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第五章
32・あなたの望み
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「遊びに来たとはなんだね。ちゃんと御挨拶だよ」
そして藍銅伯爵はキイロに向き合った。
「これはこれは、なんとも可愛らしい娘じゃないか。どうぞおとうさま、と呼んでくれないかね?」
「おとうさま、ですか?」
「うん、いいねえ!やはり娘はいいものだ!うん、可愛いからうちで育てたい。結婚は取りやめにしないか?」
「なんてことを言うんですか。わたしがどれだけ」
「まあまあ冗談だよ。うん、しかし可愛らしい娘が出来て嬉しいよ。そうでなければこの男が結婚なんてするはずはないからね」
愉快そうに笑う藍銅伯爵を、キイロはじっと見つめた。
(この方が、義理のお父様?)
朧と雰囲気がよく似ている。
長い白髪、というか白に近い銀色の髪を朧のようにひとつにまとめている。
モノクルとよばれる片眼鏡は英国の紳士のようだ。
紺色のスーツは仕立てだろうか、よく似合っていて、多分後ろ姿だけを見ると、日本人とは気づけないかもしれない。
「どうしたんだい?おとうさまに見とれているのかい?」
「はい。とても素敵で驚きました」
キイロの素直な言葉に、藍銅伯爵は目を丸くした。
「聞いたかい朧。ずいぶんと私は娘に恵まれたらしい」
「そうですよ。決してご迷惑はおかけしませんし、あなたのお気に入りになるから、必ず先に嫁に下さいと言ったでしょう」
「いやあ、知っていたら嫁に出さなかったかもな」
「お断りです」
ふんとそっぽを向く朧に、藍銅伯爵は楽しそうに笑った。
「あの、藍銅伯爵さまのお荷物が到着しました」
「そうかい。朧、ここへ運んで構わないか?」
藍銅伯爵のやりそうなことは大体把握している。
朧は「どうぞ」と言うと、藍銅伯爵は指を鳴らした。
「持ってきて」
すると薄氷の女中らが荷物を抱えて次々に入って来た。
大きな箱から小さな箱、合計で二十以上はあるだろうか。
部屋の片隅に次々に並べていくと、頭を下げて去って行った。
「新しい娘にプレゼントを用意したんだ。突然思いついてデパートへ寄ったんだがね。次からは外商をこちらへよこそう」
藍銅伯爵の言葉に、朧はため息をついた。
「わたしが用意しますから大丈夫です」
「ひどいな、折角できた娘を可愛がらせてくれないのかい?」
そんなやりとりの間、子供はキイロの腕を引っ張ったり、抱き着いたりと退屈そうにしている。
よいしょ、とキイロが子供、リンを抱きかかえると、藍銅伯爵の目が強く光った。
「その子が、例の方だね」
「はい。先ほど、名前をおっしゃいました」
「名前を?自ら?」
「ええ」
「それは驚いたな。私の娘は相当、気に入られたのか」
「ええ。相性が良いとは考えていましたが、ここまでとは思いませんでした」
納得する二人に、キイロは全く理解できない。
「いやあ、これは逆にわたしのほうが運が良かったのかもしれないな。娘さん、私の娘になってくれてありがとう。わが藍銅家は、今後必ずあなたを守り抜くことを誓おう」
「え?」
「この子は、我々にとって決して失ってはならないお方。そしてもうじき、元の姿にお戻りになられる」
「―――――元の、姿」
さすがにキイロにも、この子が普通の子供でないことは判る。
「それにしても戻りが早い。確かにこの屋敷は水の気に溢れているが、ここまでとはあちらも考えてはいないだろう」
「それは私もそう思っていました」
朧が頷く。
「そのうち、元にお戻りになるとはいえ、いまはいまのお姿、そして彼女についているという事は、彼女の気を選んだという事です。彼女の想う通りに行動するのが一番かと」
「うむ」
藍銅伯爵は頷いた。
そしてキイロに尋ねる。
「娘よ、あなたはその子供を、育てなければならない。だが、そう長い時間でもないだろう。さて、まずこの子供に必要なもの、あなたが与えたいのは何だね?なんでもすぐに用意しよう」
「なんでも……ですか?」
「勿論。その方は我々にも大切なお方なのだ」
そして藍銅伯爵はキイロに向き合った。
「これはこれは、なんとも可愛らしい娘じゃないか。どうぞおとうさま、と呼んでくれないかね?」
「おとうさま、ですか?」
「うん、いいねえ!やはり娘はいいものだ!うん、可愛いからうちで育てたい。結婚は取りやめにしないか?」
「なんてことを言うんですか。わたしがどれだけ」
「まあまあ冗談だよ。うん、しかし可愛らしい娘が出来て嬉しいよ。そうでなければこの男が結婚なんてするはずはないからね」
愉快そうに笑う藍銅伯爵を、キイロはじっと見つめた。
(この方が、義理のお父様?)
