75 / 132
第一章 森の生活と孤児院改革:アップデートと旅立ちの決意
第75話 リックの葛藤と、新たな決意
しおりを挟む
俺は、目の前の少女――コトリの言葉を、すぐには理解できなかった。
パートナー?
俺が? この、とんでもない女の?
冗談じゃない。
俺は、この数日間で、コトリという存在の異常性を、誰よりも間近で見てきた。
汚れた孤児院を一日でピカピカに変える、規格外の魔法。
一口食べただけで、誰もが笑顔になる、魔法のような料理。
そして、たった半日で、大人が稼ぐような大金を、いとも簡単に稼いでくる底知れない才覚。
こいつは、俺たちとは違う。住む世界が、見ている景色が、まるで違うのだ。
パートナーだと?
笑わせるな。
お前と俺が、対等になれるはずがない。
お前が太陽なら、俺は地面に転がる石ころだ。
そんなこと、自分が一番よく分かっている。
なのに、なぜだろう。
胸の奥で、何かが熱く疼く。
「信頼できるパートナーなの」
そう言った時の、コトリの真っ直ぐな瞳。
それは、俺が今まで、誰からも向けられたことのない種類の、期待の眼差しだった。
孤児院の最年長として、下の子たちの面倒を見るのは当たり前だった。
だが、誰かに「頼られた」ことは?
誰かに「必要とされた」ことは?
思い出せない。
いつも、一人で突っ張って、一人で全部背負ってきた。それが、当たり前だったから。
「……なんで、俺なんだよ」
ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど、か細かった。
「レオやルークじゃ、ダメなのか?」
「ダメだよ。レオとルークは、まだ小さいもの。それに、私が必要なのは、ただの力仕事をしてくれる人じゃない。一緒に考えて、お店を大きくしていってくれる、信頼できるパートナーなの」
コトリは、そう言って、一枚の羊皮紙を俺に見せた。
そこに書かれていたのは、子供の落書きなどでは断じてない、緻密で、論理的な『計画』だった。
市場、顧客、投資、利益……。
一つ一つの言葉の意味はよく分からない。
だが、それが、とてつもなく『すごいもの』であることだけは、俺にも理解できた。
こいつは、本気だ。
ままごとじゃない。本気で、この街で、何かを成し遂げようとしている。
そして、その隣に、俺を立たせようとしている。
(……無理だ)
心のどこかで、冷静な自分が囁く。
俺に、何ができる?
魔法も使えない。難しい計算もできない。
できることと言えば、少しばかり腕っぷしが強いことと、年下の子たちをまとめることくらいだ。
こいつの隣に立つには、あまりにも、俺は無力すぎる。
自嘲の笑みが、自然とこぼれた。
「……はっ。お前、本当に、何者なんだよ……」
そうだ、俺には無理だ。
こんな馬鹿げた話、断ってしまえばいい。
そうすれば、傷つかなくて済む。
期待されて、それに応えられなかった時の、あの絶望感を、もう味わわなくて済む。
そう、思うのに。
口から出た言葉は、全く逆のものだった。
「……失敗するかもしれねえぞ、お前の商売なんて」
「うん、そうかもね」
「俺は、お前みたいに頭も良くねえし、魔法も使えねえ。足手まといになるだけかもしれねえぞ」
「ならないよ。リックお兄ちゃんには、リックお兄ちゃんにしかできないことがある」
「……」
ああ、ちくしょう。
こいつの、その真っ直ぐな目が、眩しすぎる。
俺は、一度ぎゅっと目を閉じ、そして、覚悟を決めたように、再び目を開いた。
「……分かったよ。手伝ってやる」
その言葉に、コトリの顔がぱっと輝く。
俺は、慌てて付け加える。
「か、勘違いすんなよ! パートナーなんて、大層なもんじゃねえ! 俺は、ただ……お前が失敗しないように、見張っててやるだけだ! 手伝いが必要なら、まあ、やってやらんでもないってだけだ!」
もう、迷いはない。
この、とんでもない少女と一緒に、どこまで行けるのか。
この、石ころみたいな自分が、どこまでやれるのか。
試してみたくなったのだ。
「もちろん! よろしくね、リックお兄ちゃん!」
コトリが、満面の笑みで手を差し出してくる。
俺は、一瞬ためらった後、その小さな手を、少しだけ乱暴に、でも確かに、握り返した。
「……ああ」
◇
こうして、私にとって、初めての、そして何かと便利そうな『お手伝い要員その1』の確保に成功した。
私の小さな会社、『ヤマネコ商会』(今、名付けた!)の記念すべき人員確保の瞬間だった。
パートナー?
