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新たなる脅威篇
3 急襲!-4-
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「おい、失敗したぞ」
モニターを眺めていたイズミールは舌打ちした。
バイクの先端に搭載されたカメラが数秒遅れで襲撃の模様を送信していた。
予定どおり後方を行く車両を吹き飛ばすも、狙いが甘かったのか搭乗者は全員無事。
すぐさま展開したシェイドの護衛たちが応戦したことで襲撃は失敗し、現場からの映像は途絶えた。
「そのようですね」
横で観ていたケインは涼しい顔をしている。
彼はその超然とした様子が気に入らなかった。
「お前の計画が甘かったんじゃないのか?」
「計画…………?」
彼は呆れた様子――イズミールに気付かれないように――で返した。
「時流と多くの協力があったとはいえ、一国を乗っ取ったシェイドをあの程度のドールでどうにかできるとは思っておりませんよ」
それができるなら叛乱など起きなかった、と諭すように付け加える。
「あそこで急襲をしかけると言ったのはお前だろ。だからドールを貸したんだ。それが失敗したと言ってるんだ」
「おっしゃるとおりです。が、失敗ではありません」
「……なに?」
イズミールは挑むような目を向けた。
簒奪の段取りについてはケインに任せているため、よほどのことがなければ口出しするつもりはなかった。
しかし第一手から成果が得られないとなると直情的な彼はなじらずにはいられない。
「あれはシェイドに――連中に猜疑心を植え付けるためのものです。死んでいればそれに越したことはありませんが」
「そうなのか?」
「ええ、うまくいったと思います。この積み重ねが必ずイズミール様の復権につながりましょう。目的は他にもありまして――」
彼はそこでわざとらしく言葉を切った。
「なんだ?」
「ああ、いえ、なんでも。ええ、順調です。ところでその映像データ、私が預かってもよろしいですか?」
「いいぞ。何に使うんだ?」
「貴重な資料になりそうなのです。イズミール様にとっても役に立つ情報となるでしょう」
数分の映像に執着しない彼はあっさりそれを許した。
ケインは短く礼を言って部屋を立ち去った。
部下数名とともに辺境の小さなホテルを転々としているのは、捜索の手が伸びているからだ。
ペルガモンの親類縁者はシェイドの温情により放逐で済んだが、嫡子であるイズミールだけはそうはいかないだろう。
たとえ彼が助命すると言っても、側近――特に重鎮――はシェイドの意思に背いてでも処刑するにちがいない。
内実の伴っていない、いわば形だけの新政権だ。
各地で暴動が相次ぎ、叛乱の残り火もまだ燻っている。
シェイドは危機感を持っていないが、側近は正統な後継者であるイズミールを恐れている。
言い換えればあのにわか政権を打ち倒すのは容易いということだ。
適当に攪乱し、弱らせ、然るべき時機にイズミールが姿を現せば中枢は彼に靡く。
その日は遠くない、とケインは思っている。
「さて……」
回収した映像データを別室にて再生する。
わずか数分のそれには安価なドールの雑な動きと、従者の的確な戦いぶりが記録されている。
「………………」
彼はまず従者たちの動きに注目した。
輸送車が大破してから飛び出してくるまで30秒とかかっていない。
素早く展開し、あらゆる方向からの追撃に備える体捌きは見事なものだった。
(この手の連中が控えているのか――)
従者といえば要人の荷物持ち、移動手段の手配、宿泊先の確保、現地の関係各所との折衝といった仕事を担う。
そこに警護が加わって一団を形成するのが常であるが、どうやら彼らは非力な従者を装った護衛らしい。
飛来するドールに対する攻撃の正確さがそれを裏付けている。
(それに引き替え……)
従者に混じって応戦するシェイドは観ながら、彼はほくそ笑んだ。
未熟な魔法はかすりもしていない。
狙いは甘く、標的の動きも読めず、したがって無意味な魔法の乱発に成り果てている。
(この程度で艦を破壊したとは思えないが……)
ケインは考えた。
クライダードについて彼は多くを知っている。
かつて隆盛を極め、世界中にはびこっていた人間たちだ。
今では考えれないほどの強大な魔法の力を手足のごとく用い、数えきれないほどの罪を重ねてきた忌まわしい種族。
これまで読み漁ってきた資料と記録、そして彼が生まれ育った村で脈々と口伝えされてきたことだ。
それが飛来するドールすら撃ち落とせないでいる。
(話では艦を破片のひとつすら残さず破壊したらしいが、しかしこれは――?)
あまりに拙すぎる。
この程度の腕前ならペルガモン側近の精鋭部隊のほうがはるかに力は上だ。
(権威付けのために虚偽の流布をしたのか? シェイドを神格化させて叛乱軍をまとめるためか……?)
