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第八章
54・病室
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「本当ですか?」
「かりそめの守護じゃがの。充分じゃろう」
ふんと笑うりんの表情は、大人っぽい。
「あれはわれを命がけで助けた。われを優先し守った。それだけでも充分、われの守護をうけるにふさわしい。そなたはよい妻を選んだ」
「まことに……」
朧は驚いて返すしかできない。
もしりんの正体が本当に想像通りなら、これだけでもとんでもない事になる。
「しかしわれも完全ではない。よってお前の呪いもまだどうにもできん」
「お気になさらず。友人になんとかしてもらいます」
「ま、悲観する事もない。お前なら休めば治るであろう」
「そう思います」
油断して傷は受けたが、そう深い感覚もない。
「安心しました。あなたの守護を受けるなら、彼女も……」
そういった途端、朧は意識を失った。
遠くで、自分を呼ぶ声を聞いた気がした。
次に朧が目を覚ますと、そこは病室だった。
白い天井とカーテン、ああ、縹の病院か、と気づく。
「朧様、気がつきましたか?」
キイロはほっとして朧に声をかけた。
「ここは?」
「縹様の病院です。朧様が気を失われていたので、すぐにこちらへ入院されたのです」
「いまはいつですか?」
「朧様が気を失って、一日半です」
ということは、あれから二日後ということか、と朧は起き上った。
「痛っ、」
「無理はいけません、やっと傷がちょっとはおさまったくらいなのに」
気付けば朧の肩に包帯が巻かれて、何度も取り替えた様子がある。
「治療の方が次々にいらして、あと数日で傷はふさがるそうです」
時間がかかるな、と朧は思った。
(やはり呪いは手間取る)
溜息をつくと、縹が入って来た。
「お、目が覚めたな。そろそろと思っていた」
「縹。あれからどうなっている?」
「落ち着け。すでに出来る事はやっている。お前は寝ておいて大丈夫だ」
「しかし」
「藍銅伯爵がそうしろとさ」
そういわれて、朧は再びベッドに背を預けた。
「そうそう、静かにしとけ。静かにしておくのが一番だからな」
あ、それと、と縹は言った。
「嫁さんを家に帰して休ませろよ。ずっとお前の傍で看病してたんだからな」
「え?」
「ほぼ不眠不休だ。お前の傷の状態が良いのは嫁さんがずっと包帯を取り換え続けてくれたからだからな」
「―――――ありがとうございます」
「いえ、当然です。守っていただけたのでこのくらい」
そうキイロが笑うと、朧は目を細めた。
「あなたが無事で良かったです」
「朧様のおかげです」
「はいはい、お邪魔しましたっと。時間になったらまた来るから、薬は飲んどけよ」
そういって縹はテーブルの薬を指さし「じゃーな」と病室を出て行った。
病室は朧とキイロの二人きりになった。
「すみません、ずいぶんとお疲れでしょう」
「いいえ?こんなのなんてことないです」
けろっとして答えるキイロに、朧は口ごもる。
きっとこれまで実家で相当ひどい目にあってきたのだろう、と想像がついたからだ。
「わたしがもっと早くあなたを見つけられたら、もっと早く救えたのですが」
「いえ、朧様はきっと、一生懸命探してくださったのですよね」
キイロからしたら無理はない、と思う。
名字だけ、名前だけならどうにかしようもあっただろう。
しかし、名前しか判らない状態では探しようもなかっただろう。
まさか、まるっと全く違う名前にされていたとは。
「それにいま、わたしはすごく幸せなんです。朧様が気にかけてくださって、こうして身を挺して守ってくださった」
子供の頃の、気持ちをずっと大事に抱えている朧の純真な感情がキイロには嬉しかった。
「足りませんよ。もっとあなたには良い生活をしていただかないと」
「でしたら、早く傷を治してくださいね。大人しく寝ててください。あ、薬飲まないと。お水持ってきますね」
そういって立ち上がり、キイロは水差しから水をコップに注ぎ、朧へ渡した。
「どうぞ、朧様」
その時、コップの水がふいに大きく揺れた。
無意識にキイロはその水を見つめ、水を静かに抑えた。
コップの水はまるで固まったように静かになった。
