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一章 魔王城、意外と居心地がいい気がする。
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しおりを挟むちなみにアゼルの髪は触り心地がよくて、なでやすかったぞ。
そういえば初めて会った時も前髪がぴょんと跳ねていて、戦闘中なのについ和んでしまったのだった。
ぐしゃぐしゃにしたアゼルの髪を手櫛で整えてやりながら、ふと三週間前を思い出す。
殺さなければ居場所はないが、どう見積もっても勝ち目はなかったあの戦い。
あの日は緊張とあとに引けないプレッシャーの重みで、それなりに必死だったんだがな。
俺の攻撃を難なく躱し、当ててもケロッとしているチートな魔王。
彼がぴょんこぴょんこと変に癖のついた前髪を跳ねさせていたから、思わず笑ってしまった。
そのあと刹那で血だまりに沈められて、気がついたら檻の中。
そうやって今に至るのだが。
人生は予想外の連続だ。この世界に召喚されたことも、その一つである。
──くぅ~。
初めての出会いを思い返していると、不意に響いたのは本日二度目のハラヘリの鳴き声が響く。
俺が自分の腹を押さえるよりも、紅潮した顔をアゼルがそらすほうが早かった。ん、お前か。
「うぐ……あぁ~……お茶請けをつまんだ程度で、朝からろくなもん食ってねぇから、流石に自然現象……」
「こら。欠食はよくない。一日三食が健康の秘訣だ」
「あぁぅ……食欲なかったんだよ」
自分で言っておいて朝食を抜いている身に耳が痛いが、そういうことは棚の上にポイポイと投げ捨てる。
自分はいいんだ。勇者さんは頑丈だからな。勇者さん以外はちゃんとご飯を食べるんだぞ?
叱られたアゼルはバツが悪そうにした。俺はといえば腕を組んで顎に手を当て、思案顔。
正直に言うと……俺は今、自分の血を差し出したいと思っている。
だが、腹が減ったなら俺の血を吸ってくれ、とは言えなかった。
理由はもちろん、ガドに教えてもらった裏の意味のせいだ。
くっ……どう伝えればいいんだろう。
昨日のことには全く怯えていないということを伝える意味でも、自分から言うのが一番わかりやすい。
そして本来の必要価値という意味でも、今がベストでありそうしたいが……暗黙の誘い文句というものが。
少し考えて、瞬き二つ。すぐに言葉にしなければいいのか、と思い至った。
とすれば、あとは行動あるのみ。
「アゼル、アゼル」
「あ?」
アゼルに呼びかけ、首元を覆う襟の隙間に指を入れ、くっと引っ張り、いくらかはだけさせる。
俺ははだけた衣服の隙間がよく見えるように首をそらし、いつかのように晒された首筋をつんつんとつついた。
「ん」
「…………」
さぁ、腹ごなしに滋養強壮ドリンク──もとい勇者さんの血でもどうぞ、だ。
ん! と言って差し出す。
この技はかのツンデレ少年の伝説の技。これをされた相手が、受け取らないはずがない。──が。
アゼルは俺の意図がわかり、慌てたり照れたりとせわしなく表情を変化させたが、なぜか最終的にはキッと睨みつけてきた。
うぅん? いつものようにチラチラと伺いながらも食事をしてくれるかと思ったのに、どうしてだろうか。
「ぐっ……お前、昨日……怖かっただろうが。痛かっただろうし、あんなに強く拒絶したじゃねぇか。……無理に餌を全うしなくていいんだぜ? 俺は吸血鬼だけど、飲まなきゃ困るタイプの種類じゃねぇからな」
「拒絶? ……はっ、あ……あれは、違う。違うんだ」
「は? 触るなって、言ってたろ?」
悲しそうな雰囲気を醸し出しながら遠慮されて、俺は内心で焦る。
やはりアゼルは追い出された理由をわかっていなかったみたいだ。
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