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二部
◇ザクセンとランヴァルド◆
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その翌日、アーノルト伯爵邸の入り口ではお互いに笑顔であるものの、
ぎすぎすとした空気で会話するランヴァルドとザクセンの姿があった。
「やぁ、久しぶりだなランヴァルド。きみが結婚していたとは知らなかった」
「あぁ、久しぶりだね。せっかく来てくれたところ悪いのだが、今日も私は仕事があってね、帰ってくれると助かるのだが」
「ご苦労様。だが、おまえに用はないのでかまわない」
「オデットに用事があるのなら帰ってくれ、彼女は体調を崩していてね」
「それはいけない、昨日のお礼も言いたいし、ぜひ会わせてくれないか」
「話、聞いていたかい?」
「おまえのほうこそあいかわらず性格が悪いな。
なぜ姉のほうに懸想していたおまえが彼女と結婚しているんだ、おかしいだろう」
「きみはいったい何年前の話をしているのかな?
それに、きみこそオデットを見たのは幼いころだろう、いつまで引きずっているんだ」
「俺にとっては初恋の女性なんだ」
「すでに彼女は私の妻だ」
「別れろ」
「断る」
互いに笑みを崩さないまま、言葉だけがとげとげしくなっていく。
じつは、ザクセンはオデットがちょうど騎士団に入隊したくらいの頃、彼女に会っている。
正確にはランヴァルドと一緒に遠目に見たくらいなのだが、一目ぼれをしたらしいことは知っていた。
そのころのランヴァルドもまた、オデットに興味を持っていたのでよく覚えている。
ただ、まだ当時は恋と呼べるほどのものではなかったが。
そして現在、ザクセンはあいかわらず彼女を諦めていなかったらしい。
嫌な予感はしていたのでオデットに彼とは親しくないと嘘をついたが、
実際のところは幼馴染に近しい。
「きみもいい加減あたらしいひとを見つけるといい、オデットのことは諦めてくれ」
「この裏切り者め、聞けば政略結婚だったというじゃないか。どうせおまえのほうがむりやり彼女を奪ったんだろう? というかなぜ姉にしなかったんだ」
「私もオデットのことを愛しているからね」
「よくもまあ堂々と言えたものだな。まぁ、いい。おまえがここをとおさないことくらい最初から分かってたからな。
おまえは、そ、う、い、う、性、悪、だ、ってな」
「なにか企んでいそうだね。彼女を傷つけるようなことをするなら容赦しないよ?」
「さんざん傷つけてきたおまえにだけは言われたくない。俺は何も企んでなどいないし、何もしていないが、せいぜい愛妻に愛想つかされないようにがんばるんだな」
「――……」
その言葉の意味を、ランヴァルドは騎士団本部にでむいてすぐに知ることになる。
――疲れきったような顔をしたアードルフから命じられたのは、
隣国からやってきた姫君の護衛任務だった。
……その頃。
「ふふふ、抜け駆けの代償だランヴァルド、ざまあみろ」
「アンタも性格悪いねェ」
別室で待機していたザクセンの呟きに、桃色の髪に薄い緑の瞳を持つ女騎士、アニタがスレた口調で言う。
「おまえにだけは。おまえにだけは言われたくない」
「ま、あの頭スッカラカンなお姫様のことだしぃ? あぁいう王子様系な騎士ってそれだけでイイんでしょーね、アンタと違って」
護衛がザクセンとアニタだと言われた姫君はそれはもう駄々をこねた。
こんな陰気で地味な色をしたモブみたいな騎士は嫌だとか、
アニタはなんか性格悪そうだから嫌だとか、それは正しいのだが。
「どんなに顔がよくっても妻帯者じゃチャンスもクソもないじゃない、あー、どっかに金持ちで扱いやすそうな男が落ちてないかしら?」
「おまえも難儀だな。そういう性格でなきゃ貰い手がなくもないだろうに。
顔は選ばない主義なんだろう?」
そういう、というのは、なんだかんだでアニタは真面目だということだ。
普段はこんなふうだが、彼女には彼女の流儀がある。
年の離れた金持ちとの縁談もあったようだが、彼女は彼女の信念を貫き破談になった。
「三つ子の魂百までよ。ほっといて」
ふん、と顔をそむけたアニタに、ザクセンはため息を吐いたのだった。
ぎすぎすとした空気で会話するランヴァルドとザクセンの姿があった。
「やぁ、久しぶりだなランヴァルド。きみが結婚していたとは知らなかった」
「あぁ、久しぶりだね。せっかく来てくれたところ悪いのだが、今日も私は仕事があってね、帰ってくれると助かるのだが」
「ご苦労様。だが、おまえに用はないのでかまわない」
「オデットに用事があるのなら帰ってくれ、彼女は体調を崩していてね」
「それはいけない、昨日のお礼も言いたいし、ぜひ会わせてくれないか」
「話、聞いていたかい?」
「おまえのほうこそあいかわらず性格が悪いな。
なぜ姉のほうに懸想していたおまえが彼女と結婚しているんだ、おかしいだろう」
「きみはいったい何年前の話をしているのかな?
