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十二皿目 卵太郎、改め
04
しおりを挟むそうして洗面所でニコニコと笑いながら世話を焼いていると──突然、洗面所の扉がバンッ! と開いた。
「ただいまだ」
「ん、おかえりアゼル。……おかえり?」
「ぴぃぃ、ぴぃ!」
「あ? そう、ただいまだぜ、タロー」
癖で返事をしたが、おかしいぞ。
当然のように扉を開けて出入り口に立っていたのは、アゼルだった。
仕事に送り出したはずのアゼルだ。
俺の挨拶に満足そうに笑ったが、それを真似てぴぃと鳴く少女にも、むっつりとしながらなにやら返事を返している。会話ができてるのか。
「アゼル、仕事はどうしたんだ?」
「うえ!? し、仕事は休みになったんだよ」
「そうなのか。いいタイミングだったな」
アゼルが少女と話すためにしゃがみこんでいた体勢のまま、事情を話してくれた。
俺は納得して、それはよかったと微笑む。なぜか気まずげに目をそらされた。どうした。
んん、本当は仕事をしたかったのだろうか……。
いやいや。
ついさっきは仕事に行くのを本当に嫌がっていたから、そんなことはないと思うが。
なんでだろうと考える俺に、それよりも! と勢い良く立ち上がったアゼルは、召喚魔法で取り出したものを、ズズイと俺に差し出した。
「ほら、タローにこれを着せてやれ。城下町で翼のある魔族用の子ども服がたまたまセールになっていたから、帰り道ついでに買ってきたぜ」
そして照れ顔の後、ドバサァッ! と俺に降り注ぐ衣服の山。
「んぶっ! アゼル……セレブ買いは最終奥義だと言ったじゃないか……!」
帰り道ってお前、城下街は城から出ているぞ。どんなルートで帰ってきたんだ。
そして、どうしてアゼルはたたかうコマンドで倒せるスライムに、最大威力技を使うのだろう。
大量の子ども服が降り注がれた俺は服に埋まって小言を言いながら、控えめにアゼルの額を指先で弾いた。
俺の奥義、デコピンをくらえばいい。
……だからなんでデコピンされたのかわからないって顔は、やめるんだこの魔王様め……!
アゼルが持ってきた服をクローゼットの空きスペースにどうにか収めて、背中の大きく開いた白いワンピースを着せてあげた。
少女はピィピィと鳴いて、喜んでいるようだ。よかったな、かわいいぞ。
小型の冷蔵庫のような魔導具である氷室からオレンジジュースを用意して──やっと一息。
さてさて。
突然魔王様のシャルさんの子育て生活が、強制的に始まってしまった現在。
これからやることは、たくさんある。
「まずは名前だな。女の子だった場合、どんな名前にするか考えていなかった」
「ぴぃぃ~」
「タローでいいって言ってるぜ」
「んん……」
いつものティータイム用のソファーに座り、俺とアゼルで少女を挟んで腕を組む。
アゼルは少女に人見知りをせず、自分から触ることはないが特に警戒もせず、「なぁ?」と声をかけた。
少女は「ぴゅぅ」と鳴く。
まるで通じあっているような反応。
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