俺が? この、とんでもない女の?
冗談じゃない。
俺は、この数日間で、コトリという存在の異常性を、誰よりも間近で見てきた。
汚れた孤児院を一日でピカピカに変える、規格外の魔法。
一口食べただけで、誰もが笑顔になる、魔法のような料理。
そして、たった半日で、大人が稼ぐような大金を、いとも簡単に稼いでくる底知れない才覚。
こいつは、俺たちとは違う。住む世界が、見ている景色が、まるで違うのだ。
パートナーだと?
笑わせるな。
お前と俺が、対等になれるはずがない。
お前が太陽なら、俺は地面に転がる石ころだ。
そんなこと、自分が一番よく分かっている。
なのに、なぜだろう。
胸の奥で、何かが熱く疼く。
「信頼できるパートナーなの」
そう言った時の、コトリの真っ直ぐな瞳。
それは、俺が今まで、誰からも向けられたことのない種類の、期待の眼差しだった。
孤児院の最年長として、下の子たちの面倒を見るのは当たり前だった。
だが、誰かに「頼られた」ことは?
誰かに「必要とされた」ことは?
思い出せない。
いつも、一人で突っ張って、一人で全部背負ってきた。それが、当たり前だったから。
「……なんで、俺なんだよ」
ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほど、か細かった。
「レオやルークじゃ、ダメなのか?」
「ダメだよ。レオとルークは、まだ小さいもの。それに、私が必要なのは、ただの力仕事をしてくれる人じゃない。一緒に考えて、お店を大きくしていってくれる、信頼できるパートナーなの」
コトリは、そう言って、一枚の羊皮紙を俺に見せた。
そこに書かれていたのは、子供の落書きなどでは断じてない、緻密で、論理的な『計画』だった。
市場、顧客、投資、利益……。
一つ一つの言葉の意味はよく分からない。
だが、それが、とてつもなく『すごいもの』であることだけは、俺にも理解できた。
こいつは、本気だ。
ままごとじゃない。本気で、この街で、何かを成し遂げようとしている。
そして、その隣に、俺を立たせようとしている。
(……無理だ)
心のどこかで、冷静な自分が囁く。
俺に、何ができる?
魔法も使えない。難しい計算もできない。
できることと言えば、少しばかり腕っぷしが強いことと、年下の子たちをまとめることくらいだ。
こいつの隣に立つには、あまりにも、俺は無力すぎる。
自嘲の笑みが、自然とこぼれた。
「……はっ。お前、本当に、何者なんだよ……」
そうだ、俺には無理だ。
こんな馬鹿げた話、断ってしまえばいい。
そうすれば、傷つかなくて済む。
期待されて、それに応えられなかった時の、あの絶望感を、もう味わわなくて済む。
そう、思うのに。
口から出た言葉は、全く逆のものだった。
「……失敗するかもしれねえぞ、お前の商売なんて」
「うん、そうかもね」
「俺は、お前みたいに頭も良くねえし、魔法も使えねえ。足手まといになるだけかもしれねえぞ」
「ならないよ。リックお兄ちゃんには、リックお兄ちゃんにしかできないことがある」
「……」
ああ、ちくしょう。
こいつの、その真っ直ぐな目が、眩しすぎる。
俺は、一度ぎゅっと目を閉じ、そして、覚悟を決めたように、再び目を開いた。
「……分かったよ。手伝ってやる」
その言葉に、コトリの顔がぱっと輝く。
俺は、慌てて付け加える。
「か、勘違いすんなよ! パートナーなんて、大層なもんじゃねえ! 俺は、ただ……お前が失敗しないように、見張っててやるだけだ! 手伝いが必要なら、まあ、やってやらんでもないってだけだ!」
もう、迷いはない。
この、とんでもない少女と一緒に、どこまで行けるのか。
この、石ころみたいな自分が、どこまでやれるのか。
試してみたくなったのだ。
「もちろん! よろしくね、リックお兄ちゃん!」
コトリが、満面の笑みで手を差し出してくる。
俺は、一瞬ためらった後、その小さな手を、少しだけ乱暴に、でも確かに、握り返した。
「……ああ」
◇
こうして、私にとって、初めての、そして何かと便利そうな『お手伝い要員その1』の確保に成功した。
私の小さな会社、『ヤマネコ商会』(今、名付けた!)の記念すべき人員確保の瞬間だった。
214
あなたにおすすめの小説
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜
咲月ねむと
ファンタジー
息苦しい貴族社会から逃げ出して15年。
元公爵令嬢の私、リーナは「魔物の森」の奥で、相棒のもふもふフェンリルと気ままなスローライフを満喫していた。
そんなある日、ひょんなことから自分のレベルがカンストしていることに気づいてしまう。
「せっかくだし、冒険に出てみようかしら?」
軽い気持ちで始めた“冒険の準備”は、しかし、初日からハプニングの連続!
