竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも

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23 戻ってきた日常と新たな習慣

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 バートラフの熱が下がり、ワッツァも帝都へ帰り。
 大変な一日が終わった。
 その晩。
 こっそりと城の地階へ続く階段を下りる。

 セティ。
 わたしを迎えに来て、彼はワッツァに見つかり、捕えられてしまった。
 監禁されている地下牢は、じめじめした不快なところだという。暗がりと湿気で、頑丈な竜人でさえ、病気になってしまうらしい。

 一刻も早くセティを外に出さなければならない。

 誰に聞いても、牢獄の場所はわからなかった。ヨハンナも首を横に振った。
 ワッツァは地下牢だと言った。ならば、地下をしらみつぶしに当たるしかない。
 けれど、間に合うだろうか。
 不安で仕方がない。
 階段の先は行き止まりだった。
 まただ。ここではない。
 セティ。いったいどこにいるの?





 「お父様が来て下さった」
あれからバートラフは大得意だ。
「僕がお熱を出したら、お父様は公務をほったらかして、すっ飛んできて下さった」

「よかったわね」
棒読みのようにわたしは言う。
「お父様は、僕を大事に思って下さっているんだ」
「そうね。間違いないわ」

 本当は大違いだ。
 ワッツァはバートラフを殺そうとした。
 でも、首に鱗が生え始めたので、すんでのところで、止めた。

 後から聞いた話では、鱗が生えてきたら、成竜になるのは時間の問題だという。竜の時間だから、いったいどのくらいなのかは見当もつかないけど。
 ワッツァは、バートラフが、一人前の竜になる可能性が出て来たから、息子を生かしておくことにしたのだ。

 バートラフが眠っていた間の出来事を、わたしは話していない。
 だって彼は、父親を、心の底から尊敬し、慕っているんだもの。孤独な少年の、たった一つの拠り所を奪うことは、わたしにはできない。

 窓辺では、些かぎこちない動作で、マティルドが鉢植えの花に水をやっている。彼の右の袖は、空洞だ。残忍なワッツァは、利き腕を切り落としたのだ。
 本来なら、体に欠損のある従者は解雇される。けれどバートラフは、マティルドを城に置き続けた。目にいっぱい涙をためて、自分の側にいてくれと懇願した。マティルドも、目を潤ませて、それを受け容れた。
 ……。

 「おや、バートラフ殿下。おでかけですか?」
 マティルドが声をかけた。
 バートラフが、抜き足でドアから出ようとしている。

 わたしは慌てた。
「ダメよ。あれだけお熱があったのだから、まだもう少し、お部屋にいましょう」
 ぎろりとバートラフがわたしを睨んだ。
「僕に指図するな」
「どこへ行かれるの?」
「僕の勝手だ」
「なら、わたしも同行しましょう」
「断る」
 いきなり走り出した。ぱたぱたと軽い足音が、楽し気に響き渡る。

「もうすっかりお元気になったようですね。お熱が引いてから、また一段と成長されたようです。今は、殿下の御意思を尊重することが大切です」
 マティルドが断言する。バートラフが城に留まってくれと哀願した時に目を赤くした以外は、彼は全くいつも通りだ。

 そうはいっても、幼児を一人で外へ出すわけにはいかない。放っておくと、普段着のまま、帽子も被らずに、宮殿の外へ出ていってしまうのだ。 
「待ちなさい。こら、バートラフ!」
わたしは、彼の後を追った。


 しっぽをぱたぱた振りながら(また、しっぽを隠し忘れてる!)、バートラフが向かったのは、庭園の奥にある岩場だった。
 国内の奇岩を集めたという、悪趣味な場所だ。竜は空を飛ぶからいいのかもしれないが、ごつごつした岩場は、歩くのさえ容易ではない。

 さすがに今度は、バートラフが近くにいるので、はしたない真似はできない。踵の高い靴で、ドレスはちょっと絡げただけで走るしかない。
 可愛い尻尾を追いかけながら、何度も転びそうになった。

 それなのに、バートラフを見失うことはなかった。なんだか、走る速度を調整してくれているみたい。さもなければ、ここまでついてこれなかったと思う。
 けれど、屏風のように聳え立った大岩の辺りで、とうとう見失ってしまった。

 「バートラフ! どこにいるの? バートラフ!」
 返事はない。
 そもそも、わたしがついてくるのを嫌がっていたのだから、返事などするわけがない。
「バートラフったら!」

 気のせいだろうか。すすり泣く声が聞こえた。

 「バートラフ?」
 声は、頭上から聞こえる。岩の上だ。
 確かに泣いている。
 バートラフの声だ。



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