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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。

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 アゼルがツンツンと俺のチョーカーについた宝石を突くと、リン、と鈴のような音がする。

 面白くなさそうな顔で、これで少しくらいの魔力は使えるぜ、と告げられた。

 それからアゼルは人差し指を立てて、幼児に言い聞かせるようにピコピコと振る。


「いいか? 召喚魔法はな、出す時は〝あれ出してぇなー〟ってその物を思って指パッチンなりなんなりすんだよ。なにかしまいたい時は、物に触れながら〝これしまっとくか〟って思うんだぜ。ほら、やってみろ」

「そうか。……よし、駄目だった」


 天才肌がここにもいた。

 俺はとりあえず愚直に、言われたとおりしまおうと思いながらバスケットに触れてみる。が、当然のようにバスケットはそこにあった。うん。熟練度不足だ。

 アゼルは「なんでコレでできないんだ!?」とでも叫びそうなくらい、理解できない表情で困惑する。

 そして俺の手をキョロキョロと点検し始めた。違う、手じゃない。ポテンシャルの違いだ。

 俺は勇者だが、実は補正でなんでもかんでもすぐにできるチートな異世界人ではない。至ってノーマル。

 強いて言うならちょっと伸びしろがあり、成長が早かっただけの人間だな。

 この世界の勉強も鍛錬も、滅茶苦茶な努力でコツコツと身につけた。才能がない努力タイプの地味勇者である。

 強いてなにか珍しいことを挙げれば……うーん……吸血系の魔物と魔族に好かれやすいのは、血だけでなく俺の性質らしい。

 ……うん。それぐらいである。
 いいことはそんなにない。


「シャルさん……魔王様の体術や剣術は、弛まぬ努力の賜物です。しかし魔法に関してはセンスでどうとでもしてきたタイプですので、聞き流してください。どんな新魔法でも魔法であるなら秒殺します。本当に」

「やはりか」

「オイ聞き流すんじゃねぇ!」


 向かいの席に座りながら、ライゼンさんが諦めきった表情で助言をくれた。

 魔法でフワフワといい香りの紅茶が入ったカップがそれぞれの前に置かれる。

 アゼルは点検していた俺の手を握りしめたまま、心外そうに聞き流す宣言へ否を唱えるが、ライゼンさんがジト……と責めるような視線でアゼルを突き刺すだけだ。


「なんだその目は」

「いえ。魔界の闇魔力と相性のいい闇属性で、膨大な魔力量。見ればわかるが小細工なしにできる魔眼持ち。お陰様で魔法に関して私がお教えすることなど皆無でございましたよ、と」


 おそらく真逆の秀才タイプだったのだろうライゼンさんに呆れられ、アゼルはそっぽを向いて不貞腐れた。

 教えられたことがない魔法の使い方は、うまく教えられないと理解したらしい。

 なんだか親子みたいだな。
 魔界、やはりのどかである。

 ──それからしばらく後。

 一般人の俺が一瞬で召喚魔法を覚えられるわけがなかったため、練習できるよう魔封じの首飾りを緩めたままにしてもらえた。

 生活魔法が使える程度の小さな出力だが、これでようやく俺も魔法解禁である。

 アゼルは俺の願いを叶えてやりたい気持ちと脱走の不安で、とても複雑そうだった。

 しかし少しは俺の気持ちを信頼してくれる気になったのか、ソワソワしながらもそのままにしてくれたのだ。

 その変化はすごく嬉しかった。

 俺が魔王城の生活が好きだということが伝わっているのが、なんだか嬉しい。

 顔にはあまり出ていないかもしれないけれど、花が飛びそうなくらいポカポカと上機嫌な俺だった。




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