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最終章 最高の仲間たちと一国への治療行為
第三十九話 アメリア・フィンドラルの言動 ①
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アンバーの疾走力は凄まじいの一言だった。
私、リヒト、メリダを背中に乗せたまま、アンバーはまさに疾風の如き速さで国内を駆けていく。
野を超え山を超え、大きな河も難なく飛び越えて、やがて丸1日もしないうちに私たちは王都へと辿り着いた。
「こ、これって……」
王都へと辿り着いたとき、私は眼前に広がっている光景に唖然となった。
周囲はすでに夜の帳が完全に落ちていたが、王都は色街なども多いので不夜城としても有名だ。
なので夜が更けても王都の明かりが完全に消えることはない。
そして今の王都も煌々とした明かりに包まれていた。
だが、それは飲食店や色街などから放たれている明かりではない。
大火事による悲痛な明かりだった。
華の都である王都は、今まさに紅蓮の業火に包まれていたのである。
「きゃああああああッ!」
「だ、誰か助けてくれ!」
「早く火を消せ!」
「王宮騎士団を呼んでこい! 俺たち自警団だけじゃどうしようもねえ!」
そこら中から阿鼻叫喚の悲鳴や怒号が木霊してくる。
現在、王都は混沌の坩堝と化していた。
多くの建物から出ている炎はどんどんと燃え広がっており、住人たちは協力して火を消そうとしているが、逃げ惑う人たちで揉みくちゃになっているので消火活動が上手く出来ていない。
加えて住人たちは火事以外の何かを恐れているようだった。
「もしかして、オクタで起こったことと同じことが――」
「起きているようですね。ただし、こちらのほうが規模は数十倍以上ですが」
私の言葉を継いだのはリヒトである。
「さすがにこれはお師匠さまやリヒトさんでも収集をつけられないような……」
やがてメリダがぼそりとつぶやく。
確かにね、と私は同意した。
今の王都は戦場以上の混乱に満ちあふれている。
これが王都中の教会にある魔力水晶石の誤作動が原因で、その魔力水晶石から流れて出た〈魔素〉で狂人化した神官たちの仕業ならば、私とリヒトの2人だけで何とかできる範囲を超えていた。
しかも王都は辺境の街とは違って王宮騎士団を始め、街中には冒険者ギルドや巡回専門の騎士団、有志の住人たちによる自警団も数多く存在している。
それらがまったく機能していない。
いや、最大限に機能しても対処に追い付いていないのだ。
それほど王都の中で起こっている惨劇の規模はとてつもないのだろう。
だとしたら、やはり私たちがしなければならないことは1つである。
「アンバー、このまま私たちを城へと連れて行って」
そうである。
ここまで被害が甚大すぎると、王都中の教会を回って1つ1つの魔力水晶石に魔力を流し込むなどという作業をしていては被害を止められない。
私は遠くに見えるカスケード城を睨みつける。
住人たちには申し訳ないが、このすべての元凶を鎮めるためには主核の魔力水晶石を何とかするしかない。
「ワオオオオオオオオオオオオンッ!」
アンバーは大気を震わすほどの雄叫びを上げると、銀色の暴風となって王都の中を疾走していく。
もちろん、逃げ惑う住人たちとぶつからないように避けながらだ。
そして私たちは瞬く間にカスケード城の正門へと到着した。
カスケード城は周囲を水が張られた堀で囲まれており、城の内部へ入るには橋の役目もしている正門を通らなければならない。
その正門が今は完全に閉ざされていた。
時間も時間なので無理もないが、王都の混乱を考えると正門が下りてないのはおかしい。
これだと城内にいる王宮騎士団が王都に出ることができないじゃない。
などと考えたあと、私は閉ざされている正門を見てハッとした。
まさか、正門を下ろせないほどの何かが城内で起きている?
