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第六章
38・本来の髪色
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「昔からあなたが誰か探していました。すぐに見つかると思っていたのに、まさか名前を変えられてしかも髪まで変わっているとは」
「髪?」
「ええ。あなたはこんな髪の色じゃなかった」
なにもかも知らない事だらけで、キイロは戸惑い尋ねた。
「あの、本当にそれは私なのでしょうか?」
「間違いありませんよ。どれだけ探したと思っているんですか」
「でも、あまりに知らなさ過ぎて」
蘇芳家の娘、キイロ。
なぜなら髪が黄色いから。
そんな風に聞いていて、自分でもそう思っていた。
それなのに、名前どころか実は髪まで違うなんて。
「構いません。あなたの知らないあなたは、わたしが知っている。そしてきっと、そのうち思い出すでしょうから」
そういって朧はキイロの髪からす、っと手を離した。
「私と結婚する事を、決して後悔はさせませんから。こう見えても出世頭なんですよ」
「見た通りの方なんですね」
素直にキイロがそう褒めると、朧はなぜか顔を赤くした。
「参ったな。あなたから褒められるのは、想像以上に嬉しい」
そういって笑う朧は、月の光の中、あまりにも美しい。
(まるで絵画の中にいるみたい)
広い庭の中、空の上には輝く月、その光の中、輝く銀髪は現実味がないほどに美しい。
勿体ない立場だ、と思いつつ、現実味がなくて、キイロはまだよく考えられなかった。
「でも、このままじゃわたしは口だけの男になってしまいますからね。どんどん出世して、あなたの自慢の夫にならなければ」
「だったら、わたしも頑張ります。自慢の妻になれるように」
するとキイロの言葉に朧が笑った。
「とっくに自慢ですよ。初恋の人を手に入れて、こんなに嬉しい事はありませんから」
朧は肩にかけていた自分の羽織を、キイロの肩へかけた。
「夜に声をかけてしまい申し訳ありません。あなたの顔が見れて嬉しかった。良い夢が見れそうです」
さ、と朧がキイロをそっと押した。
「もう眠って下さい。でないとあなたとじゃ、いくら時間があっても足りない」
「……はい、」
ちょっと残念だな、とキイロは思いつつ頷いた。
キイロも、もっと本当は朧とたくさん話がしたかったからだ。
名残惜しそうなキイロの表情に、朧は苦笑した。
「あまりそんな顔をしないでください。自分の屋敷に連れ帰りたくなってしまうから」
朧の言葉に、キイロははっとした。
(そ、そんな顔をしていたの?)
あわてるキイロに苦笑しながら朧は言った。
「寝室へ戻って。あなたがわたしと一緒に来るなら、それでもかまいませんが」
「お、おやすみなさい!」
あわててキイロは寝室へ戻って行った。
キイロが部屋へ帰ったのを確認すると、朧は「さて」と袖に腕を通した。
まさか、夜中の気分転換の散歩中に、愛しい彼女に会えるなんて思わなかった。
たった数分の話がこんなに嬉しいとは。
(自分でも、ここまで浮かれるとは思っていませんでしたよ)
もう少し、大人の男性として落ち着いていると思ったが、そんな事はないらしい。
ちゃんと浮かれている自覚もある。
(結婚式からずっと、ゆっくり過ごせなかったからな)
本来なら、あの可愛い人と新居で過ごせているはずなのに、と思うと無性に腹が立ってしまうが、今更なので仕方がない。
(それより、おうりゅう、と告げたと。本当ならとんでもない)
だとしたら、あちらは大変なミスをしでかした。
火事を起こすなんてとんでもない、決してあってはならないことを何度も繰り返すのは。
(こちらと同じく、あちらも何も知らない、むしろあちらはもっと知らない、ということか)
だったら、やや無茶なこともしてくるかもしれない。
(幕府の残党か。まったく、上がいくら言っても厄介な下は存在するものだな)
御一新から何年たっていると思っているんだ。
そう思いながら、朧は溜息をつき、自分の寝室へ戻って行った。
