62 / 115
新たなる脅威篇
3 急襲!-3-
しおりを挟む
「………………」
爆音が鳴り止み、黒煙が大気に溶けて消える。
「他には――」
なさそうですね、と従者は安堵する。
「はい…………」
シェイドは落魄した様子で返した。
「おそらく積み荷を狙った賊の類でしょう。ここに留まる理由はありません。すぐに避難所に向かいましょう」
とはいうが、一台は大破して使い物にならない。
前の車両には二台分の物資と人員を収容できるスペースはない。
「艇を呼びましょう。この辺りなら着陸できる場所もありそうです。荷物はそれに――」
「いや、待て! それは駄目だ」
声を荒らげたのは分乗するよう提案した従者だ。
「敵の正体も規模も分かっていない。その通信も傍受される恐れがある。我々にトラブルが起きたと気付かれればまた狙わるぞ」
早口でまくし立てて彼はシェイドに向きなおった。
「まずは皇帝だけでも目的の避難所に車で向かわれ、そこで新たに調達した車両をこちらに寄越していただく……これが最良かと」
「その間、他の人はどうするんですか?」
「ここでお待ちします。もし物資を全てあれに積み込めるなら歩いて避難所に向かいましょう。そうすれば合流地点が近くなります」
最善策であることを彼は念押しした。
が、シェイドはすぐには首を縦に振らない。
やはり皆を置いていくことに抵抗があるようだった。
「ええ、っと……」
彼は困ったようにフェルノーラを見た。
彼女は特段の反応を示さず、黙って見返している。
”決めるのはあなたよ”
その目はそう言っているようだった。
「アタシは賛成できないね」
見かねた様子でライネが言った。
「さっきのはシェイド君……じゃなかった、シェイド様を狙ってたんだと思う。先に行かせたりしたら”狙ってください”って言ってるようなもんじゃん」
「僕は別に――」
自分が襲われるのはかまわない、と言いかけたところに、
「運転できないだろ?」
彼女はすぐさま釘を刺した。
同乗者を危険に巻き込む可能性があることに気付かされ、シェイドは項垂れた。
「そう考えりゃ他の誰かが応援を呼びに行ったほうがいいと思う」
もっともだ、という声があがる。
この意見に難色を示した従者はひとりだけだった。
「ライネさんに賛成の人は……?」
問いにほぼ全員が挙手した。
賛同しなかったのはフェルノーラと、シェイドを先行させることを提案した従者のみだ。
「――分かりました」
過半が賛成しているならそれに従おうと彼は決めた。
「それで誰にお願いしましょう?」
「私が――」
先ほど手を挙げなかった従者が進み出る。
「私が言い出したことです。ただちに避難所に向かい、車両を調達して参ります」
「あ、はい、それじゃあ……」
渋々といった様子で任せようとしたシェイドだったが、
「ちょっと待って」
それまで黙っていたフェルノーラが容喙した。
「別の人にしたほうがいいと思う」
冷静に、無感情に彼女はそう提言する。
なぜ、という彼の問いにフェルノーラは、
「なんとなく。でもそうしたほうがいいと思う」
と言を重ねてからライネをちらりと見た。
その視線に彼女は分からない顔をしていたが、
「あ~、アタシもその子に賛成」
何か意味があるのだろうとフェルノーラに合わせた。
避難所への先行は従者であれば誰でもよいため、人選に関しては他に意見は出ない。
だが2人の発言を受けてシェイドはたまたま目が合った別の従者にその役目を頼んだ。
「承知いたしました」
あくまで護衛が任務であるから、なるべく彼の傍を離れるべきではない。
従者は道案内のスタッフを帯同し輸送車に乗り込んだ。
「では我々も――」
追撃に備え、シェイドを守りながらなだらかな丘を登る。
少し歩いたところに廃棄された採石場があり、応援が来るまでそこに身を隠す手ハズになっていた。
周囲に視界を遮る物はないため、車両が通りかかればすぐに分かる。
「なんだか懐かしい感じがするわね」
奥にほのかに光るサイオライトを見つめながらフェルノーラが呟く。
