19 / 62
第二章
公園にて
しおりを挟む車の外に出ると、じりじりと肌を焦がす強い陽射しが私らを出迎えた。
午前十時。
すでに太陽は高い位置まで昇り、朝と比べると気温もかなり上昇している。ただ、田舎の空気は澄んでおり、都会や街中とは違った爽やかな風が吹き抜ける。
敷地の正面にある階段を四人で上り、頂上に着くと、公園の全貌が目の前に広がった。
「わあ……」
思わず、感嘆の声が漏れる。
公園は思っていた以上に広かった。サッカーコートが二つぐらい入りそうなだだっ広いグラウンド。さらに奥に見える小高い山の斜面にも階段が続き、所々にベンチや滑り台などが見える。
「ほへー。すんごい広さだね。一周しただけでヘトヘトになっちゃいそう」
沙耶が言って、井澤さんが頷く。
「ここは町の催しにも色々と使われる場所だからな。お盆の頃には毎年ここで夏祭りが開催されるんだ」
夏祭り。
その響きに、私は自然と胸を高鳴らせた。もしかしたら、以前の『私』はお祭りが好きだったのかもしれない。
「さて。せっかく公園に来たわけだし、少しだけ遊んでいこうじゃないか」
井澤さんはそう言って、いつのまにか用意していたらしいバドミントンのラケットとシャトルを差し出してくる。
「え。バドミントンって……今はそんな気分じゃ」
「おおーっ、バドミントン! ここ何年かは全然やってなかったなぁ。ね、すず!」
「え? あ、そうなの?」
沙耶に同意を求められるが、今の私にはその記憶がない。
「小学校のころ以来かなぁ。久々にみんなでやろうよ! ねっ、桃ちゃんも」
「おうよ! オレの華麗なスマッシュを見せてやる!」
どうやら桃ちゃんもやる気らしい。車酔いも今は治まったようだ。
沙耶に促されて、私らは男女ペアの二チームに分かれる。ジャンケンの結果、私と井澤さん、沙耶と桃ちゃんがペアになった。
「よおっし! いつでもこい、すず!」
桃ちゃんが威勢の良い掛け声とともにラケットを構える。無駄に筋肉をつけた彼に打ち返されたら怪我をしそうだな……という不安を抱えながらも、私は最初のサーブを打った。
「えっ、うそ。すずがサーブを打った……!?」
と、何やら沙耶がよくわからないことを口走って驚愕の表情を浮かべた。
そのまま呆然と突っ立っているだけの彼女の頭上を飛び越えて、シャトルはストンと地面に落ちて転がった。早速こちらのチームに点が入る。
「沙耶。どうしたの? 何かそんなにびっくりするようなことした?」
桃ちゃんがシャトルを拾ってくる間に、私は尋ねた。
すると彼女は、急にこちらへつかつかと歩み寄ったかと思うと、私の両手をラケットの持ち手ごとガシッと握り込む。
「そりゃびっくりするよ! すず、いつのまにそんなにバドミントン上手になったの!?」
「えぇ?」
上手、と言われても。さっきはただ普通に一発サーブを打っただけだ。スピードも特に速くないし、驚かれるようなことは何もしていない。けれど、
「すずが今までラケットにシャトルを当てられたことなんてほとんどなかったじゃん! いつのまにそんな普通に打てるようになったの!?」
よくよく聞いてみると、どうやら比良坂すずは極度の運動音痴で、サーブ一つ満足に打てなかったらしい。
(そこまでくるとなかなかだな……)
聞けば聞くほど、比良坂すずという人物のことが心配になってくる。これは周りが過保護になるのも無理はないな、と改めて思う。
「まあ、でも。すずと一緒にバドミントンができるようになったのは嬉しいよ。あたし、こうやってすずと一緒にスポーツするの、ずっと楽しみにしてたから」
そう言って、彼女は私の手を握ったまま満面の笑みを浮かべた。
その眩しい笑顔に、思わず胸を高鳴らせてしまう。そんな私の気も知らずに、彼女はすぐに自分の位置へ戻ったかと思うと、ラケットをぶんぶん振り回して次のサーブを促す。
「ほら、すず! もっかいやって! 今度はちゃんと打ち返すから!」
仕切り直しでサーブを打つと、今度はかなり長いラリーが続いた。三人とも、素人ながらそこそこ運動神経は良いように見える。
こうして広い公園でラケットを振るうのは、なんだかとても懐かしいことのような気がした。
もしかしたら私は以前にも、ここでこうして誰かとバドミントンをしたことがあるのかもしれない。
(でも……誰かって、誰なんだろう?)
24
あなたにおすすめの小説
Marry Me?
美凪ましろ
恋愛
――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。
仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。
不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。
※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。
※彼の過去だけ、ダークな描写があります。
■画像は、イトノコさまの作品です。
https://www.pixiv.net/artworks/85809405
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
神楽囃子の夜
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。
年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。
四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
あばらやカフェの魔法使い
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
キャラ文芸
ある雨の日、幼馴染とケンカをした女子高生・絵馬(えま)は、ひとり泣いていたところを美しい青年に助けられる。暗い森の奥でボロボロのカフェを営んでいるという彼の正体は、実は魔法使いだった。彼の魔法と優しさに助けられ、少しずつ元気を取り戻していく絵馬。しかし、魔法の力を使うには代償が必要で……?ほんのり切ない現代ファンタジー。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる