本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
289 / 901
後話 欠陥辞書夫夫

03

しおりを挟む


「根本的な俺の指摘をわかってねーなぁ……。いいかァ? 仮にお前、今回みたいな面倒くさい敵に目をつけられて、敵わないのに戦うことになったら?」
「それは……とりあえず剣と魔力を返してもらう」
「それから?」
「筋トレと鍛錬だな。装備も新しく買いに行く。貯金があるからな」
「んでその後は?」 
「戦いに行くぞ」
「一人でだろ?」
「? それはそうだ。俺に目をつけたのなら、他の人を巻き込むのはよくない。できる限り強くなるよう努力する。もちろん人にも頼るぞ。優秀な人に戦い方を教わったほうがいいから、稽古をつけてもらおう」
「それェ」

 いや、どれだ。

 もう迂闊に死にかけないように努力もするし、道具も使うし、人も頼っている。

 俺は最大限頼りっきりの、おんぶにだっこなあまちゃんじゃないか?

 自分の発言を思い返してみても、俺はなにもガドを不服がらせる無謀なことは、思ってなかった。

 どうしたものかと悩みつつも、正直、意識改革は難しい。

 本当はあまり心配も掛けたくないから、ひっそりと敵を暗殺し、ひっそりと帰ってきたいのだが。

 それだと叱られるので、ああしたんだ。
 これ以上は譲るのに躊躇してしまう。

「その顔は、まだわかってねーなァ? じゃあもし魔王とすれ違ったままずっと絵画の力に縛られていたら、どうすんだ? ン?」
「もちろん絵のことを調べたり、異常を伝える方法を模索したり、きちんと抗ったに決まっている」
「んー……あのなァ、なんで俺んトコこねえの?」
「ん?」

 不満の声を上げられ、今度はそぉーっと額を叩かれた。

 叩かれたというか、なでられた。
 もう三回目だが、叩いていいんだぞ。

 合言葉はシャルさんは頑丈、だ。
 リピートアフタミー。今のは冗談だ。

「人が増えたらそれだけ視野も広がるし、誰かが変だと気がついたかもしんないだろー? それに伝わらなかったとしても、守ってって頼めば、うっかり切り刻まれることはなかったぜ。俺が刻まれる前に防御魔法貼れたかも知んねーし、お前より早く絵画に走れてたかも。かーも」

 そんなこと思いつかなくてぽかんと見つめると、ガドはかもかもと言いながらぐっと顔を近づけた。

 至近距離にやってきたのは、いつもと同じにんまりとした笑み。

 でもやっぱりその目は寂しそうに思えて……俺はしょんぼりと肩を落とした。

 昔の話を思い出したのだ。

 ガドは昔一緒に行ったアーライマ探索の時も、俺が落ちるかも知れないと言って心配したことがある。

 そして俺が大丈夫だと言って一人で登れば、珍しくしょげかえっていた。

「さっきの例え話で言うと、なんで俺に〝一緒に戦いに行ってくれ〟って頼まねェの? 前提がダメ。自覚がねぇのはもっとダメ。ダメシャル。俺を呼ばないシャルは、ダメの中のダメってやつだぜ」
「う……そ、その考え方は、なかったな……」
「くくく」

 有効な返答を持ち合わせていない俺がたじろいで負けを認めると、ガドは満足そうにほらな? とでも言いたげな表情をする。

 なるほど……。
 辞書にない、と言ったのはそういうことか。

 確かに、俺の選択肢にはソロしかない。

 ゲームで例えるとみんなで倒したほうが簡単な高難易度モンスターに、わざわざ一人で挑むといった感じか。

 だが言っている意味を理解しても、それが悪いことな気はしなくて、うまく納得してあげられなかった。

 誰かに面倒を分けたり大切な仲間を危険に晒すくらいなら、自分一人のほうが俺の心も気楽なのだ。

 だからますますわからない。
 けれどガドを悲しませたのが辛く、伺うような表情をしてしまった。

 ポンポンと頭をなでてやると、そっと抱き寄せられる。
 もちろん、物凄くゆっくりかつ、そぉーっと。

 死なないから普通に抱きしめてくれ。
 やはり冗談じゃなく、リピートアフタミーと言うべきだろうか。



しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

その男、ストーカーにつき

ryon*
BL
スパダリ? いいえ、ただのストーカーです。 *** 完結しました。 エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。 そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。 ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

処理中です...