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しおりを挟むついにリュウに男だとバレてしまった。
いや、バレたことはいい。むしろ、白状するつもりでいたし、リュウは優しいから許してくれると思い込んでいたが、それは甘い考えで、僕は身体検査され、不覚にも感じてしまった……。
ふいに、リュウにあそこを握られた感触を思い出し、はぁ、とため息が漏れてしまう。
「初めてが男とか、最悪……」
やはり昨夜、人間界に帰っておくべきだった、と後悔する。
それでも、和香さんがつづった手記を見つけ興奮した僕は、リュウと和香さんにまつわる話をしたいという衝動を抑えきれず、一泊を決意した。
だが、それが裏目に出てしまう。
リュウは僕に癒し、というかエッチなことを求めていることは、薄々わかっていたのに、つい仲良くなりすぎてしまった。
「獣人旅館の主人。竜人のリュウ……」
彼は素直で少年のような心を持っている。
僕の嫌がることはしなかった。
だから、心を許し始めていたのに、僕が男かどうか確かめるとはいえ、強引に身体検査するなんて、ひどい男だ。
ひどい男だが……。
僕は、もっとひどい男だ。
女装して、リュウを騙していた。
僕が男だとわかり幻滅しただろうな。
おそらく、嫌われただろう。
なぜなら、部屋から出ていった僕を、リュウは追いかけて来なかった。
もしも僕のことが好きなら、待ってくれ! なんて言って追いかけて来てくれるはずではないか?
追いかけてきてよ……。
いやいや、甘いな。それは傲慢で、自己中な考えか……。
ああ、僕は最低な男だ。
怒って出ていったくせに、追いかけて来い、だなんて。
「ああ、やだやだ。もう帰ろうかな……」
漏れる本音とともに、目から涙がこぼれ落ちた。
もう、獣人旅館に来ることもないだろう。
そう思うと、召喚されてからのことが鮮明に蘇ってくる。
僕は、獣人旅館で至福なひとときを満喫していた。
美味しい懐石料理、ほっこりする温泉、ふかふかの布団に、美しい庭園、それに働いているみんなの優しい笑顔……。
「ああ、また来たいなぁ」
だが、それは無理だろう。
僕は男だ、生贄として失格。リュウを本当に癒してあげることはできない。男の僕では男を癒すなんて無理なんだ。
そう思った瞬間、はっと自分の心境に驚いた。
「あれ? 僕はリュウさんを癒せなくて残念がっている?」
ぶんっと首を振って自分を否定した。
「あはは……ありえない……」
男のリュウを癒してあげたい、だなんて……。
ふつうなら恋愛感情は女に向けるべきだろう。
リュウだって、男の僕に癒しなんて求めるわけがない。
「僕は男なんだ……それなのに……なぜ?」
♪~
過去を振り返れば、僕は欠陥品だった。
見た目が女の子な男の子。
僕は所謂、男の娘だった。
昔から呼称はアヤちゃん。
男子から告白されることもあった。
だが、もちろんお断り。
逆に、好きな女子からは、男子に見れない、といって振られた。
百合っぽい女子からは人気があったけど、あいにく僕にはそういう趣味はない。
ふざけた男子からは、やーい美少女! とからかわれ、怖い先輩たちからは体育館裏に連れていかれ、危うく犯されそうになったことも、ぶっちゃけあった。
だから、基本的に男は信用できない。
男と接近することは、トラウマ、なのだ。
だからリュウにも、つい怒ってしまった。
別にリュウのことは嫌いではない。
だけど、無理やり手を出されると、トラウマが脳裏に蘇ってきて拒絶してしまう。
欠陥品の僕らしい結末。
もういいや、もう人間界に帰ろう。
はらり、と浴衣を脱いだ僕はスーツに着替えた。
抜け殻となった桃色の浴衣をたたんで押し入れにしまっていると、感傷的な気持ちになる。
もう二度と女の格好なんて、することはないだろう。
ふと、スマホをジャケットの内側から取り出し電源を入れてみるが、やはりつかない。
ネット環境がないのも、デジタル世代の僕にとって不安だ。ここは魔界であり、人間界からは切り離された異世界。僕のいるべき場所じゃない。
さあ、もう帰ろう、そう決意した。
最後に美しい庭園を見届け、
「さよなら、獣人旅館……」
といってから、踵を返し襖を開けようと手を伸ばした。そのとき、
「アヤ」
と襖の反対側から優しくて低い声が聞こえる。リュウの声だった。
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