本日のディナーは勇者さんです。

木樫

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閑話 ガドと愉快な仲間たち

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「しゃる、わるいりゅーじんさん、はたらきもの?」
「そうだな、いい子で働いているようだぞ」

 働くリンドブルムたちを見ていると、そう尋ねたタローはしゅんとする。

「わたし、めってしかるのしようとおもってたの。そいでね、わたしのがっこのふくじまんしたいの……だめかなあ……?」
「ん。服を見てもらうのは、大丈夫。差し入れを持って来たから話を聞いてくれる時間はあると思う。だがめってするのは、どうしてだ?」
「ん~! がどくんいじめた! まおちゃんはいったよ。『好きな人を傷つけた奴は、なにがなんでもぶちかませ』って! がどくんちがでてた、きず! おうさつ!」

 そしてキャッキャとかわいく笑って上から俺の顔を覗き込むタローの口から、聞きたくなかった鏖殺のセリフが飛び出した。

 アゼル……! 魔王学はダメだと言っただろう……! 前もって仕込むな。

 働いても働いても破壊工作と気まぐれのツケが回ってくる必死なリンドブルムたちに、幼女の過激な報復は惨すぎる。

 まずもって魔王から仕置済みで、裁判的にもお仕置き中なのだ。

 流石に同情を禁じえない。

「ええと、概ね同意するが……鏖殺はやめような。シャルのお仕置きを教えてあげるから、それにしよう。いいか? デコピンと言うんだが」
「しゃるの~! いいよっ、でこぴん!」

 取り敢えず俺流抵抗術のデコピンを伝授して、ことなきを得た。

 ……アゼルは帰ったらお仕置きだ。

 目を見つめて、ひたすら褒めちぎってやるからな。そうすると、彼は真っ赤になって悶絶するのだ。

 デコピン奥義を伝授した後、俺とタローは輜重隊舎に近づいて、リンドブルムたちに見えるように手を挙げる。

 そうすると一際大きな竜人と、その近くにいた一回り小さな普通サイズの竜人が気がついた。

 大きな竜人はリーダーで、普通サイズの竜人はバカデビだ。

 二人して苦虫を数十匹噛み潰したような顔をしてから、血の気が引いている。

 なにを想像したのだろうか。
 恐れおののいているようだ。

 少し悪い気もしながら近づいて挨拶をすると、二人はぺこりと頭を下げて、自己紹介をしてくれた。

 リーダーはグルガー、バカデビはなんとデビーと言うらしい。

 う、バカデビではなかったのか……名前を間違って覚えていた。更に申し訳ない。

「な、なんでここにお妃様とお嬢様がいるんだ、で、です……!?」
「あぁ、偉いのはアゼルで俺は魔族じゃないから、敬語じゃなくて大丈夫だ」

 慣れない敬語を駆使する二人にオーケーと指で丸を作って言うと、わかりやすくほっとする。

「今日来たのは、タローが言いたいことがあるからなんだが……今、時間は大丈夫か?」

 だがここに来た理由としてタローが叱りたいと言う話をすれば、二人はギクッと肩をすくめて、もじもじし始めた。

 緊張した様子なのに、なぜか頬を染めている。

 具体的には学園のマドンナを前にした、一般生徒だ。どうしてだろう。

 俺は密かに先程から肩の上でにこにこを一転させ、頬を膨らませながらむくれるタローを、そっと持ち上げ胸の前で抱き上げた。

 目線をキョロつかせる二人に、タローは果敢にむぐぐぐ、と唸る。

 輜重隊のリーダーであるグルガーと補佐官のデビーに、ひるまず唸る幼女。

 異様な光景に気がついた他のリンドブルム達も作業の手を止め、固唾を飲んで見守っている。

 そうだな、休憩は大事だ。
 しっかり休むといい。お茶とお菓子もあげたい。


「りゅーじんさん!」
「「はいっ!」」

「こんにちは! りてぃたろと・ないるごーんです、たろーといいます! 生まれて四ヶ月と少しです!」

「「「躾ができていらっしゃるようで!」」」


 その瞬間、ズコーッと見守っていたリンドブルムたちが一斉にコケた。



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