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後話 欠陥辞書夫夫

06

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 反論の余地がないくらいよくわかった俺は、バツが悪く頷いた。

「あぁ……よくわかる。……ごめんな、ガド」
「魔王とシャルは俺の特別、お気に入りなんだぜ。俺はその絵画も愛の天使も、全部憎くて仕方なかった。お前らはなんにも悪くねぇのに、ボロボロだ。ライゼンだってこれを教えたら、自分がシャルを宝物庫に連れて行ったからってな? 魔王に土下座したんだよォ。クックック。あいつは特に魔王を敬愛してるから」
「馬鹿な、ライゼンさんは」
「悪くねぇって」
「んぐ、」
「言うと思った。くくく……シャァル~、お前はイイコだ。んー……」
「ガド、俺は猫じゃない……」

 食い気味の否定を笑われ、顎の下を擽られると、硬い手がこそばくてふるふると首を振る。

 俺はあの夜のアゼルがあんなに窶れていたから、自分を責めたんじゃないかとは思っていた。

 だけどもっとずっと深く、アゼルの中の俺は大きかったようで。

 ガドの気持ちや、ライゼンさんのことも含めて、ガドの言いたい意味がようやく俺にもわかった。

 確かに、俺に効く言い方だな。

「お前がなりふり構わず俺らを頼って自分を守らねぇと、ホントに魔王は死んじまうのよ。わかったかァ」
「んん、わかった、わかったから、擽ったい……」
「ククク、にゃーって言ってみ?」
「にゃー」

 なんだか弄ばれているが身に染みてよくわかったので、素直ににゃーにゃーとおもちゃにされることにした。

 困ったな。
 ガドには頭が上がらない。

 自分を刻んだアイツの気持ちは、痛い程わかる。
 俺だってアゼルをこの手にかけてしまったら、正気を保つ自信がない。

 錯乱して後を追ってもおかしくないくらい、俺はアイツに生きる幸福を貰っている。

(そうか、俺は俺を守らないとダメなのか)

 それは苦手だけど、努力しよう。
 アイツを守る為にめいいっぱい、せいぜい無傷で生き抜かなければならないな。

 手のひらを返したように、強くそう思った。

 さっきまでピンときていなかったのに、単純な自分にちょっと呆れて笑ってしまう。

 俺は血溜りに沈んだ時、アイツとは真逆に満ちていた。
 全てが俺の元に帰ってきたから。

 自覚したがやはり俺は、アイツへの愛情が……うん、ある程度、いやかなり、ううん。溺れる程、強いみたいだ。

 アゼルも、アゼルを愛する気持ちも、欠片まで俺のものだ。

 誰かに譲るくらいなら死んだっていい。
 俺のものを奪うならいくらでも戦ってやる。

 アイツを傷つけた者には、負けるとしても剣を振るって挑むだろう。

 だが──そういうわけにも、いかないか。

 喉元をくすぐってくるガドの頭をなでて、ため息混じりに笑って見せる。

「それじゃあ、これからもたくさん頼りにさせてもらおうか。ガド」
「おうよ」

 にんまりと笑顔を返すガドは、満足そうに尻尾を揺らして俺を抱きしめた。

 俺の魔界で初めての友人は、それはそれは頼もしい竜人さんである。



 ──余談だが。

 その後トイレに行こうとすると安静にしろと頑なに阻まれ、俺は危うくこの歳にして、シーツにビックな地図を描く寸前だったことを密かにお知らせしておこう。

 うん。……水差しを渡された時は、流石に頭を抱えたぞ。

 最終的に抱き上げられトイレまで運ばれたので危機は脱したが、頼るの方向性についてしっかり言い聞かせた俺だった。

 アゼルと並び立つ過保護二大巨頭のガドには、もはや介護だったということに気付いてほしいところだな。


 後話 了



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