僕《わたし》は誰でしょう

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!

文字の大きさ
40 / 62
第三章

巡る季節

しおりを挟む
 
          ◯


 中学に入って二度目の夏休みがやってきた。

 今年こそは、美波と二人で花火大会に行けると思っていた。
 けれど当日はあいにくの雨模様で、それも台風に見舞われた大荒れの天気だった。

『残念だけど、今年の花火は中止だって』

 約束の時間ギリギリまで自宅で待機していた俺の元に、美波からSNSのメッセージが届く。

 雨天中止。覚悟はしていたことだが、この一年間ずっと楽しみにしていた分、落胆は大きかった。

 せめて彼女の声だけでも聞きたくなって、俺はすぐに電話をかけた。そうして「来年こそは一緒に行こうな」と、去年と同じ約束をした。



 やがて夏休みが明けると、今度は生徒会選挙の時期がやってくる。

 この頃には俺の成績もかなり上がっており、兄には到底及ばないものの、両親からの期待値もゼロではなかった。「生徒会長に立候補しなさい」と父から急に言われたのもこの頃だった。
 俺は話半分に聞き流していたが、それを美波に打ち明けると、

「いいじゃん、生徒会長。やってみなよ」

 彼女の口からそう言われると、単純な俺はついやる気を出してしまった。

 結果はまさかの当選。
 俺は晴れて生徒会長となり、柄にもなく在校生のリーダーとなったのだった。



「……なんか、凪がどんどん遠くにいっちゃうような気がする」

 夏の残暑も過ぎ去り、木枯らしが吹き始めた頃。
 美波は少しだけ寂しそうに電話でそんなことを言った。

 生徒会活動が忙しくなってから、俺はロクに演劇同好会の方へ顔を出さなくなっていた。いつのまにかメンバーはさらに増えたらしく、もうじき同好会から部活動へと昇格するらしい。
 もともとは俺と美波とで立ち上げた二人だけの同好会が、俺の知らぬ間にどんどん大きくなっていく。

「凪はもう進路とか決めてるの? やっぱり将来はお医者さん?」

「そうだな……。気は進まないけど多分、親が無理矢理にでも医者にしようとすると思う。兄貴ほど良い大学には行けないだろうけど、俺も俺なりに勉強はするつもり」

「そっか。じゃあ将来は『井澤先生』だね」

 先生、という響きは何だかくすぐったかった。もともとは学校の授業もサボりまくる問題児だったのに、そんな男が先生だなんて呼ばれる立場になれるのだろうか。



 そうして季節はどんどん巡り、気づけば俺たちは中学三年生になっていた。
 美波とはクラスが離れ、ただでさえ彼女と会う機会が減っていたのに、これでは教室で顔を合わせることもなくなってしまう。

 ただ一つの救いは、生徒会活動の中に『朝の挨拶運動』があることだった。
 生徒会役員は皆、毎朝校門前に立ち、登校してくる生徒たちに挨拶をする運動があるのだ。

「おはよう、美波」

「うん。おはよう、凪」

 毎朝この時間だけは、必ず美波と会える。
 それが俺にとってどれだけ大きな意味を持っていたか、彼女はきっと知らないだろう。



「そういえばさ。僕、このあいだの誕生日に臓器提供の意思表示をしたんだ」

 ゴールデンウィークに入り、久方ぶりに美波と顔を合わせた日。彼女は晴れやかな笑みを浮かべてそんなことを言った。

「意思表示? って、あれか。保険証の裏とかにあるやつ」

「そ。保険証を持ってる人は、あそこに丸とサインをするだけで意思表示になるからね。あとは年齢制限があったけど、僕もやっと十五歳になったから」

 十五歳になれば、臓器提供の意思表示ができる——それを俺が教えたのは、確か二年前の夏だった。

 俺たちがまだ一年生だった頃。
 部活動見学で映画鑑賞部を訪ね、『僕《わたし》は誰でしょう』の映画を観て、美波は記憶転移の物語に魅せられていた。

「もしかして、まだ記憶転移のことを信じてるのか?」

「別に本気で信じてるわけじゃないよ。でも、いずれ僕が死んだら、どうせなら誰かにこの心臓を使ってほしいと思うし、あわよくば男性の体に移植されたらいいなって。それぐらい夢を見てもバチは当たらないでしょ?」

 彼女のその思いは、一体どこまで本気だったのだろう。

 男になりたい。
 そう願ってきた彼女は、最後まで俺の想いに気づくことはなかった。



 そして迎えた、中学三年の夏休み。
 約束の花火大会を目前にした頃、運命の日は唐突にやってきたのだった。
 
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

Marry Me?

美凪ましろ
恋愛
 ――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。  仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。  不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。 ※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。 ※彼の過去だけ、ダークな描写があります。 ■画像は、イトノコさまの作品です。 https://www.pixiv.net/artworks/85809405

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

神楽囃子の夜

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。  年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。  四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。  

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

あばらやカフェの魔法使い

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
キャラ文芸
ある雨の日、幼馴染とケンカをした女子高生・絵馬(えま)は、ひとり泣いていたところを美しい青年に助けられる。暗い森の奥でボロボロのカフェを営んでいるという彼の正体は、実は魔法使いだった。彼の魔法と優しさに助けられ、少しずつ元気を取り戻していく絵馬。しかし、魔法の力を使うには代償が必要で……?ほんのり切ない現代ファンタジー。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

処理中です...