映像を何度繰り返し観ても、指導者たる素養は見当たらない。
むしろ従者たちの足を引っ張っているようにさえ、彼には感じられた。
(この前の訓練でもそうだった……間違いない。これがこいつの弱点だ)
彼は成功を確信した。
次の計画を立て、実行に移すのは早い方がいい。
いま、エルディラントは混濁状態にある。
新政権は脆く、旧政権の残滓は広く薄く各地に伸びている。
日を追うごとにその力は小さくなり、シェイドによる統治は盤石になるだろう。
(……弱点さえ分かれば手はいくらでもある。が――)
政権奪還への道筋はいくつか見えてきたが、イズミールには伏せておくことにした。
この男の遠大な企みはペルガモン一族に再び政柄を執らせることではない。
モニターを眺めていたイズミールは舌打ちした。
バイクの先端に搭載されたカメラが数秒遅れで襲撃の模様を送信していた。
予定どおり後方を行く車両を吹き飛ばすも、狙いが甘かったのか搭乗者は全員無事。
すぐさま展開したシェイドの護衛たちが応戦したことで襲撃は失敗し、現場からの映像は途絶えた。
「そのようですね」
横で観ていたケインは涼しい顔をしている。
彼はその超然とした様子が気に入らなかった。
「お前の計画が甘かったんじゃないのか?」
「計画…………?」
彼は呆れた様子――イズミールに気付かれないように――で返した。
「時流と多くの協力があったとはいえ、一国を乗っ取ったシェイドをあの程度のドールでどうにかできるとは思っておりませんよ」
それができるなら叛乱など起きなかった、と諭すように付け加える。
「あそこで急襲をしかけると言ったのはお前だろ。だからドールを貸したんだ。それが失敗したと言ってるんだ」
「おっしゃるとおりです。が、失敗ではありません」
「……なに?」
イズミールは挑むような目を向けた。
簒奪の段取りについてはケインに任せているため、よほどのことがなければ口出しするつもりはなかった。
しかし第一手から成果が得られないとなると直情的な彼はなじらずにはいられない。
「あれはシェイドに――連中に猜疑心を植え付けるためのものです。死んでいればそれに越したことはありませんが」
「そうなのか?」
「ええ、うまくいったと思います。この積み重ねが必ずイズミール様の復権につながりましょう。目的は他にもありまして――」
彼はそこでわざとらしく言葉を切った。
「なんだ?」
「ああ、いえ、なんでも。ええ、順調です。ところでその映像データ、私が預かってもよろしいですか?」
「いいぞ。何に使うんだ?」
「貴重な資料になりそうなのです。イズミール様にとっても役に立つ情報となるでしょう」
数分の映像に執着しない彼はあっさりそれを許した。
ケインは短く礼を言って部屋を立ち去った。
部下数名とともに辺境の小さなホテルを転々としているのは、捜索の手が伸びているからだ。
ペルガモンの親類縁者はシェイドの温情により放逐で済んだが、嫡子であるイズミールだけはそうはいかないだろう。
たとえ彼が助命すると言っても、側近――特に重鎮――はシェイドの意思に背いてでも処刑するにちがいない。
内実の伴っていない、いわば形だけの新政権だ。
各地で暴動が相次ぎ、叛乱の残り火もまだ燻っている。
シェイドは危機感を持っていないが、側近は正統な後継者であるイズミールを恐れている。
言い換えればあのにわか政権を打ち倒すのは容易いということだ。
適当に攪乱し、弱らせ、然るべき時機にイズミールが姿を現せば中枢は彼に靡く。
その日は遠くない、とケインは思っている。
「さて……」
回収した映像データを別室にて再生する。
わずか数分のそれには安価なドールの雑な動きと、従者の的確な戦いぶりが記録されている。
「………………」
彼はまず従者たちの動きに注目した。
輸送車が大破してから飛び出してくるまで30秒とかかっていない。
素早く展開し、あらゆる方向からの追撃に備える体捌きは見事なものだった。
(この手の連中が控えているのか――)
従者といえば要人の荷物持ち、移動手段の手配、宿泊先の確保、現地の関係各所との折衝といった仕事を担う。
そこに警護が加わって一団を形成するのが常であるが、どうやら彼らは非力な従者を装った護衛らしい。
飛来するドールに対する攻撃の正確さがそれを裏付けている。
(それに引き替え……)
従者に混じって応戦するシェイドは観ながら、彼はほくそ笑んだ。
未熟な魔法はかすりもしていない。
狙いは甘く、標的の動きも読めず、したがって無意味な魔法の乱発に成り果てている。
(この程度で艦を破壊したとは思えないが……)
ケインは考えた。
クライダードについて彼は多くを知っている。
かつて隆盛を極め、世界中にはびこっていた人間たちだ。
今では考えれないほどの強大な魔法の力を手足のごとく用い、数えきれないほどの罪を重ねてきた忌まわしい種族。
これまで読み漁ってきた資料と記録、そして彼が生まれ育った村で脈々と口伝えされてきたことだ。
それが飛来するドールすら撃ち落とせないでいる。
(話では艦を破片のひとつすら残さず破壊したらしいが、しかしこれは――?)
あまりに拙すぎる。
この程度の腕前ならペルガモン側近の精鋭部隊のほうがはるかに力は上だ。
(権威付けのために虚偽の流布をしたのか? シェイドを神格化させて叛乱軍をまとめるためか……?)
映像を何度繰り返し観ても、指導者たる素養は見当たらない。
むしろ従者たちの足を引っ張っているようにさえ、彼には感じられた。
(この前の訓練でもそうだった……間違いない。これがこいつの弱点だ)
彼は成功を確信した。
次の計画を立て、実行に移すのは早い方がいい。
いま、エルディラントは混濁状態にある。
新政権は脆く、旧政権の残滓は広く薄く各地に伸びている。
日を追うごとにその力は小さくなり、シェイドによる統治は盤石になるだろう。
(……弱点さえ分かれば手はいくらでもある。が――)
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