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しおりを挟む「よし、完全に回復したぞ」
俺は帯を締め直した。
蛇の毒が抜けて、身体が喜んでいる。
「やっとアヤに会える」
ああ、好きな気持ちが止まらない。
部屋から出ようと、襖に手を伸ばす。
そのとき襖の向こうから、
「リュウさん」
と、女の声がした。
アヤだ。
あまりの嬉しさに頬が赤く染まる。
だが、ぼうっと立っていてはバカみたいだな。
と思い、俺は秒で座布団に腰をおろし、
「なんだ?」
と、声をかけた。
「お話があります。開けても良いですか?」
「ああ、いいぞ」
襖がゆっくりと開かれる。
膝をついていたのは、やはりアヤだった。
彼女は一礼し、すっと立ち上がると部屋に入いる。
また膝をつき襖を閉じた。
つま先を立てて座る、その所作が美しい。
和室の礼儀がなっており、動きも優雅であった。
桜色の浴衣が似合っていて、可愛いらしく歩く。
俺は興奮し、喉が乾いて唾をのむ。
ああ、早くキスしたい。
「リュウさん、もう動けるように?」
「ああ、大丈夫だ。心配かけたな」
「よかった」
アヤは両手を合わせ、胸をなでおろした。
俺を見つめる瞳は漆黒に艶めいている。
もしや、さっきまで泣いていたのかもしれない。
「アヤ、どうした?」
「和香さんの手記が他にもありました」
「えっ?」
「これです」
アヤは浴衣の懐に手を入れた。
おもむろに取り出したのは二枚の紙片。
彼女はその一枚を、俺によこす。
「こちらからどうぞ」
渡された手記に目を落とす。
和香との思い出が、頭のなかで鮮明に蘇る。
彼女を抱きしめたときの温もり、髪の香り、心臓の鼓動……。
やがて、もう一枚がアヤから渡された。
夢中で読む。
和香の笑顔が、紙面に浮きあがる。
読み進めるうちに理解した。
そうだったのか。
なぜ和香が突然、召喚してこなくなったのかわかった。
人間の愚かさが招いた悲劇に、和香は飲みこまれて……。
「さようなら、がいえなかった」
そう呟いた俺は、二枚の手記を座卓の抽斗にしまった。
アヤは横にすわり、俺の肩に手をおいて、
「……リュウさん、和香さんになにがあったのですか?」
「アヤ、君の生きる平和な時代では考えにも及ばないことが起きていたんだ……」
「まさか、和香さんの生きる時代は……あっ!」
賢いアヤは、和香がなぜ召喚しなくなったのか気づいたようだ。彼女の潤んだ瞳から、涙がこぼれ落ち、
「リュウさん……」
と、俺の名前を呼んで、抱きついてきた。
アヤの熱が伝わり、俺のほうまで感情が揺さぶられ、涙が流れる。
「すまない。男なのに泣いてしまった……」
「いいえ、男だって泣きますよ。僕なんていつも泣いてばかりいましたから」
「アヤは女なんだから、泣いてもいいんだぞ」
「……いえ、そうではないのです」
「ん?」
アヤは唇を噛んだ。何か思い悩んでいるように見えた。
「じつは、僕は……」
と言葉を切った。
ああ、俺は振られるな……。
そう察し、あわてて口を挟んだ。
「わかってる、アヤ。俺のことが嫌いなんだろ?」
「いえ、そうではなくて……」
「でも、俺のことは好きになれないんだろ?」
「はい……」
「まあ、悔しいが仕方ない。アヤには魅了が効かないからな」
「いや、それは僕が……」
「アヤは妖力を持った人間だ」
「違います。僕は妖力なんてありません」
「ほう、まだ無自覚だったのか……」
アヤの手が俺の肩から離れた。
だが、俺はアヤの手を握って抱き寄せる。
はっと驚くアヤの表情が、可愛くいてたまらない。
「やっ、やめてください」
「俺はアヤのことが好きだ」
「うぅっ……和香さんのことが好きなくせに」
「アヤは和香の子孫、そうだろ?」
「そうですが……」
「和香と比べることはない。俺はアヤが好きだ」
「ぼ、僕の気持ちは無視ですか?」
「そんなことはない。一緒に愛を育もうではないか。身体さえ重なれば、アヤだってわかると思う。さあ、俺に身をまかせろ。案ずることはない、優しくしてやる」
ぶるぶるとアヤは肩を震わせた。
「そんなに嫌なのか?」
「はいっ! 僕はそういうエッチなのはダメです」
「何を言う。そんなに可愛い顔をしているなら、人間界では男が寄ってきて仕方なかっただろ?」
「た……たしかにそうですが、リュウさんは勘違いしてるんです」
なにがだ? と俺は訊き返す。
潤んだ瞳で見つめるアヤは、小さく口を開いた。
「僕は男なんです!」
はあ? と俺は声を漏らした。
アヤをじっと見つめる。
大きな黒い瞳、長いまつ毛、さらさらの髪が艶めいている。
肌は雪のように白い。
声だって完全に女だ。
それなのにアヤが男なんて、そんなわけがない。
「アヤ、そういう嘘はよくないぞ」
大きく首を振るアヤは、真剣な眼差しになった。
「嘘ではありません。僕は男なんです」
「あははは、そうやって俺から逃げようという魂胆か?」
「リュウさん、信じてください。僕は本当に男なんですっ!」
「信じられない。俺がこんなに好きなっているのに、男なわけがない」
「それでも、僕は男なんです」
「ふぅん……そこまで言うなら確認するぞ」
俺は左腕でアヤを強く抱きしめた。
「リュウさん……やめて、うぅぅ」
アヤは畳の上で身をよじって抵抗するが華奢な身体。
拘束することなど造作もない、赤子の手をひねるようなもの。
俺は、おもむろに右手をアヤの股間にのばす。
「えっ、ちょっ、待ってリュウさんっ!」
「アヤが男というなら、身体調査させてもらう」
「や、やだっ! 変なところ触らないでっ」
「男なんて嘘なんだろ?」
「ダメだってばぁ、んんっ」
アヤのあそこが、じわじわと硬くなっていく。
そんな感覚が右手に伝わってきた。
顔を真っ赤に染めるアヤは、両手で俺の腕をつかみ、必死になって抵抗する。
「わぁ、やめっ!」
「アヤ……本当に男だったのか……」
思わず俺はアヤの股間を、ぎゅっと握ってしまう。
ビクンッとアヤは身をよじった。か、可愛い。
「あんっ、や、やめろってばぁ、んん……」
「アヤ、女みたいな顔してるのにあそこは大きいんだな」
「う……うるさいっ! っあん、もう握るなぁぁ、はなせっ、バカっ!」
これ以上握っていると爆発しそうだな。
と直感した俺は、とりあえず力を抜いた。
その瞬間、アヤの手が大きく振られ、
バチンッ!
と、俺の頬に激痛が走る。
え? 俺ってビンタされた?
「リュウさんなんて大っ嫌いだっ!」
そう叫んだアヤは、俺を突き飛ばして部屋を出ていく。
ピシャリと強く襖を閉める音。
アヤは物凄く怒っていることを物語っていた。
「やっちまった……」
つい女を前戯するみたいに手をだしてしまった。
俺は心から反省したが、もう後の祭り。
どうやら、アヤを怒らせてしまったようだ。
「完全にフラれたな……」
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