あり得た話だった。
王宮騎士団たちは城外に出たくても出れない状況にあるとしたら……。
私はアンバーにあの堀を飛び越えて城内に入れないか訊いた。
するとアンバーは「オオオオオン!」と吠える。
その声の調子から判断できた。
アンバーは「できます!」と答えている。
私はすぐにアンバーにお願いした。
私たちをカスケード城内に行けるようにしてほしい、と。
直後、アンバーは全力疾走した。
アンバーは私たちを乗せたまま堀の手前で跳躍し、大きく半円を描くようにしてカスケード城の城壁の上を飛び越えた。
ズザアッ、と大量の土埃を舞い上がらせながら着地する。
さすがはフェンリル種の狼だ。
5メートル以上の城壁を、3人の人間を乗せたまま軽々と飛び越えるなど驚愕に尽きる。
しかし、今はアンバーの身体能力に驚いている場合ではない。
私はアンバーの背中から飛び降りた。
続いてリヒトが降り、最後にリヒトの手を借りながらメリダが降りる。
私はカスケード城を見上げた。
やはりカスケード城内も異常事態に陥っていた。
正門が上がった状態の堀の向こう側からはわからなかったが、カスケード城内も混乱と凄惨の極みに達していた。
悲鳴と怒号もさることながら、そこら中に王宮騎士団や城勤めの人間たちの死体が転がっている。
それも同士討ちしたような異様な死体や、野獣のように互いに食い争ったような変死体まで存在していた。
「うわあああああああああああッ!」
「た、助けてくれええええええッ!」
「いやあああああああああああッ!」
私が城内の凄惨な状況を確認していると、城の中から悲鳴を上げた人間たちが駆け寄ってくる。
王宮騎士団の騎士たちもいたが、その他にも侍女や料理人たちの姿もあった。
そんな人間たちは私たちの横を通り過ぎると、一目散に上がったままの正門のほうへと向かっていく。
だが、あのままでは正門は下りない。
正門の内側には門を下ろすための装置があるのだが、その装置の前どころか詰め所にすら誰1人として人間がいないからだ。
そうなると正門を下ろすことができず、城側から王都のほうへ逃げることもできない。
私はアンバーとメリダを交互に見たあと、まずはアンバーに言った。
「ごめん、アンバー。ここまで無茶をさせたけど、最後にもう1度だけ無茶なことをしてくれる」
アンバーは嫌がらずに「ワオン」と小さく吠える。
「内側から正門に体当たりして無理やり正門を下ろしてほしいの。正門さえ下りれば、少なくともあの人たちはここから脱出できる」
本当は正門を下げるために装置を動かすのが1番いいのだが、こんな非常時にそんな悠長なことをしている暇はない。
アンバーは「了解です!」と言うように吠える。
次に私はメリダに顔を向ける。
「メリダ、あなたはアンバーが正門を下ろしたら逃げた人たちを誘導してあげて。そのあとはアンバーと一緒に安全な場所に隠れていなさい」
「待ってください、お師匠さま。わ、私も何かお役に立ちたいです」
私は小さく首を左右に振った。
「ダメよ、予想以上に事態はひどいことになっている。ここまでひどいと、もしものときにあなたを守れるかどうかもわからない」
それに、と私は言葉を続けた。
「私たちが戻らなかったら、そのままあなたはアンバーと故郷に帰りなさい。そしてフタラ村の人たちを連れてどこか別の国に逃げるのよ」
「そ、そんな……」
これにはメリダも大いに動揺した。
それはアンバーも同じだった。
顔を下に向けて「ク~ン」と悲しそうに鳴く。
私も心が痛んだが、こればかりは仕方がない。
もはやここは恐ろしい戦場の渦中なのだ。
助けられる命は多いに越したことはない。
とはいえ、私もみすみす死ぬ気などなかった。
それに私にはこの世で1番頼もしい助手兼従者がいる。
私がリヒトに視線を移すと、リヒトはこくりとうなずいた。
「お嬢さま、俺はどこまでもお供しますよ」
「それが地獄の底だとしても?」
「はい、たとえ地獄の底だろうとお供いたします。このリヒト・ジークウォルトはこの世でただ1人のお嬢さまの助手兼従者なのですから」
私はフッと笑った。
本当に頼もしい従者である。
このリヒトが傍にいてくれる限り、私は何でもできるような気がしてくる。