「フェルノーラさんも石集めしてたの?」
「私しかいなかったから」
母親以外には、という意味だとすぐに悟った彼は反射的に目を逸らした。
「もうちょっと奥に行ったほうがいいんじゃないか?」
見通しが良すぎて敵に発見される恐れがあるとライネが指摘する。
「ああ、たしかにそうだな」
入り口を見据えたまま答えた従者たちがシェイドを囲むようにして奥部へ向かおうとする。
だが彼はかぶりを振った。
「やめたほうがいいです。またさっきみたいな攻撃を受けたら入り口が塞がってしまうかもしれません」
そう言ってからあの時のことを思い出す。
地を蠢かす爆撃。
爆音と青白い光。
町を焼いた炎。
「………………」
ここでまた同じことが繰り返されるのでは――。
シェイドは息苦しさを感じて外に出ようとした。
「どこに行くの?」
その手をフェルノーラが掴んだ。
暗がりではっきりとはしないが、彼女の表情は恐怖に引き攣っているようだった。
「ああ、うん……そうだね…………」
その手を遠慮がちに振りほどき、シェイドは愛想笑いを浮かべた。
爆音が鳴り止み、黒煙が大気に溶けて消える。
「他には――」
なさそうですね、と従者は安堵する。
「はい…………」
シェイドは落魄した様子で返した。
「おそらく積み荷を狙った賊の類でしょう。ここに留まる理由はありません。すぐに避難所に向かいましょう」
とはいうが、一台は大破して使い物にならない。
前の車両には二台分の物資と人員を収容できるスペースはない。
「艇を呼びましょう。この辺りなら着陸できる場所もありそうです。荷物はそれに――」
「いや、待て! それは駄目だ」
声を荒らげたのは分乗するよう提案した従者だ。
「敵の正体も規模も分かっていない。その通信も傍受される恐れがある。我々にトラブルが起きたと気付かれればまた狙わるぞ」
早口でまくし立てて彼はシェイドに向きなおった。
「まずは皇帝だけでも目的の避難所に車で向かわれ、そこで新たに調達した車両をこちらに寄越していただく……これが最良かと」
「その間、他の人はどうするんですか?」
「ここでお待ちします。もし物資を全てあれに積み込めるなら歩いて避難所に向かいましょう。そうすれば合流地点が近くなります」
最善策であることを彼は念押しした。
が、シェイドはすぐには首を縦に振らない。
やはり皆を置いていくことに抵抗があるようだった。
「ええ、っと……」
彼は困ったようにフェルノーラを見た。
彼女は特段の反応を示さず、黙って見返している。
”決めるのはあなたよ”
その目はそう言っているようだった。
「アタシは賛成できないね」
見かねた様子でライネが言った。
「さっきのはシェイド君……じゃなかった、シェイド様を狙ってたんだと思う。先に行かせたりしたら”狙ってください”って言ってるようなもんじゃん」
「僕は別に――」
自分が襲われるのはかまわない、と言いかけたところに、
「運転できないだろ?」
彼女はすぐさま釘を刺した。
同乗者を危険に巻き込む可能性があることに気付かされ、シェイドは項垂れた。
「そう考えりゃ他の誰かが応援を呼びに行ったほうがいいと思う」
もっともだ、という声があがる。
この意見に難色を示した従者はひとりだけだった。
「ライネさんに賛成の人は……?」
問いにほぼ全員が挙手した。
賛同しなかったのはフェルノーラと、シェイドを先行させることを提案した従者のみだ。
「――分かりました」
過半が賛成しているならそれに従おうと彼は決めた。
「それで誰にお願いしましょう?」
「私が――」
先ほど手を挙げなかった従者が進み出る。
「私が言い出したことです。ただちに避難所に向かい、車両を調達して参ります」
「あ、はい、それじゃあ……」
渋々といった様子で任せようとしたシェイドだったが、
「ちょっと待って」
それまで黙っていたフェルノーラが容喙した。
「別の人にしたほうがいいと思う」
冷静に、無感情に彼女はそう提言する。
なぜ、という彼の問いにフェルノーラは、
