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新たなる脅威篇
3 急襲!-2-
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ライネが飛び出した時、周囲には既に数体のドールの残骸があった。
「これは……?」
前の車両から駆けつけた数名の従者も合流している。
「気を付けろ。まだいるぞ」
彼女は肩越しに振り返った。
前を走っていた車両は20メートルほど先で停止している。
後部にはわずかに傷がついている程度だ。
(やっぱりアタシらの乗ってたほうを狙ってたのか!)
従者たちは横転した車両を囲むように布陣した。
周囲はなだらかな丘陵が続いており、何者かが身を隠せるような場所は少ない。
「…………!」
背後に金属音を聞いたライネは、振り返るより先に身を屈めつつ地を蹴った。
岩陰から銃を構えていたドールは射線上から一瞬にして消えた標的を探す。
そのぎこちない動きが金髪の少女を捉えた時には、突き出された拳によって既に頭部は宙を舞っていた。
「狙いはシェイド様なのか……?」
従者たちは銃や短剣など、それぞれに武器をかまえて辺りを窺う。
「油断するな。あれをやったやつが見当たらない」
横転した車両を一瞥する。
ドールの持つ銃では、ああはならない。
「デカいのを持った奴がいるってこと?」
「分からん。ドールかどうかも」
「ちょっと待って! それじゃヤバいじゃん!!」
ライネは慌てて輸送車に引き返した。
カーゴルームの扉付近では、2人が外に出るか出ないかでもめていた。
「外に出ろ!」
血相を変えて飛び込んできた彼女に、フェルノーラは眉を顰めた。
「さっきはここにいろ、って――」
「多分、こっちのほうが危ない!」
攻撃が一度だけとは限らない。
無防備な車両に先ほどの威力で直撃を受けたら、装甲の薄い輸送車など粉砕されてしまうだろう。
「アタシから離れるなよ!」
2人を連れ出したものの、襲撃者の居場所も正体も分かっていない。
「…………!」
ドールの残骸を見てシェイドは思わず息を呑んだ。
以前に比べればいくらかましになったが、やはりこの無慈悲な人形への恐怖は拭いきれない。
彼は無意識的に両手にミストを集めていた。
「――シェイド様」
拳銃を構えた従者が耳打ちした。
「ここは危険です。前の車両に乗ってお逃げください。敵は我々が引きつけます」
「そんなことできません!」
シェイドが叫んだため、一同は何事かと振り返った。
「あ、いえ……失礼しました……」
不自然な笑みを浮かべて彼はその場から離れた。
「来たぞ!」
ライネが東の空を指差した。
陽光を反射して銀色に光る物体が5機、こちらに向かってくる。
「まさか爆撃機とかか!?」
彼女は舌打ちした。
そんなものが相手なら生身の人間の力などほとんど役に立たない。
「いや、ちがう……あれは……」
近づくにつれて全容が明らかになる。
「ドールだ!」
低空飛行するバイクにドールが跨っている。
従者たちがその姿を認めた時には、バイク前方に装備した機銃が一斉に火を噴いた。
「お守りしろ!」
シールドを展開した従者たちがシェイドの前に立つ。
彼らの強みは魔法の力を応用できることにある。
才能のある従者はミストを凝集して強固な盾を作り出すこともできるし、手にした武具の威力を倍加させることもできる。
対して機械仕掛けのドールは性能以上の力を出すことはできない。
降り注ぐ光弾はシールドを破ることができず、光の壁の前に火花を散らす。
耳障りな音を響かせてバイクが頭上を通過した。
素早く振り向いた従者はその後ろ姿目がけて発砲する。
左右に散ったうちの1機が直撃を受けて黒煙を上げる。
(僕も……!)