「お嬢さま、そうとなれば急ぎましょう。あまりモタモタしていると、このカスケード王国が滅んでしまいます」
確かにそうだ。
私はアンバーとメリダを交互に見る。
「それじゃあ、2人とも気をつけてね。さっき言ったことはあくまでも最悪な事態が起こったらだけど、そうならないように私たちも力を尽くすから」
「約束ですよ、お師匠さま。絶対に無事に戻ってきてくださいね」とメリダ。
「ワオオオン」とアンバー。
「約束よ。私たちはすべてを終えて絶対に戻るから」
そう言うと私は、リヒトを連れて城内へと駆け出した。
すべての元凶である、主核の魔力水晶石がある場所へと――。
私、リヒト、メリダを背中に乗せたまま、アンバーはまさに疾風の如き速さで国内を駆けていく。
野を超え山を超え、大きな河も難なく飛び越えて、やがて丸1日もしないうちに私たちは王都へと辿り着いた。
「こ、これって……」
王都へと辿り着いたとき、私は眼前に広がっている光景に唖然となった。
周囲はすでに夜の帳が完全に落ちていたが、王都は色街なども多いので不夜城としても有名だ。
なので夜が更けても王都の明かりが完全に消えることはない。
そして今の王都も煌々とした明かりに包まれていた。
だが、それは飲食店や色街などから放たれている明かりではない。
大火事による悲痛な明かりだった。
華の都である王都は、今まさに紅蓮の業火に包まれていたのである。
「きゃああああああッ!」
「だ、誰か助けてくれ!」
「早く火を消せ!」
「王宮騎士団を呼んでこい! 俺たち自警団だけじゃどうしようもねえ!」
そこら中から阿鼻叫喚の悲鳴や怒号が木霊してくる。
現在、王都は混沌の坩堝と化していた。
多くの建物から出ている炎はどんどんと燃え広がっており、住人たちは協力して火を消そうとしているが、逃げ惑う人たちで揉みくちゃになっているので消火活動が上手く出来ていない。
加えて住人たちは火事以外の何かを恐れているようだった。
「もしかして、オクタで起こったことと同じことが――」
「起きているようですね。ただし、こちらのほうが規模は数十倍以上ですが」
私の言葉を継いだのはリヒトである。
「さすがにこれはお師匠さまやリヒトさんでも収集をつけられないような……」
やがてメリダがぼそりとつぶやく。
確かにね、と私は同意した。
今の王都は戦場以上の混乱に満ちあふれている。
これが王都中の教会にある魔力水晶石の誤作動が原因で、その魔力水晶石から流れて出た〈魔素〉で狂人化した神官たちの仕業ならば、私とリヒトの2人だけで何とかできる範囲を超えていた。
しかも王都は辺境の街とは違って王宮騎士団を始め、街中には冒険者ギルドや巡回専門の騎士団、有志の住人たちによる自警団も数多く存在している。
それらがまったく機能していない。
いや、最大限に機能しても対処に追い付いていないのだ。
それほど王都の中で起こっている惨劇の規模はとてつもないのだろう。
だとしたら、やはり私たちがしなければならないことは1つである。
「アンバー、このまま私たちを城へと連れて行って」
そうである。
ここまで被害が甚大すぎると、王都中の教会を回って1つ1つの魔力水晶石に魔力を流し込むなどという作業をしていては被害を止められない。
私は遠くに見えるカスケード城を睨みつける。
住人たちには申し訳ないが、このすべての元凶を鎮めるためには主核の魔力水晶石を何とかするしかない。
「ワオオオオオオオオオオオオンッ!」
アンバーは大気を震わすほどの雄叫びを上げると、銀色の暴風となって王都の中を疾走していく。
もちろん、逃げ惑う住人たちとぶつからないように避けながらだ。
そして私たちは瞬く間にカスケード城の正門へと到着した。
カスケード城は周囲を水が張られた堀で囲まれており、城の内部へ入るには橋の役目もしている正門を通らなければならない。
その正門が今は完全に閉ざされていた。
時間も時間なので無理もないが、王都の混乱を考えると正門が下りてないのはおかしい。
これだと城内にいる王宮騎士団が王都に出ることができないじゃない。
などと考えたあと、私は閉ざされている正門を見てハッとした。
まさか、正門を下ろせないほどの何かが城内で起きている?
