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第三章
巡る季節
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中学に入って二度目の夏休みがやってきた。
今年こそは、美波と二人で花火大会に行けると思っていた。
けれど当日はあいにくの雨模様で、それも台風に見舞われた大荒れの天気だった。
『残念だけど、今年の花火は中止だって』
約束の時間ギリギリまで自宅で待機していた俺の元に、美波からSNSのメッセージが届く。
雨天中止。覚悟はしていたことだが、この一年間ずっと楽しみにしていた分、落胆は大きかった。
せめて彼女の声だけでも聞きたくなって、俺はすぐに電話をかけた。そうして「来年こそは一緒に行こうな」と、去年と同じ約束をした。
やがて夏休みが明けると、今度は生徒会選挙の時期がやってくる。
この頃には俺の成績もかなり上がっており、兄には到底及ばないものの、両親からの期待値もゼロではなかった。「生徒会長に立候補しなさい」と父から急に言われたのもこの頃だった。
俺は話半分に聞き流していたが、それを美波に打ち明けると、
「いいじゃん、生徒会長。やってみなよ」
彼女の口からそう言われると、単純な俺はついやる気を出してしまった。
結果はまさかの当選。
俺は晴れて生徒会長となり、柄にもなく在校生のリーダーとなったのだった。
「……なんか、凪がどんどん遠くにいっちゃうような気がする」
夏の残暑も過ぎ去り、木枯らしが吹き始めた頃。
美波は少しだけ寂しそうに電話でそんなことを言った。
生徒会活動が忙しくなってから、俺はロクに演劇同好会の方へ顔を出さなくなっていた。いつのまにかメンバーはさらに増えたらしく、もうじき同好会から部活動へと昇格するらしい。
もともとは俺と美波とで立ち上げた二人だけの同好会が、俺の知らぬ間にどんどん大きくなっていく。
「凪はもう進路とか決めてるの? やっぱり将来はお医者さん?」
「そうだな……。気は進まないけど多分、親が無理矢理にでも医者にしようとすると思う。兄貴ほど良い大学には行けないだろうけど、俺も俺なりに勉強はするつもり」
「そっか。じゃあ将来は『井澤先生』だね」
先生、という響きは何だかくすぐったかった。もともとは学校の授業もサボりまくる問題児だったのに、そんな男が先生だなんて呼ばれる立場になれるのだろうか。
そうして季節はどんどん巡り、気づけば俺たちは中学三年生になっていた。
美波とはクラスが離れ、ただでさえ彼女と会う機会が減っていたのに、これでは教室で顔を合わせることもなくなってしまう。
ただ一つの救いは、生徒会活動の中に『朝の挨拶運動』があることだった。
生徒会役員は皆、毎朝校門前に立ち、登校してくる生徒たちに挨拶をする運動があるのだ。
「おはよう、美波」
「うん。おはよう、凪」
毎朝この時間だけは、必ず美波と会える。
それが俺にとってどれだけ大きな意味を持っていたか、彼女はきっと知らないだろう。
「そういえばさ。僕、このあいだの誕生日に臓器提供の意思表示をしたんだ」
ゴールデンウィークに入り、久方ぶりに美波と顔を合わせた日。彼女は晴れやかな笑みを浮かべてそんなことを言った。
「意思表示? って、あれか。保険証の裏とかにあるやつ」
「そ。保険証を持ってる人は、あそこに丸とサインをするだけで意思表示になるからね。あとは年齢制限があったけど、僕もやっと十五歳になったから」
十五歳になれば、臓器提供の意思表示ができる——それを俺が教えたのは、確か二年前の夏だった。
俺たちがまだ一年生だった頃。
部活動見学で映画鑑賞部を訪ね、『僕《わたし》は誰でしょう』の映画を観て、美波は記憶転移の物語に魅せられていた。
「もしかして、まだ記憶転移のことを信じてるのか?」
「別に本気で信じてるわけじゃないよ。でも、いずれ僕が死んだら、どうせなら誰かにこの心臓を使ってほしいと思うし、あわよくば男性の体に移植されたらいいなって。それぐらい夢を見てもバチは当たらないでしょ?」
彼女のその思いは、一体どこまで本気だったのだろう。
男になりたい。
そう願ってきた彼女は、最後まで俺の想いに気づくことはなかった。
そして迎えた、中学三年の夏休み。
約束の花火大会を目前にした頃、運命の日は唐突にやってきたのだった。
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