(はやく、彼女と一緒に過ごしたい)
そのためにも、彼女には一日も早く、自分の名前を思い出して貰わなければならなかった。
「髪?」
「ええ。あなたはこんな髪の色じゃなかった」
なにもかも知らない事だらけで、キイロは戸惑い尋ねた。
「あの、本当にそれは私なのでしょうか?」
「間違いありませんよ。どれだけ探したと思っているんですか」
「でも、あまりに知らなさ過ぎて」
蘇芳家の娘、キイロ。
なぜなら髪が黄色いから。
そんな風に聞いていて、自分でもそう思っていた。
それなのに、名前どころか実は髪まで違うなんて。
「構いません。あなたの知らないあなたは、わたしが知っている。そしてきっと、そのうち思い出すでしょうから」
そういって朧はキイロの髪からす、っと手を離した。
「私と結婚する事を、決して後悔はさせませんから。こう見えても出世頭なんですよ」
「見た通りの方なんですね」
素直にキイロがそう褒めると、朧はなぜか顔を赤くした。
「参ったな。あなたから褒められるのは、想像以上に嬉しい」
そういって笑う朧は、月の光の中、あまりにも美しい。
(まるで絵画の中にいるみたい)
広い庭の中、空の上には輝く月、その光の中、輝く銀髪は現実味がないほどに美しい。
勿体ない立場だ、と思いつつ、現実味がなくて、キイロはまだよく考えられなかった。
「でも、このままじゃわたしは口だけの男になってしまいますからね。どんどん出世して、あなたの自慢の夫にならなければ」
「だったら、わたしも頑張ります。自慢の妻になれるように」
するとキイロの言葉に朧が笑った。
「とっくに自慢ですよ。初恋の人を手に入れて、こんなに嬉しい事はありませんから」
朧は肩にかけていた自分の羽織を、キイロの肩へかけた。
「夜に声をかけてしまい申し訳ありません。あなたの顔が見れて嬉しかった。良い夢が見れそうです」
さ、と朧がキイロをそっと押した。
「もう眠って下さい。でないとあなたとじゃ、いくら時間があっても足りない」
「……はい、」
ちょっと残念だな、とキイロは思いつつ頷いた。
キイロも、もっと本当は朧とたくさん話がしたかったからだ。
名残惜しそうなキイロの表情に、朧は苦笑した。
「あまりそんな顔をしないでください。自分の屋敷に連れ帰りたくなってしまうから」
朧の言葉に、キイロははっとした。
(そ、そんな顔をしていたの?)
あわてるキイロに苦笑しながら朧は言った。
「寝室へ戻って。あなたがわたしと一緒に来るなら、それでもかまいませんが」
「お、おやすみなさい!」
あわててキイロは寝室へ戻って行った。
キイロが部屋へ帰ったのを確認すると、朧は「さて」と袖に腕を通した。
まさか、夜中の気分転換の散歩中に、愛しい彼女に会えるなんて思わなかった。
たった数分の話がこんなに嬉しいとは。
(自分でも、ここまで浮かれるとは思っていませんでしたよ)
もう少し、大人の男性として落ち着いていると思ったが、そんな事はないらしい。
ちゃんと浮かれている自覚もある。
(結婚式からずっと、ゆっくり過ごせなかったからな)
本来なら、あの可愛い人と新居で過ごせているはずなのに、と思うと無性に腹が立ってしまうが、今更なので仕方がない。
(それより、おうりゅう、と告げたと。本当ならとんでもない)
だとしたら、あちらは大変なミスをしでかした。
火事を起こすなんてとんでもない、決してあってはならないことを何度も繰り返すのは。
(こちらと同じく、あちらも何も知らない、むしろあちらはもっと知らない、ということか)
だったら、やや無茶なこともしてくるかもしれない。
(幕府の残党か。まったく、上がいくら言っても厄介な下は存在するものだな)
御一新から何年たっていると思っているんだ。
そう思いながら、朧は溜息をつき、自分の寝室へ戻って行った。
(はやく、彼女と一緒に過ごしたい)
そのためにも、彼女には一日も早く、自分の名前を思い出して貰わなければならなかった。
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