ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ

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二部

◇離縁の覚悟◆

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 ユーグが屋敷をでるのと一緒にオデットも外へ出た。
「大丈夫なのか? オデット」

「――、あなたに隠し事はできませんね。でも、だいじょうぶ、ですよ」
 朝の澄んだ空気が満たす晴天のなか、オデットは力なく微笑む。
「とてもそうは見えないんだが、事情は話せないのか?」

「ええ、ごめんなさいユーグ」
 ぺこりと頭をさげると、おおきな手が優しく撫でる。
「気にするな、話したくないことなら無理には聞かないさ」
「……はい。それでは」

 ……。
 その後オデットはアーノルト伯爵邸の近くに向かい、物陰に隠れてランヴァルドが出ていくのを見送った。
 本当なら、その背を追いかけてすべて話してしまいたかったが、理性のかぎりを尽くして耐える。
 ランヴァルドの姿が完全に見えなくなってしばらくしてから、彼女は詠唱をはじめた。

 本来は敵から身を隠すための術だが、今はただ姿を隠すため、他人には見えない姿となって伯爵邸に忍び込む。
 仲良くなった使用人にも気づかれることなく、オデットが向かうのはランヴァルドの執務室だった。
 周囲を確認して忍び込み、書類の山からサインのはいったものを探す。

 ――……本来なら犯罪だ。
 だが、今はこれ以外に方法がなく、ツェリアもおそらくこうするしかないことを分かっていて言っている。
 オデットは、これができるだけの力ある魔術師だった。

 術を解いて姿を現し、書類の一枚を離縁状に重ねる。
 そしてまた詠唱をし、ランヴァルドのサインを複製する。
 これしかできない。

 彼は怒るだろうか、あきれるだろうか……悲しむだろうか。
「――っ」
 かぶりを振って、二人分のサインが入った離縁状を封筒に戻そうとして――。

 低く冷たい声がして、離縁状を握っていた手をうしろから掴まれる。
「これはどういうことだい、オデット」
「きゃぁっ?」

 その声はよく知ったもので、そして、こんなに冷たい彼の声を聞いたことはなかった。
「ランヴァルド様……ど、して……」
 震える声でオデットがふりかえった先、彼の青い瞳は今まで見たこともないほど悲しそうだった。
 たしかに姿が見えなくなるまで見送ったのに、なぜ?

「屋敷の近くに潜んでいる者の気配を感じて、追って来れば姿を隠して忍び込むのが見えたのでね。まさか、きみだとは思わなかったが」

 窓から忍び込んだのがよくなかったのか、ひとりでに開く窓は誰でも不審に思うだろうが……そもそも、彼の場合はどこから忍び込もうとも見つけたかもしれない。
 ぐいと身体を抱き寄せられて、逃げることもできなくなったオデットは青ざめる。

「オデット、納得のいく理由を聞かせてくれるのだろうね?」
「そ、れは……っ」

 震える声を絞り出すが、うまい言い訳が見あたらない。
 そもそもこんな状態でなにをどう言い訳するのだろう。
 もはや、逃げるしかない。

 そう思った彼女が小さく詠唱を始めようとしたとき、それを塞ぐように唇が重なる。
「――ん、んんっ」
 舌を絡める濡れた音が室内に響き、くらくらと眩暈さえ感じた。
 足が震え、オデットに抵抗する力がなくなった頃になってようやく唇がはなれた。

「悪い子だね、オデット。理由があるのは分かっているのに、意地悪をしたくなってしまうよ」
 少し悲しそうに呟いて、ランヴァルドはオデットの額にキスをする。
 離縁状を取りあげられ、なんとか取り戻そうとするのだが、身のこなしでランヴァルドにかなうはずもなかった。

「オデット、お願いだからきちんと事情を話してくれないか?
 私は、そんなにも頼りない夫なのかい?」
 心配するような声音と、悲しそうな彼の顔を見て、オデットはついに抵抗をやめた。
 その紫色の瞳からぽろぽろと透明な雫が零れ落ちていく。

「ランヴァルド様……これは……」
 このようなことをした理由を口にするのは恐ろしかったが、
 緊張の糸が切れたように、オデットはすべてを話した。
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