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第六章
37・真夜中の散歩
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はっとして起き上るとまだ真夜中で、キイロの隣ではりんがすやすやと眠っている。
心地よさそうに寝ているので起こさないようにそっとキイロは起き上った。
ベッドから降り、水を飲んで、一息つくと、外はまばゆい月の光の中だった。
(綺麗だなあ)
もっと見たいなと思ったキイロは、寝室のバルコニーへ出た。
夜風が冷たく気持ち良い。
月をじっと見つめていると、「目が覚めましたか」と声がした。
驚き、声の方向を見ると朧が手を振っていた。
「朧様こそ。眠られていないんですか?」
「ちょっと急ぎの用事があって。でももうすぐ寝ますよ。どうも落ち着かなくて散歩を」
そういうとキイロの傍へ歩いて来た。
一階なので、手を伸ばせばキイロに届く。
「大丈夫ですよ」
そういって朧はいとも簡単に、バルコニーの手すりに腰掛けた。
身軽なんだな、とキイロは感心した。
「寝室は過ごしにくいですか?」
「いいえ、とんでもない。これまでで一番素晴らしいベッドです」
家ではせんべいみたいにぺらぺらのかび臭い布団で眠るしかなかった。
それにくらべたら天国だ。
だが、そんな事を言うときっと朧が気にしてしまうので、黙っておく。
「あんまりゆっくり眠れたので、逆に緊張したのかもしれません」
「それは、良かった、というべきなのかな?」
朧が困ったように言うと「ええ」とキイロは笑顔で答えた。
「まるで旅行に来たかのようで、贅沢だなあって」
「あなたに贅沢なことはありませんよ。足りないくらいだ」
朧はそう言う。
(ひょっとして、あの少年が朧様だったのだろうか)
夢で見ただけで曖昧過ぎて、尋ねる事はできないけれど。
もしそうなら、あの頃と随分と印象が違う。
泣いていた少年はかぼそく、どこか少女のようですらあった。
でもいま目の前にいる朧は、端正で美しくはあったが女性らしさ、というものは感じない。
せいぜい、遠くから見たらその長い髪だけが目に着いたら、一瞬そう見えるかもしれない、というくらいで。
体躯はすばらしいし、背も高くしっかりして、軍人らしい雰囲気に包まれている。
(もしあの少年が朧様だとしたら、とても努力されたんだわ)
「あなたがゆっくり休める事が、わたしにはなによりの安心なんです。この屋敷なら、わざわざ乗り込んで来るバカもいないでしょうから、いくらでも休んでください」
「はい」
素直に朧の言葉に頷く。
(本当は、働かなくちゃ、とか気になるんだけど)
結婚したという事にはなっているが、ごちゃごちゃといろいろあって、あまり実感はわかないし、藍銅伯爵の言葉で言うなら、キイロはまだ藍銅家の娘のはずだ。
(どうなるのかなあ)
考えていると朧が「どうしました?」とキイロに尋ねた。
「なにか考えている顔ですね」
「判ります?」
「あなたのことですから」
そう言って微笑む朧は、月明かりの中で一層美しい。
「明日から、なにをしようかなって」
働きたいと言えば、朧が何もしなくて良い、と言いそうなのでそう言うと、朧は「そうですねえ」と笑った。
「まずはりん様の面倒を見て頂く事でしょうか。今日もあなたと一緒だと、とても機嫌が良かった」
「それならいいのですけど。でもすぐに大きくなるって言ってました」
「りん様が、ですか?」
「ええ」
キイロは頷く。
「大人びた口調で、われは、おーりゅーじゃ、ってさっき眠る前にも」
すると朧が驚いた。
「おうりゅう……りん様がそう?」
「ええ。おーりゅーなのでわれは強い、って」
キイロはそういって笑ったが、朧は突然真剣な表情になった。
「朧様?」
「あ、ああ、すみません。いえ、おやすみの所を邪魔してしまって」
「いえ、そんな事」
笑うキイロに、朧はすっとその髪に手を伸ばした。
