【完結】勇者PTから追放された空手家の俺、可愛い弟子たちと空手無双する。俺が抜けたあとの勇者たちが暴走? じゃあ、最後に俺が息の根をとめる

ともボン

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第五章 ~邂逅、いずれ世界に知れ渡る将来の三拳姫~

道場訓 三十七   この世は袖振り合うも他生の縁

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 どうやら体調が戻ったのだろう。

 キキョウは目覚めるとゆっくり上半身を起こし、無意識なのだろうが口元に付着していた吐瀉物としゃぶつそでぬぐった。

「もう大丈夫なのか?」

 俺が優しくたずねると、キキョウは驚いた顔を向けてくる。

「け、ケンシン・オオガミ……殿どの!」

 直後、キキョウは大声で俺の名前を叫んだ。

 続いてハッとした顔になると、自分の身体をまさぐり始める。

「なぜだ……どこも苦しくない」

 キキョウが困惑こんわくするのも当然だった。

 死を覚悟で非合法な魔薬まやく過剰摂取かじょうせっしゅし、苦痛の極みを感じて気を失ったものの、目を覚ませば肉体が元通りに回復していたのだ。

 驚くなと言うほうが無理だろう。

「安心しろ。お前の身体をむしばんでいたいびつ魔力マナはもう消えたはずだ」

「まさか……一体、どうやって?」

「体内の気脈の流れを整えたあと、お前の体内に蓄積ちくせきしていたいびつ魔力マナ気力アニマで外に流したんだ。要するに毒消しだな。薬で散らすよりも効果的だから後遺症こういしょうも残らないはずだぞ」

 そう言うと俺は、キキョウに自分の身体をもっと確かめてみろと言った。

 キキョウはおそるおそる自分の身体をくわしく確かめると、「本当だ。まったくどこも痛くない」と感心したようにつぶやく。

「ケンシン殿どの……お主が拙者せっしゃを助けてくれたのか?」

「いや、お前を助けたのは俺ではなくそこにいる――」

 リゼッタだ、と答えようとしたときだ。

 キキョウはすぐさま正座になった。

 そして――。

「本当に申し訳ありませんでした!」

 地面にひたいをこすりつけそうなほど頭を下げて謝罪してきた。

拙者せっしゃらを助けてくれた英雄に対して傍若無人ぼうじゃくぶじんな態度を取ったばかりか、おのれの悪行をなすりつけるような真似をしたことひらにご容赦ようしゃ願いたい。いや、謝っても許してもらえないことは重々じゅうじゅう承知しょうちしています。なので、どうかこれでご勘弁かんべんを――」

 そう言うとキキョウは、地面に転がっていた大刀に手を伸ばす。

「――――ッ!」

 俺はすかさずキキョウの手をつかんだ。

「な、何をなされます!」

「それはこっちの台詞せりふだ。お前、その刀で何をするつもりだった?」

「…………」

 言いよどむキキョウに俺は「まさか、また自殺するつもりだったんじゃないだろうな?」とにらみつけた。

「馬鹿野郎が、せっかく助かった命をすぐに捨てるな」

「しかし、こうでもしないとケンシン殿どのに対する責任を果たせません。拙者せっしゃは自身の悪行あくぎょうが広まる恐れをケンシンの殿どののせいにし、あまつさえケンシン殿どのに殺されることですべてを無かったことにしようとしたのですよ」

「だからといって自殺なんてするな。確かにお前のやったことは普通の人間にとっては許しがたいことだが、俺のような空手馬鹿からてばかにとっては些末さまつなことだ」

 俺はキキョウの手をそっと離した。

「それにお前がどういう理由で非合法な魔薬まやくに手を出したのかは知らないが、非合法な魔薬まやくには多かれ少なかれ頭の感覚を狂わせる副作用もある。そのせいでお前が今回の凶行きょうこうに走った可能性もあるかもしれない……まあどちらにせよ、これにりたら非合法な魔薬まやくとは完全にえんを切って真っ当に生きるんだな」

「まさか……拙者せっしゃを許してくださるのか?」

「許すも何も俺にとってはこの程度のことはトラブルの内にも入らん。それにどんな事情であれ、目の前で女が死ぬのは見たく――」

 ないからな、と言葉を続けようとしたときだ。

拙者せっしゃを弟子にしてくだされ!」

 突然、キキョウは弟子入りを懇願こんがんしてきた。

「ケンシン・オオガミ殿どの……拙者せっしゃ感服致かんぷくいたしました。あなたは拙者せっしゃの意図を的確に見抜いたばかりか、傍若無人ぼうじゃくぶじんな振る舞いをした拙者せっしゃに対して武人としての生き様すらも教えてくれた。その慧眼けいがん、その寛容かんようさ、その強さ、まことにもって御見おみそれしました」

 キキョウは明星みょうじょうあおぐように俺を見つめてくる。

「そして、あなたは気を失う前に拙者せっしゃに言ってくださった。生まれ変わったつもりで生きてみろ、と。ならば、拙者せっしゃはその言葉通りに生きてみたい思います」

「それが俺の弟子になることだと?」

「はい。サムライだった拙者せっしゃはたった今ここで死に、英雄であるケンシン・オオガミ殿どのの弟子として生まれ変わりました。何卒なにとぞ、これからは拙者せっしゃに武芸の教示きょうじばかりか、人生においての導き手になってくだされ。もちろん、虫の良い話だということは承知しょうちしています。ですが何卒なにとぞ何卒なにとぞお願いいたします」

 俺はキキョウに対して真剣な表情を向けた。

 こいつ、本気だな。

 キキョウは心の底から反省した上で俺の弟子になりたがっている。

 ゆえに俺がここで弟子入りを断った場合、今度こそキキョウは失意を胸に自害するだろう。

 それほどの本気さは痛いほど伝わってくる。

 だとしたら、俺が出すべき答えは一つしかなかった。

「分かった。お前を弟子にしよう」

「本当でございますか!」

「こんなことで嘘を言ってどうする。だが、俺の弟子となる以上は今後二度と非合法な魔薬まやくを服用するのは禁じる。生まれ変わったと言うのなら、そんなものに頼らなくても強くなってみろ」

 それは俺自身にも言えたことだった。

 生まれ変わったつもりで生きてみろ、と叱咤しったしたのは俺なのだ。

 他にも安易あんいに死を選んで責任を取った気になるなとも言った手前、キキョウが自分で死を選ぶような選択肢を俺自身が与えてはならない。

 それにこの世は袖振そでふり合うも他生たしょうえんという。

 どんなに些細ささいなキッカケでも、その出会いは前世からの因縁いんねんによるものだから大切にしろというヤマト国の言葉だ。

 そして師匠であった祖父の好きな言葉でもあった。

 このキキョウとの出会いも、エミリアと同じく何かしらのえんなのかもしれない。

 などと俺が思っていると、「ケンシンさま」と俺を呼ぶ声が聞こえた。

 声がしたほうに視線を移すと、正座していたキキョウの横にいつの間にかリゼッタが座っていた。

 しかもキキョウと同じくきちんと正座している。

「り、リゼッタ?」

 俺がおそるおそる声をかけると、リゼッタは涙目のまま大きく鼻をすすりながら口を開いた。

「うちも……うちも今度こそちゃんとした弟子にしてください」
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