朧と雰囲気がよく似ている。
長い白髪、というか白に近い銀色の髪を朧のようにひとつにまとめている。
モノクルとよばれる片眼鏡は英国の紳士のようだ。
紺色のスーツは仕立てだろうか、よく似合っていて、多分後ろ姿だけを見ると、日本人とは気づけないかもしれない。
「どうしたんだい?おとうさまに見とれているのかい?」
「はい。とても素敵で驚きました」
キイロの素直な言葉に、藍銅伯爵は目を丸くした。
「聞いたかい朧。ずいぶんと私は娘に恵まれたらしい」
「そうですよ。決してご迷惑はおかけしませんし、あなたのお気に入りになるから、必ず先に嫁に下さいと言ったでしょう」
「いやあ、知っていたら嫁に出さなかったかもな」
「お断りです」
ふんとそっぽを向く朧に、藍銅伯爵は楽しそうに笑った。
「あの、藍銅伯爵さまのお荷物が到着しました」
「そうかい。朧、ここへ運んで構わないか?」
藍銅伯爵のやりそうなことは大体把握している。
朧は「どうぞ」と言うと、藍銅伯爵は指を鳴らした。
「持ってきて」
すると薄氷の女中らが荷物を抱えて次々に入って来た。
大きな箱から小さな箱、合計で二十以上はあるだろうか。
部屋の片隅に次々に並べていくと、頭を下げて去って行った。
「新しい娘にプレゼントを用意したんだ。突然思いついてデパートへ寄ったんだがね。次からは外商をこちらへよこそう」
藍銅伯爵の言葉に、朧はため息をついた。
「わたしが用意しますから大丈夫です」
「ひどいな、折角できた娘を可愛がらせてくれないのかい?」
そんなやりとりの間、子供はキイロの腕を引っ張ったり、抱き着いたりと退屈そうにしている。
よいしょ、とキイロが子供、リンを抱きかかえると、藍銅伯爵の目が強く光った。
「その子が、例の方だね」
「はい。先ほど、名前をおっしゃいました」
「名前を?自ら?」
「ええ」
「それは驚いたな。私の娘は相当、気に入られたのか」
「ええ。相性が良いとは考えていましたが、ここまでとは思いませんでした」
納得する二人に、キイロは全く理解できない。
「いやあ、これは逆にわたしのほうが運が良かったのかもしれないな。娘さん、私の娘になってくれてありがとう。わが藍銅家は、今後必ずあなたを守り抜くことを誓おう」
「え?」
「この子は、我々にとって決して失ってはならないお方。そしてもうじき、元の姿にお戻りになられる」
「―――――元の、姿」
さすがにキイロにも、この子が普通の子供でないことは判る。
「それにしても戻りが早い。確かにこの屋敷は水の気に溢れているが、ここまでとはあちらも考えてはいないだろう」
「それは私もそう思っていました」
朧が頷く。
「そのうち、元にお戻りになるとはいえ、いまはいまのお姿、そして彼女についているという事は、彼女の気を選んだという事です。彼女の想う通りに行動するのが一番かと」
「うむ」
藍銅伯爵は頷いた。
そしてキイロに尋ねる。
「娘よ、あなたはその子供を、育てなければならない。だが、そう長い時間でもないだろう。さて、まずこの子供に必要なもの、あなたが与えたいのは何だね?なんでもすぐに用意しよう」
「なんでも……ですか?」
「勿論。その方は我々にも大切なお方なのだ」
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