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Chapter #3
Fの意味
しおりを挟むこちらがギャーギャーやっている内に、スピーカーの向こうからカヒンの心配そうな声が聞こえてくる。
「Misaki? What’s wrong?」
どうしたの、と彼に尋ねられて、私は反射的に「ノープロブレム!」と返す。
彼には一刻も早く身体を休めてほしいので、そのまま無理やり通話を切ろうとすると、
「Wait, Misaki.」
待って、と彼に引き留められる。
そして、
「Can I see you tomorrow?」
明日は会える? と改めて聞かれて、私はつい胸を高鳴らせてしまう。
「い、イエス…… Of course! I want to meet you!」
もちろん、私も会いたい、とつい勢いで言ってしまってから、ハッと我に返る。
隣を見ると、舞恋がニヤニヤといやらしい目でこちらを見つめていた。
これは間違いなく後でいじられる。
それから簡単な挨拶を済ませて、私はカヒンとの通話を切った。
「ふぅーん。なかなか見せつけてくれるじゃん、みさきち。私も会いたぁい、なんてさ」
「もー! いいでしょ別に。付き合ってんだから!」
「あははは! みさきち、顔が真っ赤になってる!」
初心だねえ、と舞恋はひとしきり私をからかった後、やがて思い出したように言った。
「そういえば昨日の帰りってさ、カヒンは最終バスに間に合ったの? シティで解散した後、みさきちを家まで送ってったんだよね?」
「え? うん。私を送ってくれた後も、帰りのバスは一便だけ残ってたみたいだから大丈夫だったよ」
それがどうかしたの? と首を傾げる私に、舞恋は疑り深い視線を向ける。
「その最終バスってさ、時刻表のところに『F』ってマーク付いてなかった?」
「え?」
そういえば、と私は思い出す。
舞恋の言う通り、最終便の時刻の隣には『F』という文字が確かに表記されていた。
「うん、付いてたよ。最終便だから『ファイナル』の『F』でしょ?」
「違う違う! あれ、『Friday Only』の『F』だよ!」
言われて、私は一瞬頭が真っ白になった。
『Friday Only』——『金曜日のみ』。
「……金曜日、だけ?」
「そうだよ! その便は金曜日にしか運行してないの。昨日は日曜日だったから、カヒンは最終便を逃したんだよ!」
「えっ……ええ————!?」
まさかの事態に、私は再び大声を上げてしまう。
「だからうるさいって、みさきち」
両耳を塞いだ舞恋からまたもや注意を受ける。
けれど私の胸中はもはやそれどころではなかった。
「うそ……じゃあカヒンってば、私を送ったせいでバスに乗れなかったの……?」
「タクシーを拾った可能性もあるけど、今日の様子だと家まで歩いて帰ったのかもね。まあ一応歩けない距離でもないだろうし」
「でも絶対めちゃくちゃ時間かかるよね? 帰宅したの、何時だったんだろう……」
やってしまった。
彼が優しいのはわかっていたはずなのに、彼の心遣いに私は気づくことができなかった。
彼のことだから、きっと時刻表の『F』の意味も最初からわかっていたのだろう。
「あ、謝らなきゃ……。明日会ったときに、ちゃんと」
「ちょい待ち、みさきち。謝るのも悪いことじゃないけど、それよりもっと大事なことがあるでしょ?」
「え?」
舞恋はふふん、と腰に手を当てて、
「感謝だよ、感謝の気持ち。ありがとうって伝えること。カヒンだってきっとさ、みさきちに申し訳なさそうにされるより、ありがとうって言って笑ってもらった方が喜ぶと思うよ」
ねっ、とドヤ顔で笑う舞恋に、私の心も和らぐ。
「……そう、だね。確かにそうかも」
「そういうこと! あんま肩肘張らずにさ、もっと彼に甘えちゃえばいいんだよ。みさきちはカヒンの彼女なんだから」
ま、ゴルフは私に甘えすぎだけどねー、と言って始まった彼女の愚痴を、今度は私が聞く番だった。
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