「……あなたは、名前を?」
朧が尋ねると、キイロは静かに頷いた。
「かりそめの守護じゃがの。充分じゃろう」
ふんと笑うりんの表情は、大人っぽい。
「あれはわれを命がけで助けた。われを優先し守った。それだけでも充分、われの守護をうけるにふさわしい。そなたはよい妻を選んだ」
「まことに……」
朧は驚いて返すしかできない。
もしりんの正体が本当に想像通りなら、これだけでもとんでもない事になる。
「しかしわれも完全ではない。よってお前の呪いもまだどうにもできん」
「お気になさらず。友人になんとかしてもらいます」
「ま、悲観する事もない。お前なら休めば治るであろう」
「そう思います」
油断して傷は受けたが、そう深い感覚もない。
「安心しました。あなたの守護を受けるなら、彼女も……」
そういった途端、朧は意識を失った。
遠くで、自分を呼ぶ声を聞いた気がした。
次に朧が目を覚ますと、そこは病室だった。
白い天井とカーテン、ああ、縹の病院か、と気づく。
「朧様、気がつきましたか?」
キイロはほっとして朧に声をかけた。
「ここは?」
「縹様の病院です。朧様が気を失われていたので、すぐにこちらへ入院されたのです」
「いまはいつですか?」
「朧様が気を失って、一日半です」
ということは、あれから二日後ということか、と朧は起き上った。
「痛っ、」
「無理はいけません、やっと傷がちょっとはおさまったくらいなのに」
気付けば朧の肩に包帯が巻かれて、何度も取り替えた様子がある。
「治療の方が次々にいらして、あと数日で傷はふさがるそうです」
時間がかかるな、と朧は思った。
(やはり呪いは手間取る)
溜息をつくと、縹が入って来た。
「お、目が覚めたな。そろそろと思っていた」
「縹。あれからどうなっている?」
「落ち着け。すでに出来る事はやっている。お前は寝ておいて大丈夫だ」
「しかし」
「藍銅伯爵がそうしろとさ」
そういわれて、朧は再びベッドに背を預けた。
「そうそう、静かにしとけ。静かにしておくのが一番だからな」
あ、それと、と縹は言った。
「嫁さんを家に帰して休ませろよ。ずっとお前の傍で看病してたんだからな」
「え?」
「ほぼ不眠不休だ。お前の傷の状態が良いのは嫁さんがずっと包帯を取り換え続けてくれたからだからな」
「―――――ありがとうございます」
「いえ、当然です。守っていただけたのでこのくらい」
そうキイロが笑うと、朧は目を細めた。
「あなたが無事で良かったです」
「朧様のおかげです」
「はいはい、お邪魔しましたっと。時間になったらまた来るから、薬は飲んどけよ」
そういって縹はテーブルの薬を指さし「じゃーな」と病室を出て行った。
病室は朧とキイロの二人きりになった。
「すみません、ずいぶんとお疲れでしょう」
「いいえ?こんなのなんてことないです」
けろっとして答えるキイロに、朧は口ごもる。
きっとこれまで実家で相当ひどい目にあってきたのだろう、と想像がついたからだ。
「わたしがもっと早くあなたを見つけられたら、もっと早く救えたのですが」
「いえ、朧様はきっと、一生懸命探してくださったのですよね」
キイロからしたら無理はない、と思う。
名字だけ、名前だけならどうにかしようもあっただろう。
しかし、名前しか判らない状態では探しようもなかっただろう。
まさか、まるっと全く違う名前にされていたとは。
「それにいま、わたしはすごく幸せなんです。朧様が気にかけてくださって、こうして身を挺して守ってくださった」
子供の頃の、気持ちをずっと大事に抱えている朧の純真な感情がキイロには嬉しかった。
「足りませんよ。もっとあなたには良い生活をしていただかないと」
「でしたら、早く傷を治してくださいね。大人しく寝ててください。あ、薬飲まないと。お水持ってきますね」
そういって立ち上がり、キイロは水差しから水をコップに注ぎ、朧へ渡した。
「どうぞ、朧様」
その時、コップの水がふいに大きく揺れた。
無意識にキイロはその水を見つめ、水を静かに抑えた。
コップの水はまるで固まったように静かになった。
「……あなたは、名前を?」
朧が尋ねると、キイロは静かに頷いた。
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