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第二部
15:猫又さまと黒いシェルター
しおりを挟むシャララ――ン――……
(これ)
ミケのお守りから?
――これを数秒鳴らすのが、クロをこちらに呼び戻す合図です
神谷さんの言葉を思い出す。さっきまでの神経を削るような音とは違う、澄んだ音色。それが波紋のように広がり、空気すらも変えていく。
「桜ちゃん……!!」
叫ぶミケ。雨と闇の帳に、線状の光が灯る。わたしの前に立ちふさがっている化け犬が、赤い目を見開いた。
「これは……!」
「く、くろい、ねこ!」
光はキャリーケースを抜けて、扇状に広がる。地面を抉るほどに強かった雨がぴたりと動きを止め、やわらかな風が吹いた。
「――化け犬か」
低い声。光の中に浮かび上がるのは、揺れる髪と、着流しの帯。人のシルエットにそぐわない、九本の尾。
「黒いの……!!」
(クロちゃん……!!)
ミケの動きがぴたりと止まる。
「ど、どうする……」
「『黒』と対峙したら退けと、」
威圧的だった化け犬の一匹が明らかにうろたえている。わたしは、口をぱくぱく動かしながらも、やはり言葉は出てこない。
クロちゃんが化け犬に手を伸ばす。
「――!!」
瞬間。
ゴロゴロゴロ!!
空が光り、轟音を響かせた。停止していた雨粒は一つの巨大な塊となった。そして。
バチバチバチ!!
その塊を包むように、紫電が這い、球体は槍のような形状に変わる。
「退くぞ!!」
「わ、わかった……!!」
圧倒的な力の塊を前に、化け犬は弾かれたように背を向けた。
クロちゃんはその背に向け、躊躇いなく。それを投げた。
――そして。
「うにゃ!?」
「!!」
こちらもただではすまないと身構えた瞬間。わたしとミケは柔らかな黒に包まれ、全てを遮断された。
――どれぐらい過ぎたか。
音も光もないなかで、わたしはキャリーケースを抱えたまま座り込んでいた。ぼたぼた、とずぶ濡れの髪からは絶え間なく粒が落ちる。ただ、不思議と寒さはなかった。
やがて、つぼみが咲くように、光が差し込む。
「――無事か」
雨が上がり、そこはいつもの見慣れた光景だった。違うのは、こちらを心配そうにのぞき込む青年の顔。
(あ、)
ありがとう、と言いたいが、言葉にならなかった。ただ、口を動かして、ぺこりと頭を下げる。
それに、目を見開いたクロちゃんは呆れたようにため息をついた。
「――意図して『言霊』を使ったか」
「!」
クロちゃんの指が、わたしの首に触れる。――すると。はちみつのようにとろっとしたものが喉の痛みをやわらげた感触がして。
「どうだ?」
「あ……!」
声、でる!!
「ありがとう、クロちゃん!!」
これでやっとお礼が言える!! そう思ってお礼を口にすると、クロちゃんの端正な顔が歪んだ。
「――クロ“ちゃん”はやめろ」
「あ」
つい口にしてしまった。確かに、猫の姿ならまだしも、人の姿でクロちゃんはないかも……。
「まあいい。今は呼び方ひとつで揉めている場合ではないな……。娘、そして三毛」
「は、はい!」
「……なんにゃ」
「化け犬を取り逃がした。――まさか、助けに入るとは思わなんだが……」
その言葉が、予想外のことに揺れていた。
「緊急性が増した。お前たちには今からこちらに来てもらう」
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