あり得た話だった。
王宮騎士団たちは城外に出たくても出れない状況にあるとしたら……。
私はアンバーにあの堀を飛び越えて城内に入れないか訊いた。
するとアンバーは「オオオオオン!」と吠える。
その声の調子から判断できた。
アンバーは「できます!」と答えている。
私はすぐにアンバーにお願いした。
私たちをカスケード城内に行けるようにしてほしい、と。
直後、アンバーは全力疾走した。
アンバーは私たちを乗せたまま堀の手前で跳躍し、大きく半円を描くようにしてカスケード城の城壁の上を飛び越えた。
ズザアッ、と大量の土埃を舞い上がらせながら着地する。
さすがはフェンリル種の狼だ。
5メートル以上の城壁を、3人の人間を乗せたまま軽々と飛び越えるなど驚愕に尽きる。
しかし、今はアンバーの身体能力に驚いている場合ではない。
私はアンバーの背中から飛び降りた。
続いてリヒトが降り、最後にリヒトの手を借りながらメリダが降りる。
私はカスケード城を見上げた。
やはりカスケード城内も異常事態に陥っていた。
正門が上がった状態の堀の向こう側からはわからなかったが、カスケード城内も混乱と凄惨の極みに達していた。
悲鳴と怒号もさることながら、そこら中に王宮騎士団や城勤めの人間たちの死体が転がっている。
それも同士討ちしたような異様な死体や、野獣のように互いに食い争ったような変死体まで存在していた。
「うわあああああああああああッ!」
「た、助けてくれええええええッ!」
「いやあああああああああああッ!」
私が城内の凄惨な状況を確認していると、城の中から悲鳴を上げた人間たちが駆け寄ってくる。
王宮騎士団の騎士たちもいたが、その他にも侍女や料理人たちの姿もあった。
そんな人間たちは私たちの横を通り過ぎると、一目散に上がったままの正門のほうへと向かっていく。
だが、あのままでは正門は下りない。
正門の内側には門を下ろすための装置があるのだが、その装置の前どころか詰め所にすら誰1人として人間がいないからだ。
そうなると正門を下ろすことができず、城側から王都のほうへ逃げることもできない。
私はアンバーとメリダを交互に見たあと、まずはアンバーに言った。
「ごめん、アンバー。ここまで無茶をさせたけど、最後にもう1度だけ無茶なことをしてくれる」
アンバーは嫌がらずに「ワオン」と小さく吠える。
「内側から正門に体当たりして無理やり正門を下ろしてほしいの。正門さえ下りれば、少なくともあの人たちはここから脱出できる」
本当は正門を下げるために装置を動かすのが1番いいのだが、こんな非常時にそんな悠長なことをしている暇はない。
アンバーは「了解です!」と言うように吠える。
次に私はメリダに顔を向ける。
「メリダ、あなたはアンバーが正門を下ろしたら逃げた人たちを誘導してあげて。そのあとはアンバーと一緒に安全な場所に隠れていなさい」
「待ってください、お師匠さま。わ、私も何かお役に立ちたいです」
私は小さく首を左右に振った。
「ダメよ、予想以上に事態はひどいことになっている。ここまでひどいと、もしものときにあなたを守れるかどうかもわからない」
それに、と私は言葉を続けた。
「私たちが戻らなかったら、そのままあなたはアンバーと故郷に帰りなさい。そしてフタラ村の人たちを連れてどこか別の国に逃げるのよ」
「そ、そんな……」
これにはメリダも大いに動揺した。
それはアンバーも同じだった。
顔を下に向けて「ク~ン」と悲しそうに鳴く。
私も心が痛んだが、こればかりは仕方がない。
もはやここは恐ろしい戦場の渦中なのだ。
助けられる命は多いに越したことはない。
とはいえ、私もみすみす死ぬ気などなかった。
それに私にはこの世で1番頼もしい助手兼従者がいる。
私がリヒトに視線を移すと、リヒトはこくりとうなずいた。
「お嬢さま、俺はどこまでもお供しますよ」
「それが地獄の底だとしても?」
「はい、たとえ地獄の底だろうとお供いたします。このリヒト・ジークウォルトはこの世でただ1人のお嬢さまの助手兼従者なのですから」
私はフッと笑った。
本当に頼もしい従者である。
このリヒトが傍にいてくれる限り、私は何でもできるような気がしてくる。
「お嬢さま、そうとなれば急ぎましょう。あまりモタモタしていると、このカスケード王国が滅んでしまいます」
確かにそうだ。
私はアンバーとメリダを交互に見る。
「それじゃあ、2人とも気をつけてね。さっき言ったことはあくまでも最悪な事態が起こったらだけど、そうならないように私たちも力を尽くすから」
「約束ですよ、お師匠さま。絶対に無事に戻ってきてくださいね」とメリダ。
「ワオオオン」とアンバー。
「約束よ。私たちはすべてを終えて絶対に戻るから」
そう言うと私は、リヒトを連れて城内へと駆け出した。
すべての元凶である、主核の魔力水晶石がある場所へと――。
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