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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
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しおりを挟む「グス……シャル……花束、ぁ……ありがとうな。その……なか、仲直りの印に、貰ってやる。お返しだからな。ちゃんと魔法で永久に凍らせて、けっして枯れないように保存して、魔王城の宝として奉るぜ。感謝の気持ちだからな。仲直りの印だしな。だから……未来永劫崇めるようにするしかねぇしな」
「いや、するしかなくないから普通に使ってくれ。薬だからな。使ってくれ」
落ち着き早々復活した困った発言に、つい待ったをかける。するとパッと俺の頭から顔を離し、なにを言ってるんだ? とでも言いたげな顔をされた。
ついさっきまで泣いていたので、目がうさぎのように真っ赤だ。
なにを言ってるんだはこっちのセリフだぞ。このうさちゃん魔王め。
本人は泣いていたのが恥ずかしいのか、ややツンツンしているものの、至って真剣に言っていたのでより意味がわからない。
やっぱりコイツは少しおかしい。
ちょっと前までシリアスな雰囲気の仲直りハッピーエンドでいい感じだったのに、どうにも締まらなかった。
まぁそういうところがアゼルがアゼルたる所以なのだが。
少しかわいくてクスリと笑ってしまう。
「なんで笑うんだ、オイ……ま、まさか足りねぇのか? 御神体にしたほうが嬉しいか?」
「いや使ってくれたほうが嬉しい」
どうしてお茶にして飲むという使い道のものを御神体にして崇めるんだ。どうしてそうなった。
魔界の月はとても明るいので、月明かりの中でも相手の顔がよくわかる。
なのでアゼルが絶望感を滲ませた表情で、犬耳でも見えそうなほどキューンとしょげているのが、クリアに見えた。
「グルルル……あのな? 弱小人間たちは知らないかもしれねーけど、使ったらなくなるんだぜ?」
「……そうだな……」
うん、この顔はあれだ。ガドが俺をハムスター扱いする時の顔だ。
ものわかりの良くない子どもに言い聞かせるように優しく言われてしまい、俺は悟った表情で頷いた。気分は保育士さんである。
だがこれだけ顔を近づけると、薄らと隈があることに気がついた。
昨晩はろくに眠れていないのに、仕事をし続けていたのだろう。
俺はくっと唇を噛み締め、真剣な顔をする。早く疲労回復に役立てないと、俺の頑張りの意味がない。
意気込みを胸に抱き、手に持っていた花束をすぐそばのテーブルに置いて、がっしりとアゼルの両肩を掴んだ。
「聞け……! なくならないんだ、アゼル。この花は使っても、存在し続ける。そう……心の中に……!」
「な、なんだと……!?」
「だからこれをお茶にして飲み、しっかりと休むんだ。俺が採ってきたアーライマの分まで、元気に生きろ……!」
「! そうか……! そうだな、シャルが採ってきた……シャルの分身みたいなもんだもんな……!」
「そうだ……! 俺のぶんまで健やかに生きるのだ!」
「なら仕方ねぇ、わかった! 俺は健康には自信がある。この花はお茶にして飲み、病原菌は滅殺して明朗快活に生きるぜ!」
「よく言った!」
わざと大仰な言い方をした俺は熱血系精神論を語り、よーしよし! とアゼルのサラサラふかふかの艷やかな髪を勢いにまかせてなで繰り回した。
アゼルは突然のなでなでに頬を真っ赤に染め、両手で顔を覆って「ひぅぁぇぇ……!」とよくわからない悲鳴をあげる。
髪がボサボサになったから怒るかもしれないと思ったが、発作か。
うん。これでこそいつものアゼルだな!
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