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「ナーシュ、学園入学おめでとう」
「ありがとうございます。アラン様⋯」
僕達が婚約して5年が経ち、僕は学園に入学する歳になった。
どう足掻いてもアラン様との年齢差が縮まらないのは分かっていても、益々大人の色気が増しているアラン様を見ると、ちょっぴり気持ちが沈んでくる。
早く大人になりたくて、僕なりに母様のお洒落やお化粧を真似てみたり、体を鍛えたりしているけど、鏡を見ると子供みたいな華奢な姿が映るばかりで、余計に落ち込んでくる。
学園の入学式があった日の週末、アラン様と定例のお茶会をしている。
「ナーシュ、学園にもそんなに綺麗な化粧をして行っているのかい?」
「⋯いいえ、アラン様とお会いする時だけです」
「うん、その方がいい。学園には化粧なんてして行かなくていいからね」
えっ?僕のお化粧、どこかおかしかった?
やだっ、恥ずかしい。
僕は溢れる涙を止められず、思わず膝に掛かっているナプキンで顔をごしごしと擦った。
「何やってるんだ!」
アラン様の初めて聞く大きな声にびっくりして、思わず体を縮め、目をきつく閉じ、下を向いた。
次の瞬間、体がふわりと宙に浮き、アラン様に横抱きに抱えられていた。
「えっ?アラン様⋯?」
「すまないが君達、しばらく外してくれないか」
アラン様は控えていた侍従と侍女にそう声を掛け、部屋の中は僕達二人だけになった。
「ナーシュ、せっかく綺麗にしてくれたのに、ぐちゃぐちゃになってしまったね。まあどんなナーシュでも、可愛いんだが」
「⋯そんな事ないです。アラン様、僕汚いから、汚れてしまいます。離してください」
「離す訳ないだろ」
「アラン様⋯」
アラン様は僕を抱えたまま椅子に座ると、濡れたナプキンで大切なものを優しく拭きあげるように、僕の顔を綺麗に拭いてくれた。
「僕、変なお化粧してきて、すいませんでした」
「変?ナーシュが変だった事は、出会ってから今まで一度もないが」
「えっ?本当に?」
「ああ、どちらかと言うと、私の方が毎回変になりそうなんだがな」
「ええっ!?アラン様、大丈夫ですか?どこか体が変なんですか?」
「まあ、そんなところだ。ナーシュは何も気にしなくていいよ」
アラン様はそう言って、僕の頬を優しく包んで撫でてくれた。
僕は胸が甘く締め付けられる感覚がして、アラン様の温かい体温を求めるようにアラン様の胸に顔を埋めた。
ああ、やっぱり安心するなぁ。
「僕も早く大人になりたい⋯」
僕は気が緩んでしまい、思わずアラン様の胸の中でそう呟いた。
すると、アラン様の僕を横抱きにしている腕に力が込められ、僕は潰れる程強く抱き締められた。
「ナーシュ、それは私の為?まさか、学園でそう思うような事でもあったんじゃないだろうね」
「学園では何もないです。だって僕の頭の中は、いつもアラン様でいっぱいだから。わっ、ぶっ」
今度こそ本当に潰れるかと思う位、更に強く抱き締められた。
「ナーシュ、そんな可愛い事言って、どれだけ私を変にさせる気なんだい?今日は我慢できないかもしれないよ」
アラン様が何か言ってるけど、僕は息が苦しくて、アラン様の背中を何度も叩いた。
「ああ、悪かった。でもナーシュも悪いよ」
「はぁはぁ、僕、やっぱり何かしたんですか?」
その時、僕のおしりに何か大きくて長くてもの凄く硬いものが当たっているのに気付いた。
はっ!アラン様のポケットに大事な物が入っていて、僕、それをおしりで踏んじゃってたんだ。
「ごっ、ごめんなさい!」
僕は慌ててアラン様の膝から降りようとしてバランスを崩し、咄嗟におしりの下にあった硬い棒の様な物を強く掴んでしまった。
「ぐおっ!」
そう言ってアラン様は前のめりに倒れ込んでしまった。
「アラン様っ!大丈夫ですか!?ひ、人を呼んできます!」
「ナー⋯シュ、いいから⋯、人は呼ぶな。私の名誉の為に、絶対呼ばなくていい⋯」
名誉の為⋯、もしかしてポケットの中には、何か公爵家の秘密に関わる物が入っているのかもしれない。
「分かりましたアラン様。僕に任せてください」
僕はアラン様の目を見つめコクリと頷くと、アラン様が大事そうにさすっているポケットの物を、一緒にさすった。
「おふっ!」
アラン様はそう叫ぶと、そのまま動かなくなってしまった。
「ありがとうございます。アラン様⋯」
僕達が婚約して5年が経ち、僕は学園に入学する歳になった。
どう足掻いてもアラン様との年齢差が縮まらないのは分かっていても、益々大人の色気が増しているアラン様を見ると、ちょっぴり気持ちが沈んでくる。
早く大人になりたくて、僕なりに母様のお洒落やお化粧を真似てみたり、体を鍛えたりしているけど、鏡を見ると子供みたいな華奢な姿が映るばかりで、余計に落ち込んでくる。
学園の入学式があった日の週末、アラン様と定例のお茶会をしている。
「ナーシュ、学園にもそんなに綺麗な化粧をして行っているのかい?」
「⋯いいえ、アラン様とお会いする時だけです」
「うん、その方がいい。学園には化粧なんてして行かなくていいからね」
えっ?僕のお化粧、どこかおかしかった?
