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後話 欠陥辞書夫夫

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「一しか熟せない弱々のお前が、二も三も努力して、十の問題を熟そうとする。代わりにお前はボロボロだ。ボロボロに慣れてるから、お前は麻痺している。俺が手伝えばボロボロにはならないってのに……まぁボロぐらい」
「買いかぶり過ぎだと思うが……言いたいことはよくわかった」
「もっとちゃんとわかれ。俺はお前らを、そうしてやりてェの。それがお気に入りに対するガド長官の軍規だぜ。軍規違反はダメだ。わかれよォ」
「……うん、ありがとう。でももう十分頼って「ねェ」……ん、ん……そ、そうか」

 すっぱりと切り捨てられ、どぎまぎしてしまう。本気すぎる。

 そんなガドの気持ちには申し訳なさがあっても、心は嬉しかった。

 人に頼るのが苦手だ。
 無償で頼るのは不可能に近い。

 でもこう言って貰えると、次に本当に苦しい時は、ガドの手を取れる、かもしれない。

 俺は……大切だからこそ、弱さを見せたくない。

 自分の問題で傷つけたくないと言う気持ちのほうが大きい。
 弱いからと見捨てられたくない。弱いせいで守る為に傷ついてほしくない。

 守りたいのだ。
 俺は弱いが、それでも守りたいのだ。

 本当に嫌だから。
 自分が大切な人を傷つけるのはこりごりで、思い出すと自分が嫌いになる。

 あの夜ああ言ってくれたアゼルがいなければ、とっくに沼に嵌っていただろう。

 けれどきっと、頼ってほしいガドを頼らないのは、彼を傷つけるんだな。

 心で頷き、逞しい背中に腕を伸ばして背をなでる。

 なでられるのが好きな彼は、嬉しそうに話を続けて語りだした。

 自然に誰かに触れてもらえることこそない恐ろしい種族であるガドだが、自由人にも関わらず部下に慕われていて、頼り頼られするらしい。

 だめだと思ったら誰かに相談するし、逆に誰かから相談されることもある。

 持ちつ持たれつ。
 お互い大切な人ならば、それは当たり前のことだという。

 ガドは、俺もアゼルも大好きなんだと。
 だから除け者にするなと言われた。

 前はなにも言わなかったが、こう見えて過保護で心配性なガドは、ずっと不満だったんだろう。

 わかってはいても、頼られないというのは除け者にされていること。

 心配すらさせてもらえない。
 気がついたら終わっている。言わないでいるのはエゴなのだ。

 俺も混ぜろと恨みがましく告げられるが、ガドの機嫌は良さそうである。

 相変わらず触れ合うのが好きなんだな。

 殊更優しくなでてやると、ついにニマニマ喉を鳴らした。
 日向ぼっこしているトカゲみたいだ。

「意気揚々と頼れよォ。それにお前にキく言い方をするとなぁ……自分を守ることが、魔王を守ることなんだぜ?」
「アゼルを?」
「そそ。アイツにもそう言って、殴ってやったけどな」

 殴ったのか。

 ビクッとつい過剰に反応してしまうと、ガドはクククと笑いながらほぼ無傷だったけどな、と付け足した。よ、よかった。



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