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第三章
君を追って
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それから三日後、美波の臓器提供が決まった。
提供されるのは、心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸・眼球の七つだ。
どれも綺麗な状態で、移植には問題なさそうだということだった。
臓器は全て無事なのに、脳だけが助からなかった。脳へのダメージが、美波の命を奪ったのだ。
「美波……」
摘出前に、最後に一度だけ美波の顔を見せてもらった。本来なら親族でさえ対面できないタイミングだったが、院長の孫である特権を使って、特別に会わせてもらった。
すでに脳死判定は済んでいるが、心臓はまだ動いている。
人は死の間際に聴覚だけが残るなんて迷信がある。この声が届くかはわからないが、俺は最後に彼女へ語りかけた。
「美波、俺さ……記憶転移のこと、信じるよ。キミが言っていた、いつか男になれるかもしれないって話。移植された先で、キミの記憶が、魂が、そこに存在するかもしれない。だから俺、捜しにいくよ、美波のこと。どれだけ時間がかかっても、キミが帰ってくるのを待ってるから。だから、また会おうな」
彼女が最期の瞬間に何を思っていたのか、俺は確かめたかった。
彼女の死は自殺だったのか。
それとも不慮の事故だったのか。
あるいは、俺たちに殺されたのか。
その真実を確かめるためにも、もう一度彼女に会いたい。
会って、今度こそ、彼女のことをありのままで受け止めたいと思った。
◯
バラバラになった臓器は、全国のあちこちへと運ばれていった。俺は祖父の権限を秘密裏に利用し、本来なら知ることのできない個人情報を取得して、美波の臓器の行方を追った。
学業の合間に、休日を利用して一人で遠出し、美波の臓器を持つ移植患者の状態を観察する。術後に何か変わったことはないか。何か記憶を思い出す兆候のようなものはないか。
手の込んだストーカーのような気分だった。実際にそうだったのかもしれないが。
移植手術は必ず成功するというわけではない。手術には高度な技術が要求される上、術後に感染症を起こしたり、臓器そのものに対して体が拒絶反応を起こすこともある。
美波の臓器は、幸い手術自体に問題はなかった。
だが、受け入れる側の体が高齢であったり、もともと持病があったりなどで、長く生きられる人間は少なかった。時間の経過とともに、美波の臓器ごと、移植患者たちは一人、また一人とこの世を去っていった。
小腸から始まり、腎臓、心臓と、彼女の臓器がどんどん死んでいく。やがて俺が大学を卒業する頃には、たった一つ、右目の角膜だけが残っている状態だった。
(やっぱり、記憶転移はフィクションの中だけなのか……)
すでに諦めの気持ちが頭の片隅にあった。
右目の角膜を移植された患者——比良坂すずは、どこからどう見ても愛らしい少女だった。見た目も中身も、世間一般的に言う『男らしさ』など欠片もない。仲の良い幼馴染二人に囲まれ、毎日が楽しくて仕方がないという風に笑っていた。
そして、転機が訪れたのは今年の夏。美波の死から十年が経ち、もうじき夏休みのシーズンがやってくるという時期のことだった。
比良坂すずが高校からの帰り道で交通事故に遭い、意識不明に陥った。
その情報を受けて、俺はすぐに彼女の元へ向かった。
また、車との衝突事故だ。俺は十年前の事故を思い出し、絶望的な気持ちになった。
また、彼女を奪われてしまう。命だけでは飽き足らず、臓器まで。なぜそんな不幸ばかりが起こるのかと、俺は神を呪った。
幸い、比良坂すずの命に別状はなく、入院して二日ほどで意識を取り戻した。右目も無事で、俺はホッと胸を撫で下ろす。
良かった。これでまた、彼女の右目を観察する日々は続く。
帰り際にもう一度だけ彼女の様子を見に行こうと、病室の前で聞き耳を立てていたときのことだった。
部屋の中から聞こえてくる会話に、俺は耳を疑った。
「あのさ。僕は、体は女だけど……心は男だった、ってことはない?」
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