本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
621 / 901
十二皿目 卵太郎、改め

04

しおりを挟む


 そうして洗面所でニコニコと笑いながら世話を焼いていると──突然、洗面所の扉がバンッ! と開いた。

「ただいまだ」
「ん、おかえりアゼル。……おかえり?」
「ぴぃぃ、ぴぃ!」
「あ? そう、ただいまだぜ、タロー」

 癖で返事をしたが、おかしいぞ。

 当然のように扉を開けて出入り口に立っていたのは、アゼルだった。
 仕事に送り出したはずのアゼルだ。

 俺の挨拶に満足そうに笑ったが、それを真似てぴぃと鳴く少女にも、むっつりとしながらなにやら返事を返している。会話ができてるのか。

「アゼル、仕事はどうしたんだ?」
「うえ!? し、仕事は休みになったんだよ」
「そうなのか。いいタイミングだったな」

 アゼルが少女と話すためにしゃがみこんでいた体勢のまま、事情を話してくれた。

 俺は納得して、それはよかったと微笑む。なぜか気まずげに目をそらされた。どうした。

 んん、本当は仕事をしたかったのだろうか……。

 いやいや。
 ついさっきは仕事に行くのを本当に嫌がっていたから、そんなことはないと思うが。

 なんでだろうと考える俺に、それよりも! と勢い良く立ち上がったアゼルは、召喚魔法で取り出したものを、ズズイと俺に差し出した。

「ほら、タローにこれを着せてやれ。城下町で翼のある魔族用の子ども服がたまたまセールになっていたから、帰り道ついでに買ってきたぜ」

 そして照れ顔の後、ドバサァッ! と俺に降り注ぐ衣服の山。

「んぶっ! アゼル……セレブ買いは最終奥義だと言ったじゃないか……!」

 帰り道ってお前、城下街は城から出ているぞ。どんなルートで帰ってきたんだ。

 そして、どうしてアゼルはたたかうコマンドで倒せるスライムに、最大威力技を使うのだろう。

 大量の子ども服が降り注がれた俺は服に埋まって小言を言いながら、控えめにアゼルの額を指先で弾いた。

 俺の奥義、デコピンをくらえばいい。

 ……だからなんでデコピンされたのかわからないって顔は、やめるんだこの魔王様め……!



 アゼルが持ってきた服をクローゼットの空きスペースにどうにか収めて、背中の大きく開いた白いワンピースを着せてあげた。

 少女はピィピィと鳴いて、喜んでいるようだ。よかったな、かわいいぞ。

 小型の冷蔵庫のような魔導具である氷室からオレンジジュースを用意して──やっと一息。

 さてさて。
 突然魔王様のシャルさんの子育て生活が、強制的に始まってしまった現在。

 これからやることは、たくさんある。

「まずは名前だな。女の子だった場合、どんな名前にするか考えていなかった」
「ぴぃぃ~」
「タローでいいって言ってるぜ」
「んん……」

 いつものティータイム用のソファーに座り、俺とアゼルで少女を挟んで腕を組む。

 アゼルは少女に人見知りをせず、自分から触ることはないが特に警戒もせず、「なぁ?」と声をかけた。

 少女は「ぴゅぅ」と鳴く。
 まるで通じあっているような反応。


しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

その男、ストーカーにつき

ryon*
BL
スパダリ? いいえ、ただのストーカーです。 *** 完結しました。 エブリスタ投稿版には、西園寺視点、ハラちゃん時点の短編も置いています。 そのうち話タイトル、つけ直したいと思います。 ご不便をお掛けして、すみません( ;∀;)

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

スイート・スパイシースイート

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ
BL
佐藤裕一郎は経営してるカレー屋から自宅への帰り道、店の近くの薬品ラボに勤める研究オタクの竹川琢を不良から助ける。そしたら何か懐かれちまって…? ※大丈夫っ(笑)この小説はBLです。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...