「なんとなく。でもそうしたほうがいいと思う」
と言を重ねてからライネをちらりと見た。
その視線に彼女は分からない顔をしていたが、
「あ~、アタシもその子に賛成」
何か意味があるのだろうとフェルノーラに合わせた。
避難所への先行は従者であれば誰でもよいため、人選に関しては他に意見は出ない。
だが2人の発言を受けてシェイドはたまたま目が合った別の従者にその役目を頼んだ。
「承知いたしました」
あくまで護衛が任務であるから、なるべく彼の傍を離れるべきではない。
従者は道案内のスタッフを帯同し輸送車に乗り込んだ。
「では我々も――」
追撃に備え、シェイドを守りながらなだらかな丘を登る。
少し歩いたところに廃棄された採石場があり、応援が来るまでそこに身を隠す手ハズになっていた。
周囲に視界を遮る物はないため、車両が通りかかればすぐに分かる。
「なんだか懐かしい感じがするわね」
奥にほのかに光るサイオライトを見つめながらフェルノーラが呟く。
「フェルノーラさんも石集めしてたの?」
「私しかいなかったから」
母親以外には、という意味だとすぐに悟った彼は反射的に目を逸らした。
「もうちょっと奥に行ったほうがいいんじゃないか?」
見通しが良すぎて敵に発見される恐れがあるとライネが指摘する。
「ああ、たしかにそうだな」
入り口を見据えたまま答えた従者たちがシェイドを囲むようにして奥部へ向かおうとする。
だが彼はかぶりを振った。
「やめたほうがいいです。またさっきみたいな攻撃を受けたら入り口が塞がってしまうかもしれません」
そう言ってからあの時のことを思い出す。
地を蠢かす爆撃。
爆音と青白い光。
町を焼いた炎。
「………………」
ここでまた同じことが繰り返されるのでは――。
シェイドは息苦しさを感じて外に出ようとした。
「どこに行くの?」
その手をフェルノーラが掴んだ。
暗がりではっきりとはしないが、彼女の表情は恐怖に引き攣っているようだった。
「ああ、うん……そうだね…………」
その手を遠慮がちに振りほどき、シェイドは愛想笑いを浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
嘘つきな君の世界一優しい断罪計画
空色蜻蛉
ファンタジー
誰も傷つけないよう付いた嘘が暴かれる時、誰よりも優しい青年の真実が明らかになる。
悪逆非道な侯爵家に生まれたリトスは、王太子妃を狙っている妹の野望を阻止し、実家を良い感じに没落させて、自分は国外追放されたいな~と考えていた。
軟派で無能な侯爵令息を装い、妹の対抗馬である庶民出身のテレサ嬢を支援したり、裏でいろいろ画策していた。
しかし、リトスの完璧な計画は、国外から招聘された有名な魔術師レイヴンによって徐々に暴かれていく。
リトスとレイヴン、二人の【星瞳の魔術師】が織りなす、オリジナル世界観の異世界ファンタジー物語。
※女性向けハイファンタジー&ブロマンス作品です
恋愛がメインではないので既存の女性向けカテゴリに分類できず・・主役二人の関係性はBLに近いです。
主人公最強、かつ相方も最強で、対等に戦うライバル&相棒です。
主役二人が水戸黄門よろしく事件を恰好よく解決していくお話になります。いっそ文芸の方がいいのかも?
※カクヨム、エブリスタ、Talesで連載中。掲載サイトによって進行がちがいます。
また、番外編の掲載の仕方も各サイトの仕様に合わせて変えています。
異世界で一番の紳士たれ!
だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。
リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。
リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。
異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる