愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる

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発情期が明けて僕が目を覚ました時には、結婚式から一週間が経っていた。

発情期の間の記憶は朧げで、夢の中にいるかと思えば、急に現実に引き戻される、そんな感覚だった。

でもその夢かうつつか分からない間、ずっとアラン様から愛されていたのは分かる。
はっきり覚えてはいないけど、愛するαに本気で抱かれるΩの悦びを、僕の体が覚えているから。

項を噛まれた記憶も朧げだけど、僕はあの時、アラン様から切なく名前を呼ばれ、愛してると言われた気がした。そんな幸せの絶頂で番になれたんだ。


アラン様と番になりたいという、子供の頃からの願いがやっと叶い、僕は毎日幸せで、なんだかいつも体がふわふわと浮いてるような感じがした。

番になってから、アラン様は益々僕に甘くなり、隙あらばすぐに横抱きにされて、本当に浮いてる時もあるけど、下ろしてもらってもやっぱり僕の体はふわふわと浮いてるみたいだった。



こんなに幸せでいいのだろうかと心配になる位、僕は本当に幸せだった。



でもそれからすぐに、公爵になったばかりのアラン様は、毎日朝早くから夜遅くまで忙しく仕事に追われる日々を送るようになった。


「ナーシュ、少しばかり抱き締めさせてくれないか?」
「アラン様、お体は大丈夫ですか?」
「ああ、心配いらないよ」

アラン様は、時間を見つけて僕に会いに来てくれるけど、少しやつれた様な感じがして、とても心配になった。




「アラン様⋯、最近ずっと忙しそうですけど、僕に何か手伝えることありますか?」
「ああ、ナーシュ、すまないね。家督を継いだばかりで、少しばかり慌ただしくしているだけだよ。しばらくしたら落ち着くと思うから」
「⋯はい」

 


「ナーシュ、すまないが、今日も先にベッドに入ってていいからね」

疲れた顔のアラン様から触れるだけの口付けをされ、一人ベッドで眠りに就く日がもう何日も続いている。


「アラン様、本当に大丈夫かな⋯」

僕は冷たいベッドの中で、なかなか眠りに就けずに、独り言を呟いた。

その日、やっぱり僕に何か手伝える事はないか聞いてみようと思い、夜中に寝室を抜け出して、アラン様の執務室に行ってみた。

「あれ、いない⋯」

アラン様は仕事をしているはずなのに、何故か執務室にはいなかった。

もしかして休憩をしてるのかと思い、屋敷の中を探してみた。
しばらく探していると、廊下の先にぼんやりとしたランプの薄明かりがあるのが分かり、人影が見えてきた。

「あれは⋯?アラン様?」

アラン様が公子の時に使っていた部屋から、こっそり出て来るのが見えた。

僕は後先も考えずに、ただアラン様の姿が見えたのが嬉しくて、アラン様に駆け寄って大きな声で名前を呼んだ。

「アラン様っ!」

「わあぁぁっ!ナーシュ!?」

アラン様に腰を抜かす程驚かれて、僕は泣きそうになった。

「あっ、ごめんなさい、アラン様。そんなに驚くと思わなくて⋯」
「ナーシュ、違うんだ!ちょっと考え事をしていたら、部屋を間違えてしまって慌ててたんだ」
「本当に?」
「ああ、本当だよ」

アラン様は僕を抱き締めて、僕の頭にチュッと音を立てて口付けをした。

「一人で眠れないのかい?」
「はい⋯、アラン様が心配で」
「ナーシュは優しいね。でも大丈夫だよ。さあ、寝室まで送って行こう」

僕は忙しいアラン様の手を煩わせたくなくて、僕を抱き締めてるアラン様の腕から離れようとした。

その時、アラン様の肩に蜂蜜色の髪の毛が何本か張り付いているのに気づいた。

「アラン様、肩に髪の毛が⋯」

僕はそう言いながら、その髪の毛を指で摘んだ。

「あれ?僕の髪より少し短いみたい⋯」

僕がそう呟いた瞬間、アラン様は弾かれたように僕から飛び退いた。

「アラン様⋯?」
「あっ、ナーシュ、す、すまない。急ぎの仕事を思い出した。寝室まで気を付けるんだよ」

アラン様は今まで聞いた事のない位の早口でそう言うと、走って行ってしまった。

僕は呆気にとられて、溜まっていた涙も一瞬で引っ込んでしまった。



何かある⋯、番の本能がそう言っていた。

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