「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび

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──何を言っているの?

 おもちゃを強請る子どものように言ってのけるマルティラの言葉を飲み込むには時間がかかった。
 いや、分かっていても、それを理解することを脳が拒否していた。

「ふふっ、やっぱりとっても素敵。その顔を見るとすごく胸が弾むわ」

 その声色は本当に嬉しそうで、この場にはあまりにも似つかわしくなく、不気味だった。

「あんたたちには私を殺せないと思うけど」

 アリーチェは睨みながら言い返した。

「もしかして、わたくしのお友達の善意をあなたがダメにしてしまった事を言っているの? 」

 マルティラは不思議そうな顔をしてアリーチェに問いかけた。
 アリーチェは睨むだけでそれには答えない。
 けれど、マルティラは焦る事なくまた微笑む。

「もし、あなたにわたくしの知らない力があったとして、その状態で何ができるっていうのよ。それに、心配しないで。わたくし、あなたを殺したいとかじゃなくて、あなたが死にたくなる顔を見たいの」
「ずいぶん趣味が悪いのね」
「まぁ、そんな事ないわ。きっとあなたが自ら命を立つ姿は素敵で、わたくしのこのどうしようもない思いを晴らしてくれるはずだもの。きっと、とっても爽快だと思うわ」

 マルティラはそれを想像したのか、キャッキャッとはしゃぎ始める。
 既にアリーチェにはそれが狂気じみたものに見えていた。

「お生憎様、私は失恋ぐらいで自害するほどやわな精神じゃないわよ」

 芋虫のように体を動かしながらアリーチェは言った。
 いくらルッツがアリーチェのことを忘れてしまっても、アリーチェは死んだりはしない。
 もう二度と近づけなくて、触れなくても、それでも命を投げ出したりはしない。
 そんなの前から知っていた。
 魔王が討伐された時から、アリーチェは覚悟していた。


 けれど、マルティラは言い返すアリーチェに「そう来なくっちゃね」と楽しげに体を翻した。

「ふふ、やっぱり、コレを用意して正解だったのね」

 そしてすぐ横に張る箱に向かって彼女は言った。
 アリーチェはそれを見つめるが、そこからは魔力も何も感じられない。

──何?

 そこにアリーチェが絶望するほどの何かがあるのだろうか。
 マルティラは、アリーチェが箱の中に釘付けになっている事を確認すると口の端を歪ませた。

「あのね、お城のお友達とは別のお友達がね、教えてくれたのよ? あなたにはコレが効果的だって」

 彼女がそう言えば、それが合図だったのか、騎士がその箱の蓋を開けそして足でけってそれを倒した。
 ゴロンと音を立てて転がってきたのは──

「なん・・・で・・・」

 小さな丸い物体がアリーチェの目の前で止まった。
 暗闇で色までは分からなかったが、けれどそれが“ナニ”かはすぐに分かった。
 それはどう見ても人間の頭部と似たようなもので、そこには、ついさっきアリーチェが共に駆け回って遊んだ子どもの顔が張り付いていた。

 アリーチェには制御しきれない感情が、大きく揺らいだ。
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