本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
134 / 901
三章 勇者と偽勇者と恩人勇者。

05

しおりを挟む


 蝶ネクタイがヒットした俺を尻目に、ユリスはいくらかの服を腕にかけて呆れ返っている。こっそりと蝶ネクタイは服の影に置いておいた。流石にこれはつけたくない。

 そして旦那力とはなんだ。
 俺が持っているものなのか?

 やっと恋人同士になっただけでまだ結婚はしていないが……はっ。そうか、俺がダーリンでアゼルがハニーなのか。


「よし。やはり魔界軍にでも就職して一兵卒になりつつお菓子屋さんと兼業して稼ぎを増やさないと」

「んー? なに? 欲しいものでもあるの? 買わなくてもあの浮かれた様子じゃ魔王様に〝あれいいなぁ〟って言うだけで即日コソコソ枕元に置いてると思うけどね、絶対」


 ユリスは服を探しつつ、雑に返事を返してくれた。それじゃあ本末転倒だぞ。


「お前は知らないだろうけど、魔王様ってホント数十年前は永久凍土だったから……むむむ、ギャップ最高な今の真っ赤な顔、僕に向けてもらう予定だったのにさっ」

「昔のアゼルのことは知らないが、今のあの顔は俺のものだ。そして俺が欲しいのは魔王を養う財力だ」

「まだ諦めてないのそれ」


 拳を握って心意気を見せると、ユリスは「魔王様ほどのお方だよ? お前が十回人生満喫してもあまりあるほど財宝溜め込んでるのに、意味ないから」と呟いて、アホを見る眼差しを向ける。


「それでもお金が欲しければ、魔物体になった魔王様のワンシーズンぶんの抜け毛を集めなよ。こっそり他国に売れば、お前が満喫する人生を一回増やせるからね」

「激レア魔物の毛すごいな……?」

「巨大化した魔物の蔓延る魔境にしか生息しない上に、夜以外滅多に姿を現さない魔境の生態系の頂点ことクドラキオンの毛なんだから、当たり前でしょ? 防具の内側に編み込んだら大抵の魔法は効かないよ。状態異常耐性付き」

「アゼルは抜け毛までチートなんだな……」


 見繕うのが終わったのか山盛り服を抱えてクローゼットを逆戻りするユリスの後ろで、俺はスケールが大きすぎて震えた。よくわからない。

 前の世界で例えるなら、サーモバリック爆弾くらいなら防げる強度を持つツチノコの脱皮した皮的なレア度なのかもしれないな。うまい例えが見つからなくて悩む。

 それから服をかき集めたあと。

 どっさりと絨毯の上に服を広げて、ユリスはこういうのが意外と好きだったのか機嫌よく俺に服を合わせだした。


「これなんてどう? 白くて綺麗で涼しいし! 僕こういうの好きだよ!」

「フリフリの肩出しはいけない!」


 真っ白い生地で細やかな植物柄の刺繍が施された袖や裾がフリフリした上の服を持って、俺の肌に合わせるユリス。

 俺はジャブが斜め上すぎて、久しぶりに大きな声で驚いた。

 というかなんでそのタイプの服が俺サイズであるんだケトマゴ家のクローゼット。


「肩出しってお前言い方が老いてるの! これはオフショル! あとこれへそ出し! ショート丈! 南の海街歩くならこのぐらい余裕でしょ? 今だってオフショルどころか上半身オフじゃん。見せつけてあげなよその腹立つ腹筋!」

「このキスマークを海街で晒したら俺の性生活がオフするだろう!? す、すまないがオフショル以外の上の服にしてくれ! へそも!」

「もおおお上の服ってトップスっていうの! 純情ぶってんじゃないよバカ! いい? おしゃれは自信っ! 恥を捨てたもん勝ちなんだから!」

「捨てたら負ける! 絶対負ける!」

「もーじゃあフリルついてないし黒いしへそも首も隠れるしこれにしよ!」

「それ背中が全部開いてるぞ!?」


 ──背中には噛み跡があるんだ!

 俺のなけなしの沽券が悲鳴を上げて、素早くユリスの手にある二枚のトップスをはぎとった。前途多難である。




しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

その男、ストーカーにつき

ryon*
BL
スパダリ? いいえ、ただのストーカーです。 *** 完結しました。 エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。 そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。 ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

処理中です...