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39:迷子の大商人(5)
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「……。2000出すって言っても?」
「10万でも100万でも、です。エレギアから離れるつもりはありません」
モートンさんの未練がましい目を見返し、キッパリ言う。
「……そうか。残念だ」
私の意思は変えられないと見たらしく、モートンさんは肩を落とした。
逆にシャノンは嬉しそう。垂れていた耳が立った。
「わかった。無理強いはしない。でも、もし気が変わったらいつでも言ってくれ」
「わかりました」
多分そんな日は来ないと思うけれど、将来の選択肢の一つとして頭には入れておこう。
「宮廷魔法薬師として働いているって言ったよね。作った薬は全部王宮に納品する約束なの? 独占契約を結んでる?」
気を取り直したらしく、モートンさんは明るい口調に戻って言った。
「いえ、そんなことはありません。一日のノルマを達成すれば後は自由だと言われています。宮廷とは無関係の人でも、頼まれればその人のために作ったりしていますよ」
旅先でも乞われればポーションを作ってきた。
「じゃあ、全てはアンジェリカちゃんの意思次第ってことだよね。もうミグロムに来いなんて言わないからさ、オレと契約する気はない? 一日、いや、一週間に一本でもいいからポーションを作ってほしいんだ。どうしても!」
モートンさんは私を拝むようなポーズを取った。
「……少し考えさせてもらえませんか。大事な話ですから、国王様とも相談して決めたいんです」
ミグロムは亜人を奴隷としている国だ。
そんな国の商人と取引することをバロン様がよしとするかどうか。
私なりに考えはあるけれど、相談した上でバロン様が難色を示すようなら断ろう。
「うんうん、ありがとう。検討してくれるだけでも嬉しいよ」
私の心境を察しているらしく、モートンさんは微笑んだ。
「でも、相談の結果はどうやって伝えれば良いのでしょうか? また後日改めて商会の方が結果を聞きに来るんですか? その場合、結局『取引はしない』ということになったら無駄足を踏ませるだけになりますが……」
「モートンはいま休暇中なんだろう。おれたちは明日王宮に帰る予定なんだが、ついてくることはできないか?」
やり取りを見ていたシャノンが口を挟んだ。
「へっ? 王宮に行っても良いんですか?」
モートンさんはびっくりしている。
『ある日いきなり迷い込んできた見ず知らずの人間、しかも奴隷商かもしれないと疑っている人間を王宮に招き入れるなんて、この王子は大丈夫か?』とでも思っているのかもしれない。
「お前はミグロムの物流を支配する大商人なんだろう。このまま帰すには惜しい」
直感で悟った。
私のポーションを求めるモートンさんを見て、シャノンは私と全く同じ発想を抱いたのだ。
すなわち、モートンさんとの商取引を通じてミグロムの議会を動かすという、大それた発想を。
「それに、後日また改めて来るよりも、直接結果を聞いたほうが手間も時間も省けて良いだろう」
「……そりゃそうですが……」
モートンさんは困惑顔。
「なんだ。何か問題があるならはっきり言え」
焦れたらしく、シャノンは眉を上げた。
「……いやあ。うちの国の王太子と違って、シャノン様がいい人過ぎて、逆に心配になってきました。大丈夫です? 悪人に壺とか買わされたことありません?」
「ないよ。……買わされる前にちゃんと気づいた」
シャノンは小声で言って背中を向け、歩き出した。
「あはは。やっぱり買う寸前までいったんですねー」
「うるさい」
二人は言い合いながら歩いていく。
――後でシャノンと話し合おう。
そう思いつつ、私は二人の後を追った。
「10万でも100万でも、です。エレギアから離れるつもりはありません」
モートンさんの未練がましい目を見返し、キッパリ言う。
「……そうか。残念だ」
私の意思は変えられないと見たらしく、モートンさんは肩を落とした。
逆にシャノンは嬉しそう。垂れていた耳が立った。
「わかった。無理強いはしない。でも、もし気が変わったらいつでも言ってくれ」
「わかりました」
多分そんな日は来ないと思うけれど、将来の選択肢の一つとして頭には入れておこう。
「宮廷魔法薬師として働いているって言ったよね。作った薬は全部王宮に納品する約束なの? 独占契約を結んでる?」
気を取り直したらしく、モートンさんは明るい口調に戻って言った。
「いえ、そんなことはありません。一日のノルマを達成すれば後は自由だと言われています。宮廷とは無関係の人でも、頼まれればその人のために作ったりしていますよ」
旅先でも乞われればポーションを作ってきた。
「じゃあ、全てはアンジェリカちゃんの意思次第ってことだよね。もうミグロムに来いなんて言わないからさ、オレと契約する気はない? 一日、いや、一週間に一本でもいいからポーションを作ってほしいんだ。どうしても!」
モートンさんは私を拝むようなポーズを取った。
「……少し考えさせてもらえませんか。大事な話ですから、国王様とも相談して決めたいんです」
ミグロムは亜人を奴隷としている国だ。
そんな国の商人と取引することをバロン様がよしとするかどうか。
私なりに考えはあるけれど、相談した上でバロン様が難色を示すようなら断ろう。
「うんうん、ありがとう。検討してくれるだけでも嬉しいよ」
私の心境を察しているらしく、モートンさんは微笑んだ。
「でも、相談の結果はどうやって伝えれば良いのでしょうか? また後日改めて商会の方が結果を聞きに来るんですか? その場合、結局『取引はしない』ということになったら無駄足を踏ませるだけになりますが……」
「モートンはいま休暇中なんだろう。おれたちは明日王宮に帰る予定なんだが、ついてくることはできないか?」
やり取りを見ていたシャノンが口を挟んだ。
「へっ? 王宮に行っても良いんですか?」
モートンさんはびっくりしている。
『ある日いきなり迷い込んできた見ず知らずの人間、しかも奴隷商かもしれないと疑っている人間を王宮に招き入れるなんて、この王子は大丈夫か?』とでも思っているのかもしれない。
「お前はミグロムの物流を支配する大商人なんだろう。このまま帰すには惜しい」
直感で悟った。
私のポーションを求めるモートンさんを見て、シャノンは私と全く同じ発想を抱いたのだ。
すなわち、モートンさんとの商取引を通じてミグロムの議会を動かすという、大それた発想を。
「それに、後日また改めて来るよりも、直接結果を聞いたほうが手間も時間も省けて良いだろう」
「……そりゃそうですが……」
モートンさんは困惑顔。
「なんだ。何か問題があるならはっきり言え」
焦れたらしく、シャノンは眉を上げた。
「……いやあ。うちの国の王太子と違って、シャノン様がいい人過ぎて、逆に心配になってきました。大丈夫です? 悪人に壺とか買わされたことありません?」
「ないよ。……買わされる前にちゃんと気づいた」
シャノンは小声で言って背中を向け、歩き出した。
「あはは。やっぱり買う寸前までいったんですねー」
「うるさい」
二人は言い合いながら歩いていく。
――後でシャノンと話し合おう。
そう思いつつ、私は二人の後を追った。
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