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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
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しおりを挟む「ん。それじゃあ一緒に、お茶にしよう」
朗らかな心地になりながら、俺はバスケットの中から三つクッキーを取り出し、アゼルに手渡した。一つはライゼンさんのぶんだ。
「今日はな、いつもよりたくさん売れたぞ。だから余ったのは一つだけだ」
「くっ……そうかよ……お前の菓子が人気なのはいいことだ」
いい報告をしたつもりが、アゼルはなぜか言葉とは裏腹に目に見えてしゅーんとした。
アゼルは予約のお菓子を一つと、他に余っていれば全てお買上げしてくれる。
家畜と飼い主なので、こういうところも責任を取ってくれるみたいだ。
俺は迂闊に多めに作らないが、誰とも出会わなければ売り込みぶんは余る。
なので引き取ってくれるのはありがたい。
必然的に一番多く俺のお菓子を食べるのはアゼルになるため、彼の好みのお菓子を作りたいわけだ。
もちろんそこに他の理由はないぞ?
なんとなく、アゼルが美味しいと言ってくれることを考えて作っているだけである。
「グルル……俺が十倍の値段で買えば……いやでも働くのが楽しいとか奇妙な習性が……じゃあ買い占めれば合法的にお小遣いも……? いやいや、蓄財させると他の魔族に余計な勘繰りを……俺としても自立されるのはなんかこう、賛成できかねる……」
「? アゼル?」
「その、閉じ込めるとかじゃなくだぜ? 家畜だから、お、俺のものを自立させるわけにいかねぇって言う……!」
「アゼル、誰に言い訳をしているんだ? そして誰を閉じ込めるんだ?」
「ハッ!」
じっと受け取ったクッキーを見ているようで見ていない視線で貫きながら、ブツブツと謎の言葉を呟いていたアゼルに声をかけた。
ようやく我に返ったらしい。
買い占めるだとか合法的にだとか言っていたから、仕事の話なのかもだ。
「べべべ別になんでもねぇぜ!」と焦りながら、それ以上は語らず、アゼルはクッキーの一つを召喚魔法で収納した。
それを見て、改めて空軍基地での希望を思い出す。
やはり……いいな、召喚魔法。
生き物は入れられないが、これがあればバスケットを持ち歩かずにすむ。便利だ。
時間停止はしないが、生き物──つまりカビや雑菌もいないので劣化が遅いしな。
温度も常温一定。
広さは魔力量によるが。
ちなみにこれらの情報はついさっき、空軍基地で知ったものである。
オルガに魔法を習うと知ったガドと他の二人も、おい聞けさぁ聞け! と概要を語ってくれたのだ。
まるで知っていることを教えたくてたまらない子どものようだったぞ。
魔族は空気を読むだとかデリカシーには欠けるが、基本的に素直なのでいいことも悪いこともすぐに口に出してくれる。
言葉のまま受け取ってしまうところがある俺にとっては、かなり助かる素敵なウェキペディアさんたちだった。
閑話休題。
そんなこんなで俺は召喚魔法を覚えるべく、アゼルの腕をツンツンとつつく。
「アゼル、アゼル」
「はぅあッ!?」
「できればでいいんだが……魔封じのチョーカーを少しだけ解放してくれないか? 俺も召喚魔法を覚えたい」
「な! そんなのっ! ……う、いや……うぐぐ……仕方ねぇ……今だけだぞ? すぐに覚えろよ」
許可が貰えるかはわからなかったが、多少悩みつつも意外とあっさり許可を貰えた。
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