アメジストの軌跡

JEDI_tkms1984

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新たなる脅威篇

3 急襲!-5-

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 安全を考えて、とシェイドは奥へと誘導された。

 彼が言ったように落盤のおそれを考慮し、外の光が届く程度の位置だ。

 その周囲を従者が固める。

 ライネは入り口近くに立って外の様子を窺う。

 視界に動くものはない。

 樹木でもあれば葉揺れくらいはあっただろうが、一面を砂土で覆われたここでは時おり強い風が砂塵を巻き上げる程度だ。

「そこ、崩れるわよ」

 身を乗り出そうと岩壁に手をつこうとしたところに、近づいてきたフェルノーラが声をかけた。

「え……?」

 それより一瞬早くライネが手をつく。

 その拍子に岩壁は文字どおり砂のように砕け落ちた。

「おっと……!」

 前のめりになった彼女はぐっと踏ん張る。

 ゆるやかな曲線を描いていた壁はそこだけ削ったように大きくえぐれた。

「よく分かったな」

「白っぽくなってるでしょ? 他と比べてもろい場所は色が違うの」

「なるほどねえ」

 現地人には当たり前らしい知識を披露する彼女に嫌味はなかった。

 どちらかというと知識を伝授する誇らしさを感じさせる口調に、ライネは今さらながら好感を持った。

「この辺じゃ常識?」

「そうね。採掘場に潜るか、そうじゃなきゃ物を作って売るかのどちらかだから、大半の人はこういうことに詳しいハズよ」

「ふうん……」

 妙に饒舌じょうぜつになったフェルノーラを見下ろすように、彼女は音を立てずに歩み寄る。

「じゃあさ、訊きたいんだけど――」

「…………なに?」

「外から来て地理に疎い奴を狙いやすい場所も知ってる?」

 フェルノーラははっとなってシェイドを振り返った。

 従者と話している彼はその視線に気付いていない。

「こっちこっち」

 いま話しているのはアタシだ、と彼女の意識を自分へと向ける。

「えっと……どういう意味?」

 いつもの淡白な表情に戻って訊き返す。

「そのままの意味さ」

「私を疑ってる?」

 まさか、とライネは小馬鹿にするように笑った。

「アンタならあの子を狙うより守る。一緒に戦った仲だろ? そんなことする理由ないじゃん」

 突き放すように言ってから優しく微笑みかけてやる。

 数秒、緊張していたフェルノーラも初めて彼女に笑顔を見せた。

 そうね、と納得したように呟いた彼女は、

「知ってるわ」

 質問への答えを返した。

「大人も子どもも石の取り合いなの。採掘場を探して回ってるから自然と地理や地形にも詳しくなるわ」

「なるほど……」

 もっともな話だとライネは頷いた。

「それで、えっと――」

 フェルノーラは気まずそうにちらちらと彼女を見た。

「どうかしたか?」

「ええ、その――」

 何か言い淀んでいる様子の彼女は、プライドが邪魔してその先を口にできないようだった。

 落ち着かない視線の先を辿ったライネはやがて得心し、

「ライネだよ、ライネ。ライネ=アドリッド」

 改めて自己紹介した。

「ええ、ごめんなさい。ライネさん」

 恥ずかしさをごまかすようにフェルノーラは短い髪をかきあげた。

「さっきは黙ってたけど、ライネさんは信用できそうだから言っておくわ」

「お、嬉しいこと言ってくれるじゃん」

「茶化さないで。あれは賊じゃないと思う」

「なんで分かるんだ?」

「さっきの話。この辺りにいる賊のほうが私たちよりよっぽど地理に詳しいわ」

 そう言い、彼女は丘陵の向こうを見つめた。

「ここからもう少し進んだところに左右を崖に挟まれた道があるの。本物の賊ならそこで待ち伏せるハズ」

 本物の、という言い回しにライネは首をかしげた。

「もうひとつ理由があるわ」

 会話を聞かれてはいないかとフェルノーラはちらりと振り返った。

 何事かを考えているらしいシェイドと、彼をしっかりと守る従者たちは2人を気に留めていない様子だ。

「あんなの、連中が使うものじゃない。持ってるならとっくに売ってお金に換えてるハズよ」

 賊は享楽的で無計画だから、金目のものはすぐに売りさばくというのが彼女の論だ。

 都会育ちのライネにはいまひとつ分からない話だった。

 エルドランでは軍や警察が目を光らせているから、ならず者を見かけることはまずない。

「ふうん、つまりアンタは――」

「フェルノーラ」

「ん……」

「フェルノーラ=テスタよ」

「ああ、悪い。つまりフェルはアタシたちを狙ったのは賊でもないし、この辺りに詳しい奴でもない、と」

 ライネは口調は朗らかに、しかし挑むような目を彼女に向けた。

「フェル……?」

「あ、嫌だったか? なら――」

「いいえ、そういうふうに呼ばれたことがなかったから」

 少し驚いてしまった、と微苦笑する。

(少しは距離が縮まったか?)

 ライネも自然と笑みを返していた。

 しかし意識には先ほどの奇襲と、彼女の言葉があった。

「もうひとつ、いいかい?」

 この際だ、とライネは真顔になって訊ねた。
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