やだっ、恥ずかしい。
僕は溢れる涙を止められず、思わず膝に掛かっているナプキンで顔をごしごしと擦った。
「何やってるんだ!」
アラン様の初めて聞く大きな声にびっくりして、思わず体を縮め、目をきつく閉じ、下を向いた。
次の瞬間、体がふわりと宙に浮き、アラン様に横抱きに抱えられていた。
「えっ?アラン様⋯?」
「すまないが君達、しばらく外してくれないか」
アラン様は控えていた侍従と侍女にそう声を掛け、部屋の中は僕達二人だけになった。
「ナーシュ、せっかく綺麗にしてくれたのに、ぐちゃぐちゃになってしまったね。まあどんなナーシュでも、可愛いんだが」
「⋯そんな事ないです。アラン様、僕汚いから、汚れてしまいます。離してください」
「離す訳ないだろ」
「アラン様⋯」
アラン様は僕を抱えたまま椅子に座ると、濡れたナプキンで大切なものを優しく拭きあげるように、僕の顔を綺麗に拭いてくれた。
「僕、変なお化粧してきて、すいませんでした」
「変?ナーシュが変だった事は、出会ってから今まで一度もないが」
「えっ?本当に?」
「ああ、どちらかと言うと、私の方が毎回変になりそうなんだがな」
「ええっ!?アラン様、大丈夫ですか?どこか体が変なんですか?」
「まあ、そんなところだ。ナーシュは何も気にしなくていいよ」
アラン様はそう言って、僕の頬を優しく包んで撫でてくれた。
僕は胸が甘く締め付けられる感覚がして、アラン様の温かい体温を求めるようにアラン様の胸に顔を埋めた。
ああ、やっぱり安心するなぁ。
「僕も早く大人になりたい⋯」
僕は気が緩んでしまい、思わずアラン様の胸の中でそう呟いた。
すると、アラン様の僕を横抱きにしている腕に力が込められ、僕は潰れる程強く抱き締められた。
「ナーシュ、それは私の為?まさか、学園でそう思うような事でもあったんじゃないだろうね」
「学園では何もないです。だって僕の頭の中は、いつもアラン様でいっぱいだから。わっ、ぶっ」
今度こそ本当に潰れるかと思う位、更に強く抱き締められた。
「ナーシュ、そんな可愛い事言って、どれだけ私を変にさせる気なんだい?今日は我慢できないかもしれないよ」
アラン様が何か言ってるけど、僕は息が苦しくて、アラン様の背中を何度も叩いた。
「ああ、悪かった。でもナーシュも悪いよ」
「はぁはぁ、僕、やっぱり何かしたんですか?」
その時、僕のおしりに何か大きくて長くてもの凄く硬いものが当たっているのに気付いた。
はっ!アラン様のポケットに大事な物が入っていて、僕、それをおしりで踏んじゃってたんだ。
「ごっ、ごめんなさい!」
僕は慌ててアラン様の膝から降りようとしてバランスを崩し、咄嗟におしりの下にあった硬い棒の様な物を強く掴んでしまった。
「ぐおっ!」
そう言ってアラン様は前のめりに倒れ込んでしまった。
「アラン様っ!大丈夫ですか!?ひ、人を呼んできます!」
「ナー⋯シュ、いいから⋯、人は呼ぶな。私の名誉の為に、絶対呼ばなくていい⋯」
名誉の為⋯、もしかしてポケットの中には、何か公爵家の秘密に関わる物が入っているのかもしれない。
「分かりましたアラン様。僕に任せてください」
僕はアラン様の目を見つめコクリと頷くと、アラン様が大事そうにさすっているポケットの物を、一緒にさすった。
「おふっ!」
アラン様はそう叫ぶと、そのまま動かなくなってしまった。
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