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五皿目 元・勇者VS現・勇者
01
しおりを挟む絵画王子事件から、一ヶ月が経った。
四肢が切断された俺の体調は、もうすっかりよくなっている。
だが、長い寝たきり生活で細くなってしまった筋肉に、ガーンとショックを受けてしまった。
元々省エネ体質な俺にとっては多少とはいえ、大きな損失だ。
おかげで俺は毎日、せっせとストレッチと筋トレを繰り返している。
目指せムキムキマッチョだからな。
復帰に伴いしばらく休んでいたお菓子屋さんの仕事も再開したのだが、これがなんと、予想外。
意外にもお菓子屋さんは魔王城に馴染んでいたようで、甘味断ちを余儀なくされていた魔王城の甘党魔族達が、歓喜乱舞していた。
驚いたことに知らず知らず俺のお菓子は、プレミアがついていたみたいだ。
そう言う事情で甘い物好きである空軍の信号機竜人三人組を筆頭に、よこせよこせとせがまれてしまったぞ。
こうなるとカプバット運送でも追いつかないので、ついに従魔や軍魔御用達の城内食堂にお菓子を卸すことになったのだ。
魔王城のお菓子屋さん、公式の市場に進出。これはありがたい。
しかしそのせいで包装を食堂の人が手伝ってくれるようになったので、お手伝いさんの仕事が大変楽になってしまい、俺はちょっと申し訳ない気分である。
となると、だ。
ここまで販売を担ってもらえるならば、これは業務提携になるだろう?
であれば、ウィンウィンな契約を結ぶべき。
細かな契約はもちろん、人件費の一部、場代を込みにした売上の四割を支払う書類をリーマン性分で作り、ついつい契約内容について手書きの資料まで渡してしまった。
結構自信作──だったんだが、どういうわけか、全力で断られたのだ。
代わりにお菓子のレシピをいくつか教えてほしいと言われた。
聞いてくれ。
この交換条件の理由が驚きなんだ。
なんと、一時は俺を「人間風情が厨房に近づくな」と追い出したトップシェフのリザードマン──ラグランさんは、スウィーツ好きの甘党だったのだ。
たまたま俺のお菓子を友人のガルダーンに貰ってハマり、それからこっそり毎日買っていたらしい。
食堂に卸せば真っ先に手に入る上に、レシピも貰える。
願ったり叶ったりだそうだ。驚きの展開である。
ちなみにこれは食堂の従魔に聞いたことで、俺は厨房立入禁止なので、ラグランさんには会ってない。
真偽は不明だが嬉しいことなので信じる方向にした俺は、ウハウハなのだ。
閑話休題。
そんなわけで近頃の俺は、余った時間をリハビリを兼ねた鍛錬に注ぎ込んでいる。
アゼルが未だに俺の体を心配しているので、元気アピールがてら執務室に顔を出し、ついでに書類を片付けたりもしていたりもするな。
全損していた建物部分も職人達の本気により元通りになった為、魔王城にはすっかり平和な時間が返ってきていた。
そう思うと、あの騒動は収まってみれば、いい影響を与えてくれたと思う。
お互いのなにもかもを吐露しあって、綺麗も汚いも引っくるめ、改めて不変の愛を確認したこと。
俺とアゼルの関係性は、あれから少し変化した。
アゼルは俺に引かれないよう嫉妬や怒りを抑えていたが、嫉妬深いのをバラしたのでちょこちょこ表に出してくるのだ。
俺に関して狭量なことも、開き直ってきた。駄々をこねることもちょこちょこある。
そして俺も、ちょっとした反論なんかを言ったりするようになった。
アゼルのやることは全部受け入れたい気持ちだったが、自分の気持ちも言うことにしたというわけだな。
すれ違うぐらいならぶつかり合おうと、そのくらいじゃ嫌になったりしないと。
わがままも少しは言えるようになった俺は、いい意味で自信を持ったのだ。
独占欲が凄いところも、嫉妬深いところも、俺はちゃんと愛している。
元々の性格もあるが、基本的にアゼルに怒ったりしない。
全てがアゼルの一部だからだ。
そう言うのが伝わったから、アゼルはようやく自信を持って、嫌われる心配なく俺に自分の意見を言えるようになった。
──だが、俺にだって許せないことは、あるのだ。
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