それに、きみこそオデットを見たのは幼いころだろう、いつまで引きずっているんだ」
「俺にとっては初恋の女性なんだ」
「すでに彼女は私の妻だ」
「別れろ」
「断る」
互いに笑みを崩さないまま、言葉だけがとげとげしくなっていく。
じつは、ザクセンはオデットがちょうど騎士団に入隊したくらいの頃、彼女に会っている。
正確にはランヴァルドと一緒に遠目に見たくらいなのだが、一目ぼれをしたらしいことは知っていた。
そのころのランヴァルドもまた、オデットに興味を持っていたのでよく覚えている。
ただ、まだ当時は恋と呼べるほどのものではなかったが。
そして現在、ザクセンはあいかわらず彼女を諦めていなかったらしい。
嫌な予感はしていたのでオデットに彼とは親しくないと嘘をついたが、
実際のところは幼馴染に近しい。
「きみもいい加減あたらしいひとを見つけるといい、オデットのことは諦めてくれ」
「この裏切り者め、聞けば政略結婚だったというじゃないか。どうせおまえのほうがむりやり彼女を奪ったんだろう? というかなぜ姉にしなかったんだ」
「私もオデットのことを愛しているからね」
「よくもまあ堂々と言えたものだな。まぁ、いい。おまえがここをとおさないことくらい最初から分かってたからな。
おまえは、そ、う、い、う、性、悪、だ、ってな」
「なにか企んでいそうだね。彼女を傷つけるようなことをするなら容赦しないよ?」
「さんざん傷つけてきたおまえにだけは言われたくない。俺は何も企んでなどいないし、何もしていないが、せいぜい愛妻に愛想つかされないようにがんばるんだな」
「――……」
その言葉の意味を、ランヴァルドは騎士団本部にでむいてすぐに知ることになる。
――疲れきったような顔をしたアードルフから命じられたのは、
隣国からやってきた姫君の護衛任務だった。
……その頃。
「ふふふ、抜け駆けの代償だランヴァルド、ざまあみろ」
「アンタも性格悪いねェ」
別室で待機していたザクセンの呟きに、桃色の髪に薄い緑の瞳を持つ女騎士、アニタがスレた口調で言う。
「おまえにだけは。おまえにだけは言われたくない」
「ま、あの頭スッカラカンなお姫様のことだしぃ? あぁいう王子様系な騎士ってそれだけでイイんでしょーね、アンタと違って」
護衛がザクセンとアニタだと言われた姫君はそれはもう駄々をこねた。
こんな陰気で地味な色をしたモブみたいな騎士は嫌だとか、
アニタはなんか性格悪そうだから嫌だとか、それは正しいのだが。
「どんなに顔がよくっても妻帯者じゃチャンスもクソもないじゃない、あー、どっかに金持ちで扱いやすそうな男が落ちてないかしら?」
「おまえも難儀だな。そういう性格でなきゃ貰い手がなくもないだろうに。
顔は選ばない主義なんだろう?」
そういう、というのは、なんだかんだでアニタは真面目だということだ。
普段はこんなふうだが、彼女には彼女の流儀がある。
年の離れた金持ちとの縁談もあったようだが、彼女は彼女の信念を貫き破談になった。
「三つ子の魂百までよ。ほっといて」
ふん、と顔をそむけたアニタに、ザクセンはため息を吐いたのだった。
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