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しおりを挟む「まあ! 素敵、素敵よ。とっても素敵! 」
子どもの頭部を前にしてもマルティラは特に慌てはしない。
暗闇でよく見えていないのかもしれない。
けれど、命があったものも何もかも、彼女にとっては全て同じかのかもしれない。
それはルッツであっても。
──狂ってる・・・
どうしてこの人間はここまで愚かになれるのか。
アリーチェは自分の体からスッと何かが抜けていく感覚があった。
そしてそれと変わるように、沸々と燃えてくる、今までと違う何か。
「ふふ、馬車が進めば狙われないなんて幼稚な考えではダメよ? あなたも王宮で暮したのなら分かるでしょ? 相手に隙なんて与えちゃダメよ。何より隙があっても大丈夫なように力をつけなくちゃ、ね? 」
人差し指を振りながら愉快そうに語るマルティラ。
何一つ彼女が理解していないのだとアリーチェは悟った。
「ああ、こんな事なら、あなたのお友達も連れてくればよかったわ。確か、マーラ、と言ったかしら? 」
マルティラは期待の眼差しでアリーチェの方を見たが、思い通りの反応が見られなかったためか、不服そうに頬を膨らました。
「なんでよ。あなたが言う罪のない人が巻き込まれるのよ? 」
そう言い募ってくるが、それはアリーチェの心を揺さぶるには不十分だった。
「もう、聞いてるの? この子のようにあなたが関わった全員がこうなるのよ? わたくしはそれをできるだけの力が──」
「それだけ? 」
アリーチェはゆらりと立ち上がった。
その足元にはアリーチェを縛っていたはずの縄がぱらりと落ちる。
「あなたができることはそれだけ? 」
アリーチェは一歩踏み出し、マルティラを見据えた。
マルティラは一瞬それに怯んだが、すぐさま騎士が彼女を守る為に立ちはだかる。
すると、マルティナは我に返ったように顔をあげ、笑みを浮かべた。
「あら? 薬がもう切れたのかしら? 」
アリーチェを警戒した騎士が剣を抜き、その先をアリーチェに向けた。
──なんの薬かも知らずによく言うわ・・・
きっと城の外にいるお友達に適当に言いくるめられたんだろう。
本当に呆れると、アリーチェはいかがわしそうにこちらに目を向けるマルティラを見据えた。
──なんでこんな人を・・・
アリーチェの知るルッツは贅沢などには興味がなかった。
彼は、アリーチェのために木の実をとってきてくれて、それを頬張るアリーチェを見るだけで幸せそうな顔をする人だった。
王宮では、いきなりの好待遇に戸惑いながら、少し迷惑だとぼやいてしまうような人だった。
最低限でも満足できる人。
素朴な幸せを噛み締めることができる人。
誰かの不幸の上で成り立つ生活など望まない人。
そんな人が、彼女の元で幸せになれるのか。
しかし、それを判断するのはルッツだ。
記憶の失った彼は変わったしまったのかもしれない。
──でも、わたしの知ってるルッツならこんな事望まない
人を傷つく事を嫌っていたはずの彼。
それをもし、平気にしているのだとすれば、それは彼ではない。
──彼じゃないなら、もういいか
アリーチェの中から沸々と内から湧き上がってくるものに、もう抗おうとはしなかった。
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