遠ざかっていく機影に向けてシェイドが火球を放つ。
あらかじめミストを集めておいたおかげで発動に時間はかからなかった。
だが狙いが甘く、直進しているように見えてわずかに蛇行しているバイクにはかすり傷ひとつつけられない。
数十メートル先の丘を舐めるようにドールたちは旋回する。
一度目は奇襲同然だったが、今度は敵を真正面に捉えられる。
彼らは2人を守るように位置取った。
小回りの利くバイクは死角から敵を突くのに適しているが、ドールの頭脳ではそれを活かしきれない。
つまり敵は真っ直ぐに向かってくる。
ライネも構えてはいた。
飛び道具の類を持たない彼女に、低空とはいえ飛行する敵への攻撃手段はない。
代わりに四肢に嵌めた腕輪と足環がミストによって小さな障壁を作り出しているので護衛には役に立つ。
(…………?)
その視線が一瞬、右に揺れた。
直感だ。
それは正しかった。
岩陰からドールがこちらを狙っている。
迫ってくるバイクに気を取られ、そちらには誰も気付いていない。
「くそっ!」
盾になるよりぶっ飛ばしたほうが早いと判断したライネは反射的に駆けていた。
「離れるな、って言ったくせに……」
フェルノーラは口をとがらせたが、それは彼女の言動が一致していないからではない。
バイクが迫るのと、ライネが地面を蹴ったのはほぼ同時だった。
どちらの援護に回ろうかと迷ったシェイドは、一瞬遅れて目の前の敵に集中する。
ミストを凝集させて掌ほどの火球を作り上げる。
この手順も慣れたもので今ではさほど抵抗感もなくなっている。
訓練を思い出しながら、それを放つ。
変換効率を上げた火球は元となるミストをほとんど失わないまま、一直線に空を駆けた。
「くっ…………!」
狙いは良かったが、敵の飛行速度や距離の計算ができていない。
周囲の空気を巻き込みながら放たれた炎は、3秒前に敵がいた位置に3秒後に到達した。
しかしこれは大きな問題にはならない。
従者の射撃が的確にドールを撃ち抜いたからだ。
制御を失ったバイクは錐もみ状態になって岩壁に突き刺さり、爆発炎上した。
その爆音に紛れ、ライネのつま先がドールの持っていた銃を蹴り上げる。
放物線を描いた銃が地面に落ちる頃には、持ち主の体は振り下ろされた踵によって無惨に叩き割られていた。
「これは……?」
前の車両から駆けつけた数名の従者も合流している。
「気を付けろ。まだいるぞ」
彼女は肩越しに振り返った。
前を走っていた車両は20メートルほど先で停止している。
後部にはわずかに傷がついている程度だ。
(やっぱりアタシらの乗ってたほうを狙ってたのか!)
従者たちは横転した車両を囲むように布陣した。
周囲はなだらかな丘陵が続いており、何者かが身を隠せるような場所は少ない。
「…………!」
背後に金属音を聞いたライネは、振り返るより先に身を屈めつつ地を蹴った。
岩陰から銃を構えていたドールは射線上から一瞬にして消えた標的を探す。
そのぎこちない動きが金髪の少女を捉えた時には、突き出された拳によって既に頭部は宙を舞っていた。
「狙いはシェイド様なのか……?」
従者たちは銃や短剣など、それぞれに武器をかまえて辺りを窺う。
「油断するな。あれをやったやつが見当たらない」
横転した車両を一瞥する。
ドールの持つ銃では、ああはならない。
「デカいのを持った奴がいるってこと?」
「分からん。ドールかどうかも」
「ちょっと待って! それじゃヤバいじゃん!!」
ライネは慌てて輸送車に引き返した。
カーゴルームの扉付近では、2人が外に出るか出ないかでもめていた。
「外に出ろ!」
血相を変えて飛び込んできた彼女に、フェルノーラは眉を顰めた。
「さっきはここにいろ、って――」
「多分、こっちのほうが危ない!」
攻撃が一度だけとは限らない。
無防備な車両に先ほどの威力で直撃を受けたら、装甲の薄い輸送車など粉砕されてしまうだろう。
「アタシから離れるなよ!」
2人を連れ出したものの、襲撃者の居場所も正体も分かっていない。