金策のために採った薬草は、国宝級の秘薬で鑑定士が気絶。
街でチンピラに絡まれれば、無自覚な威圧で撃退し、
初仕事では天災級の魔法でギルドの備品を物理的に破壊!
気づけばいきなり最高ランクの「Sランク冒険者」に認定され、
ボロボロの城壁を「日曜大工のノリ」で修理したら、神々しすぎる城塞が爆誕してしまった。
本人はいたって平和に、堅実に、お金を稼ぎたいだけなのに、規格外の生活魔法は今日も今日とて大暴走!
ついには帝国の精鋭部隊に追われる亡国の王子様まで保護してしまい、私の「冒険の準備」は、いつの間にか世界の運命を左右する壮大な旅へと変わってしまって……!?
これは、最強の力を持ってしまったおっとり元令嬢が、その力に全く気づかないまま、周囲に勘違いと畏怖と伝説を振りまいていく、勘違いスローライフ・コメディ!
本人はいつでも、至って真面目にお掃除とお料理をしたいだけなんです。信じてください!
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
気弱令嬢の悪役令嬢化計画
みおな
ファンタジー
事故で死んだ私が転生した先は、前世の小説の世界?
しかも、婚約者に不当に扱われても、家族から冷たくされても、反論ひとつ出来ない気弱令嬢?
いやいやいや。
そんなことだから、冤罪で処刑されるんでしょ!
せっかく生まれ変わったんだから、処刑ルートなんて真っ平ごめん。
屑な婚約者も冷たい家族も要らないと思っていたのに・・・?
執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?
Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった中学生、朝霧詠無。
彼の魂はそのまま天国へ……行くことはなく、異世界の住人に転生。
ゲームや漫画といった娯楽はないが、それでも男であれば心が躍るファンタジーな世界。
転生した世界の詳細を知った詠無改め、バドムス・ディアラも例に漏れず、心が躍った。
しかし……彼が生まれた家系は、代々ある貴族に仕える歴史を持つ。
男であれば執事、女であればメイド。
「いや……ふざけんな!!! やってられるか!!!!!」
如何にして異世界を楽しむか。
バドムスは執事という敷かれた将来へのレールを蹴り飛ばし、生きたいように生きると決めた。
捨てられ令嬢は、異能の眼を持つ魔術師になる。私、溺愛されているみたいですよ?
miy
ファンタジー
アンデヴァイセン伯爵家の長女であるイルシスは、『魔眼』といわれる赤い瞳を持って生まれた。
魔眼は、眼を見た者に呪いをかけると言い伝えられ…昔から忌み嫌われる存在。
邸で、伯爵令嬢とは思えない扱いを受けるイルシス。でも…彼女は簡単にはへこたれない。
そんなイルシスを救おうと手を差し伸べたのは、ランチェスター侯爵家のフェルナンドだった。
前向きで逞しい精神を持つ彼女は、新しい家族に出会い…愛されていく。
そんなある日『帝国の砦』である危険な辺境の地へ…フェルナンドが出向くことに。
「私も一緒に行く!」
異能の能力を開花させ、魔術だって使いこなす最強の令嬢。
愛する人を守ってみせます!
※ご都合主義です。お許し下さい。
※ファンタジー要素多めですが、間違いなく溺愛されています。
※本編は全80話(閑話あり)です。
おまけ話を追加しました。(10/15完結)
※この作品は、ド素人が書いた2作目です。どうか…あたたかい目でご覧下さい。よろしくお願い致します。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる