【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花

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40:帰り道で(1)

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 私とシャノンが乗る車を牽《ひ》きながら、二頭の地竜が街道を走っていた。
 今日の天気は快晴。
 青空と緑豊かな山々の対比は美しく、頬を撫でる風は心地よい。

「この分だと、日が暮れる前には王宮に着きそうだな。今日は朝から車を走らせてるが、疲れてないか? 休憩したいなら近くの村に寄るぞ。軽食を摂っても良いし」
 向かいの席に座るシャノンがそう言った。
 窓から見える景色を楽しんでいた私は、亜麻色の髪を揺らして彼を見た。

「気遣ってくれてありがとう。でも、大丈夫よ。お互いに仕事が溜まっているでしょうし、早く帰らないと。王宮を出てもう一か月近く経つもの。国王様だって、どんなに遅くとも夏祭りまでには帰りなさいと仰られていたでしょう? 私、シャノンと一緒に踊るのを楽しみにしてるのよ」

 五日後、王都で夏祭りが行われる。
 シャノンから一緒に行こうとお誘いを受けた私は、その日を心待ちにしていた。

「おれも楽しみにしてるよ。多分、アンジェリカが思う以上に楽しみにしてる。けど……」
「けど?」
 追及すると、シャノンは照れくさそうに笑った。

「もう少しこのまま二人旅をしていたかったな。もうすぐこの時間も終わると思うと、名残惜しいんだ」
「それは……」
 なんと返すのが正解なのだろうか。
 私もよ?――いや、そんなこと恥ずかしくて言えない。
 かといって否定すれば、シャノンを傷つけることになるのでは?

《二人旅っていっても、いまはモートンもいるし、あたしたちもいるけどねー》
 私の右肩の上でディーネが言った。
 私たちと同行することになったモートンさんは客室ではなく御者台に座っている。
 私たちの邪魔をしたくない、それよりも竜車を操ってみたいという本人の要望を叶えた結果だった。

「そうだな。真実アンジェリカと二人きりになれたことはないな。いつもアンジェリカの周りには精霊がいる。おれの目に映っているのはほんの一部の精霊だけで、実際には数え切れないほどの精霊がいるんだろうな」
 私の左肩にはノームとアクアが、膝の上ではイグニスがくつろいでいる。
 その他にも、私の頭付近には三体の有形精霊たちが浮かんでいた。
 実体を持たない無形精霊に至っては二十体ほどか。
 この子たちはシャノンの目には見えていないはずだ。多分、その声も聴こえてはいない。

《あら。お邪魔かしら?》
 ディーネは目を細め、どこか挑発的な笑みを浮かべた。

「いや、そんなふうに思ったことは一度もないよ。むしろ感謝してるんだ。おれがいなくてもアンジェリカは精霊たちに守ってもらえる。何があっても大丈夫だと思えるからな。アンジェリカはおれにとって大切な人だ。これからもよろしく頼む」
《……。シャノンって精霊たらしの才能あるわよ》
 シャノンに優しく微笑まれて、ディーネは頭を掻いた。
 そして、何かに気づいたようにピクッと片耳を動かし、窓の外を見る。

《ミグロムに行ってた子たちが帰ってきたみたいよ。迎えに行ってくる》
 ディーネは車体の壁をすり抜け、そのまま外へ出て行った。
 力のある精霊は実体と幽体を自由に切り替えることができるのだ。

 しばらくして、彼女が連れて帰ってきたのは金色の鳥のような形をした三体の精霊。
 鳥精霊(仮称)は音速に匹敵する速度で飛ぶことができる。
 私はシャノンと話し合い、昨夜から鳥精霊たちにモートンさんの身辺調査をしてもらっていたのだった。

《商会が大きすぎて下っ端の動向まではさすがにわからないけれど、少なくともモートン自身は奴隷売買には関わってないって。商会で扱っている商品は魔導具や外国の絹織物、宝石、装飾品とか……とにかく、真っ当なものばかりみたいね》
 言葉を発することができない鳥精霊たちの代わりに、ディーネがその意思を伝えてくれた。

「そうか。……良かった」
 シャノンの表情が和らぐのを見て、胸が締めつけられた。
 私が人間だからか、普段シャノンが人間の悪口を言うことはない。
 ミグロムの奴隷問題についても積極的に触れることはなかった。
 でも、口に出さないだけで、人一倍優しい彼がどれほど現状に心を痛めていることか──改めて思い知らされたような気がした。

「頑張ってくれてありがとう。あなたたちがもたらしてくれた貴重な情報は、決して無駄にはしないわ」
 私は鳥精霊たちを撫でながら、昨夜のことを思い出していた。

 昨夜、情報通のモートンさんからは色んな話を聞いた。
 隣国の領都攻略のため、ミグロムの第一王子ネクロンドが一週間前に王都で閲兵式を開いて親征したこと。
 ミグロムの第二王子ルベリオと第一王女サフィーヌは好戦的な国王カイゼルやネクロンドとは違って平和主義者で、奴隷制度に強く反対していること。
 それと、各神殿で祀られていた大精霊がいなくなり、セレイエ教会の総本山である聖王国が大混乱に陥っていること。
 この混乱を治められなければ教会の権威の失墜は避けられないだろう。

 ディーネたち四大精霊はセレイエ教を国教とする自国や周辺諸国に恵みをもたらす重要な存在。
 それが四体同時にいなくなったとなれば、お前たちは何をやっていたのだと責められて当然である。
 下手をすれば『聖王が無能だから大精霊に見放された』と不満が高まり、貴族や軍が反乱を起こすかもしれない。
 あるいはセレイエ教の権威で成り立っていた同盟関係が崩れ、周辺諸国が侵攻を開始するかも?

 でも、聖王国がこの先どうなろうと私には関係ない話だ。
 アーギルさんや、私に良くしてくれた一部の人たちは平穏無事であってほしいと思うけれど、それだけだった。
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