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しおりを挟む──ごめんね
アリーチェは、さっきまで笑っていたはずの子の頭を拾い上げ、抱き寄せる。
べちゃりと手につくものはこの子が生きていたという証拠。
アリーチェはそれを拭うこともなく、ただただ、強く抱き締めた。
「何をしているの・・・? 」
オルティラは、予想とは違う動きを見せるアリーチェに戸惑いを隠せずにいた。
アリーチェが信じていた人間らしさがやっと彼女の中に見えた。
けれど、そんなのものは既にアリーチェには関係ない。
もうアリーチェは戻れなかった。
アリーチェは、オルティラのその向こう側、彼女の背後にある扉のさらに向こう側を睨む。
そして、湧き起こる感情をそのままぶつけた。
「エセ神父! これで満足!? 」
アリーチェから放たれた怒りは、小さな渦からすぐに大きな突風へと変化し、そこらじゅうのものを蹴散らしていく。
マルティラの悲鳴が聞こえたが、アリーチェの耳には既に届いていない。
その突風は治ることなく、急速に大きくなり、最後には小屋までも吹き飛ばした。
そしてそれは、安全地帯から観察するばかりの神父のふりしたあの男へまで飛んでいく。
「あぁ、素晴らしい! 」
小屋から少し離れた場所にいた神父は白い歯を見せて歓声を上げた。
突風が過ぎ去った後、男の頬からは青い液体がどろりと落ちた。
「な、何よこれ!! 」
月光を遮る隔たりがなくなり、マルティラがアリーチェの方を見て、悲鳴を上げた。
暗闇で見えなかった子どもの頭から流れる血は、人のものではなかった。
「まっ、ま、魔族っ!! 」
マルティラは、金切り声で叫んだ。
「なんで、なんで魔族が王都にいるのよ! 王都には魔族が嫌う浄化魔法の結界があるはずでしょ! どうなってるのよ! 」
そこにはアリーチェを怯えさせる程余裕のある姿はなかった。
予測不能なその事態に彼女は無力にも声を荒げるだけ。
アリーチェはスッと目を細め、腰を抜かしているマルティらを見つめた。
騎士は彼女を庇って気絶してしまっている。
外にいる従者たちも突風に巻き込まれ、そこら中に倒れていた。
「王女様、隙なんて与えちゃダメでしょ? あなた、今隙だらけじゃない」
彼女に対する怒りも決して消えたわけではない。
「それに好きがあっても大丈夫なように力をつけなくちゃ」
怪しく揺らめいた赤いアリーチェの瞳にマルティラは再び悲鳴を上げ、恐怖で震え出した。
きっと大した魔力のない彼女でも、今のアリーチェの膨大な魔力を感じ取れるのだろう。
──あなたが言ったんでしょ?
アリーチェは言葉にしなかったが、目で彼女を威圧した。
彼女は「あっ、あっ」と言葉にならない何かを出し、青ざめた顔をアリーチェに向ける。
初めて無力な側に立ち、自分がするべき振る舞いも何も分からず、震えるばかりだった。
「あぁ、やっぱり思った通りです。流石、あの方の血を受け継ぐだけあります。実に素晴らしい」
けれど、この男だけはいつも空気を読まない。
場違いにも程がある明るい声を出す神父をアリーチェは見据えた。
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