「やはり、あなたは最高の人だった。幼いころから優しかった」
そういって髪をつままれ、キイロは目を見開いた。
心地よさそうに寝ているので起こさないようにそっとキイロは起き上った。
ベッドから降り、水を飲んで、一息つくと、外はまばゆい月の光の中だった。
(綺麗だなあ)
もっと見たいなと思ったキイロは、寝室のバルコニーへ出た。
夜風が冷たく気持ち良い。
月をじっと見つめていると、「目が覚めましたか」と声がした。
驚き、声の方向を見ると朧が手を振っていた。
「朧様こそ。眠られていないんですか?」
「ちょっと急ぎの用事があって。でももうすぐ寝ますよ。どうも落ち着かなくて散歩を」
そういうとキイロの傍へ歩いて来た。
一階なので、手を伸ばせばキイロに届く。
「大丈夫ですよ」
そういって朧はいとも簡単に、バルコニーの手すりに腰掛けた。
身軽なんだな、とキイロは感心した。
「寝室は過ごしにくいですか?」
「いいえ、とんでもない。これまでで一番素晴らしいベッドです」
家ではせんべいみたいにぺらぺらのかび臭い布団で眠るしかなかった。
それにくらべたら天国だ。
だが、そんな事を言うときっと朧が気にしてしまうので、黙っておく。
「あんまりゆっくり眠れたので、逆に緊張したのかもしれません」
「それは、良かった、というべきなのかな?」
朧が困ったように言うと「ええ」とキイロは笑顔で答えた。
「まるで旅行に来たかのようで、贅沢だなあって」
「あなたに贅沢なことはありませんよ。足りないくらいだ」
朧はそう言う。
(ひょっとして、あの少年が朧様だったのだろうか)
夢で見ただけで曖昧過ぎて、尋ねる事はできないけれど。
もしそうなら、あの頃と随分と印象が違う。
泣いていた少年はかぼそく、どこか少女のようですらあった。
でもいま目の前にいる朧は、端正で美しくはあったが女性らしさ、というものは感じない。
せいぜい、遠くから見たらその長い髪だけが目に着いたら、一瞬そう見えるかもしれない、というくらいで。
体躯はすばらしいし、背も高くしっかりして、軍人らしい雰囲気に包まれている。
(もしあの少年が朧様だとしたら、とても努力されたんだわ)
「あなたがゆっくり休める事が、わたしにはなによりの安心なんです。この屋敷なら、わざわざ乗り込んで来るバカもいないでしょうから、いくらでも休んでください」
「はい」
素直に朧の言葉に頷く。
(本当は、働かなくちゃ、とか気になるんだけど)
結婚したという事にはなっているが、ごちゃごちゃといろいろあって、あまり実感はわかないし、藍銅伯爵の言葉で言うなら、キイロはまだ藍銅家の娘のはずだ。
(どうなるのかなあ)
考えていると朧が「どうしました?」とキイロに尋ねた。
「なにか考えている顔ですね」
「判ります?」
「あなたのことですから」
そう言って微笑む朧は、月明かりの中で一層美しい。
「明日から、なにをしようかなって」
働きたいと言えば、朧が何もしなくて良い、と言いそうなのでそう言うと、朧は「そうですねえ」と笑った。
「まずはりん様の面倒を見て頂く事でしょうか。今日もあなたと一緒だと、とても機嫌が良かった」
「それならいいのですけど。でもすぐに大きくなるって言ってました」
「りん様が、ですか?」
「ええ」
キイロは頷く。
「大人びた口調で、われは、おーりゅーじゃ、ってさっき眠る前にも」
すると朧が驚いた。
「おうりゅう……りん様がそう?」
「ええ。おーりゅーなのでわれは強い、って」
キイロはそういって笑ったが、朧は突然真剣な表情になった。
「朧様?」
「あ、ああ、すみません。いえ、おやすみの所を邪魔してしまって」
「いえ、そんな事」
笑うキイロに、朧はすっとその髪に手を伸ばした。
「やはり、あなたは最高の人だった。幼いころから優しかった」
そういって髪をつままれ、キイロは目を見開いた。
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