかはわからないわ」
「過去の自分を恨んでしまいそうだよ」
無駄なことだけどね、とランヴァルドはため息を吐く。
「……ねえさん」
執務室の扉の前にオデットはいた。
ランヴァルドがなにも言わずに立ち去ってしまったので、
心配になって追いかけて来たのだが。
会話は聞こえないまでも、姉の声が聞こえたので入室をためらった。
(帰りましょう……)
そのまま、オデットはそこからはなれた。
姉のことは好きだ。
だが、ランヴァルドと姉が一緒にいるのを見ると、
心のなかに嫌な感情がわいてくる。
それによってオデットはまた自己嫌悪におちいっていた。
もしも本当にランヴァルドがオデットを想ってくれていたら。
きっととても幸せだ。
魔術師として役に立たなくなっても、彼のそばにいたいと思う。
ただ、どうしても信じるのが怖かった。
もしかしたらと思うことは多くなったのだが。
手首をふりながら、床に座りこんだユーグがくやしげに呟く。
「腕をあげたね、きみも」
ランヴァルドは余裕の表情で、それがよけいにユーグをいらだたせた。
副団長をつとめるだけあって、ランヴァルドの腕前は化け物かと思うほどのものだった。
普通の団員ではまったく歯が立たない。
そのなかで言えば、ユーグはよくやったほうだった。
「ユーグ! だいじょうぶですか⁉」
しかし響いたオデットの声、ランヴァルドの横を通りすぎ、ユーグに駆け寄った彼女に、
ランヴァルドは青い目を見開いた。
「は? オデット? どうしてこんなとこにいるんだ?」
「それはいいのです、あなたこそなにをバカなことをしているんです!
ランヴァルド様に挑むなんて!」
「バカなことってなんだ、俺だってそれなりに強いぞ」
「知っていますけど、ランヴァルド様にかなうはずないでしょう!」
もうっ、と言って治癒術を使うオデットと、
それに勝ち誇ったように笑ったユーグ。
「……、オデット」
聞こえないくらいの声で彼女の名を呼んで。
ランヴァルドはその場からはなれた。
自分には決して見せてくれない顔をする。
ユーグの前では、彼女は自然体でいる。
それがひどくランヴァルドをいらだたせた。
……。
「……夫といえども、幼馴染にはかなわないのねえ」
ふふっ、と笑ってランヴァルドの執務室に顔をだしたのはアンネリースだった。
「なにか用なのかい? 私にとってのきみは疫病神に近しいのだが」
そっけなく答えるランヴァルドに、アンネリースはふんと鼻を鳴らす。
「このあいだオデットが大ケガをしたの、あなたを庇ったからだったのね。
わたくし、あのこがそこまであなたを想っていたなんて知らなかったわ」
「……、どうかな、政略結婚でなければ彼女が誰を夫に選んだのか、
かんたんに想像がつくよ」
「あら、さすがに拗ねたの?」
アンネリースはさもおかしそうに笑う。
まるでいたずらっこのようだ。
「オデットにとってあなたは憧れの王子様なのよ、
ユーグは家族のようなもの、だからしようがないじゃない」
「――これ以上、いらだたせないでくれないか」
「あら不満? ユーグは男として見てもらえていないのに」
すっとアンネリースが執務机に近づいて手をつき、
ランヴァルドの顔をのぞきこむ。
「わたくしすこし考えをあらためたのよ、
あのこがそんなにあなたを好きなら、認めてあげなくもないって」
「そう言うのなら、彼女の誤解をとくのとともに、
これ以上私の近くによらないでくれないか」
「考えてあげなくもないわ。だけどもともと、あの子がこんなにあなたを信じないのはあなたのせいでもあってよ。
わたくしがなにか言ったからって、信じるかはわからないわ」
「過去の自分を恨んでしまいそうだよ」
無駄なことだけどね、とランヴァルドはため息を吐く。
「……ねえさん」
執務室の扉の前にオデットはいた。
ランヴァルドがなにも言わずに立ち去ってしまったので、
心配になって追いかけて来たのだが。
会話は聞こえないまでも、姉の声が聞こえたので入室をためらった。
(帰りましょう……)
そのまま、オデットはそこからはなれた。
姉のことは好きだ。
だが、ランヴァルドと姉が一緒にいるのを見ると、
心のなかに嫌な感情がわいてくる。
それによってオデットはまた自己嫌悪におちいっていた。
もしも本当にランヴァルドがオデットを想ってくれていたら。
きっととても幸せだ。
魔術師として役に立たなくなっても、彼のそばにいたいと思う。
ただ、どうしても信じるのが怖かった。
もしかしたらと思うことは多くなったのだが。
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