【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン

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最終章 最高の仲間たちと一国への治療行為

第四十話  アメリア・フィンドラルの言動 ② 

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 私とリヒトはむせ返る血臭をできるだけ嗅がないようにしながら、大ホールへと向かった。

 主核の魔力水晶石がある最上階へ行くためには、嫌でも大ホールから階段を使って上へと目指さなくてはならないからだ。

 やがて私たちが大ホールへと辿り着いたときである。

 私は大きく目を見開いて息を呑んだ。

 あまりに物事に動じないリヒトでさえ、視界に入ってきた大ホールの光景には強く眉根を寄せた。

 大ホールの中央には死体の山が築かれていた。

 決して比喩的な表現ではない。

 吹き抜けの大ホールには、本当に100人を超える死体がうず高く積まれていたのである。

 こんな凄惨な光景を見るのは生まれて初めてだった。

 明らかに人間のすることではない。

 目の前の光景にめまいを覚えたとき、リヒトが私の視界を遮るように動いた。

 私を背にしながら、無言のまま十数メートル前方の死体の山に顔を向けている。

「リヒト?」

 私はリヒトの背中に声をかける。

 それでもリヒトは喋らない。

 決して恐怖で立ち止まっているわけではないだろう。

 リヒトの胆力は常人をはるかに凌駕するほど強いのだ。

 ならば、なぜここで立ち止まっているのか。

 まさか、あの死体の山の中に親しい人間がいる?

 私は吐き気を意思の力で抑えつつ、三角形になるほど積まれていた死体の山をじっと見る。

 死体の山はあらゆる職種の人間たちによって構成されていた。

 この国の中枢にいる大臣たちを始め、王宮騎士団の騎士たち、その他にも侍女などの城勤めの人間たちの死体があった。

 リヒトと関係していそうなのは、王宮騎士団の騎士たちの死体だろうか。

 だが、リヒトと特に親しくしている騎士がいるなど聞いたことがなかった。

 いや、私が知らないだけで懇意にしていた騎士がいたのかもしれない。

 そして、その騎士があの死体の山の中にあるとしたら……。

 私はリヒトの肩にポンと手を置く。

「ねえ、リヒト。あの死体の中にあなたの親しい人がいたとしても、今は結界部屋の魔力水晶石を何とかするほうが先よ。だから――」

 早く先へ急ぎましょう、と言おうとしたときだ。

「お嬢さま、違います」

 リヒトは振り向かずに答えた。

「俺はそのような理由で立ち止まっているわけではありません」

 そう言うと、リヒトは周囲の床に視線を這わせる。

 するとリヒトは床に転がっていた長剣を拾い上げた。

 私は小首をかしげた。

 なぜ、リヒトは他人の剣など拾ったのだろう。

 などと思ったのも束の間、リヒトはその長剣を死体の山に向かって勢いよく投げつけた。

 空気を切り裂きながら飛んで行った長剣は、死体の山のほぼ頂点にあった騎士の身体に突き刺さる。

 私が声を出せずに驚愕していると、リヒトは死体の山に向かって「さっさと出て来い。そんなところに隠れて俺たちを油断させるつもりか?」と言い放った。

 やがて死体の山の一部に変化があった。

 リヒトが投げた長剣が刺さっている騎士の死体がゴロンと動き、その下から何かがムクリと動いて姿を現したのだ。

 全裸姿の人間の男である。

 身長は私よりも頭1つ分は低いだろうか。

 体型も丸々と肥えている。

 私は食い入るようにその男の顔を見た。

 頭のてっぺんからつま先まで血だらけだったので、最初こそ男の顔がわからなかったが、背丈や体型から推察したことで私の脳裏にある男の顔が浮かんだ。

「まさか、アントンさま?」

 ですね、とリヒトが低い声で同意する。

「ただ、あのアントン・カスケードはもう死んでいます」

「え? でも、アントンさまは動いているじゃない」

 事実、アントンさまはモゾモゾと動いている。

「いいえ、あれは動いているのではなく動かされているのです。アントンの死体の下に隠れている奴に」

 そうだろ、とリヒトはアントンさまに向かって言う。

「うふふふふふ」

 突如、アントンさまのほうからゾッとするほどの声が聞こえた。

「さすがはリヒト・ジークウォルト。さすがにあなたは騙せなかったわね。あ~あ、本当に惜しい。あなたさえいなければ、その後ろにいるお姉さまの隙をつくことができたのに」

 それは私がもっともよく知っている者の声だった。

「姿を現しなさい!」

 私が叫ぶと同時に、アントンさまの身体が飛び跳ねるように動いて死体の山から転がり落ちる。

 やがてアントンさまは床まで落ちてきて、何度か回転したあとに止まった。

 リヒトの言った通りである。

 仰向けのままピクリとも動かなかったアントンさまの目は、生命の輝きを失って暗く濁っていた。

 おそらく、死亡してから数時間といったところか。

 けれど、私がアントンさまの死体を見つめていたのは数秒だ。

 すぐに死体の山のてっぺんに視線を移す。

 私は再び息を呑んだ。

 いつの間にか、死体の山のてっぺんには1人の少女が立っていた。

 巨大な蝙蝠の翼を生やした異形の少女が――。

「ミーシャッ!」

 魔王の如き死体の山の上に君臨していたのは、私の妹であるミーシャ・フィンドラルだった。
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