「…………!」
ドールの残骸を見てシェイドは思わず息を呑んだ。
以前に比べればいくらかましになったが、やはりこの無慈悲な人形への恐怖は拭いきれない。
彼は無意識的に両手にミストを集めていた。
「――シェイド様」
拳銃を構えた従者が耳打ちした。
「ここは危険です。前の車両に乗ってお逃げください。敵は我々が引きつけます」
「そんなことできません!」
シェイドが叫んだため、一同は何事かと振り返った。
「あ、いえ……失礼しました……」
不自然な笑みを浮かべて彼はその場から離れた。
「来たぞ!」
ライネが東の空を指差した。
陽光を反射して銀色に光る物体が5機、こちらに向かってくる。
「まさか爆撃機とかか!?」
彼女は舌打ちした。
そんなものが相手なら生身の人間の力などほとんど役に立たない。
「いや、ちがう……あれは……」
近づくにつれて全容が明らかになる。
「ドールだ!」
低空飛行するバイクにドールが跨っている。
従者たちがその姿を認めた時には、バイク前方に装備した機銃が一斉に火を噴いた。
「お守りしろ!」
シールドを展開した従者たちがシェイドの前に立つ。
彼らの強みは魔法の力を応用できることにある。
才能のある従者はミストを凝集して強固な盾を作り出すこともできるし、手にした武具の威力を倍加させることもできる。
対して機械仕掛けのドールは性能以上の力を出すことはできない。
降り注ぐ光弾はシールドを破ることができず、光の壁の前に火花を散らす。
耳障りな音を響かせてバイクが頭上を通過した。
素早く振り向いた従者はその後ろ姿目がけて発砲する。
左右に散ったうちの1機が直撃を受けて黒煙を上げる。
(僕も……!)
遠ざかっていく機影に向けてシェイドが火球を放つ。
あらかじめミストを集めておいたおかげで発動に時間はかからなかった。
だが狙いが甘く、直進しているように見えてわずかに蛇行しているバイクにはかすり傷ひとつつけられない。
数十メートル先の丘を舐めるようにドールたちは旋回する。
一度目は奇襲同然だったが、今度は敵を真正面に捉えられる。
彼らは2人を守るように位置取った。
小回りの利くバイクは死角から敵を突くのに適しているが、ドールの頭脳ではそれを活かしきれない。
つまり敵は真っ直ぐに向かってくる。
ライネも構えてはいた。
飛び道具の類を持たない彼女に、低空とはいえ飛行する敵への攻撃手段はない。
代わりに四肢に嵌めた腕輪と足環がミストによって小さな障壁を作り出しているので護衛には役に立つ。
(…………?)
その視線が一瞬、右に揺れた。
直感だ。
それは正しかった。
岩陰からドールがこちらを狙っている。
迫ってくるバイクに気を取られ、そちらには誰も気付いていない。
「くそっ!」
盾になるよりぶっ飛ばしたほうが早いと判断したライネは反射的に駆けていた。
「離れるな、って言ったくせに……」
フェルノーラは口をとがらせたが、それは彼女の言動が一致していないからではない。
バイクが迫るのと、ライネが地面を蹴ったのはほぼ同時だった。
どちらの援護に回ろうかと迷ったシェイドは、一瞬遅れて目の前の敵に集中する。
ミストを凝集させて掌ほどの火球を作り上げる。
この手順も慣れたもので今ではさほど抵抗感もなくなっている。
訓練を思い出しながら、それを放つ。
変換効率を上げた火球は元となるミストをほとんど失わないまま、一直線に空を駆けた。
「くっ…………!」
狙いは良かったが、敵の飛行速度や距離の計算ができていない。
周囲の空気を巻き込みながら放たれた炎は、3秒前に敵がいた位置に3秒後に到達した。
しかしこれは大きな問題にはならない。
従者の射撃が的確にドールを撃ち抜いたからだ。
制御を失ったバイクは錐もみ状態になって岩壁に突き刺さり、爆発炎上した。
その爆音に紛れ、ライネのつま先がドールの持っていた銃を蹴り上げる。
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