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第三部
02:猫又さまとのまどろみ
しおりを挟む洗濯機はドラム式で、乾燥まで出来る優れものだった。――とはいえ、終わるまであと二時間ちょっとかかるけど。
それを補うようにスウェットと使い捨ての下着が置かれているのはびっくりした。
(うーん。下着もエステで使うようなもの用意されてたし。女性が管理してるのかなあ)
わたしはミケの髪を乾かしながら首を傾げた。一番奥は広いバスルーム。玄関から右側にはベッドルーム。左側はリビング。最低限の設備だが、それぞれが広くとられているので気にならない。
(ベッドルームもご自由にお使いくださいって……本当にホテルみたい)
お風呂に入る時にあった書置きを思い出す。
さわさわと柔らかいミケの髪を梳きながら、あくびをした。ダメだ。ベッドが近くにあると思うと眠い。
「うなあ……」
「あ、ごめんね、ミケ。もう少し我慢して」
お風呂は平気だったみたいだけど、やっぱりドライヤーの音は苦手みたい。念入りにタオルドライしたけど、それでも乾くのには時間がかかる。
(でも、猫の時よりは乾きやすいかな)
「――うん。部屋もあったかいし、これぐらい乾けば大丈夫」
「うにゃあ~」
乾かしすぎても髪の毛がバサバサになりそう。ドライヤーを切ると、ミケが首をぷるぷると振った。
その首元で揺れるお守りが、この状況を忘れさせてはくれないけど。
「じゃあ今度はわたしの髪の毛乾かすから。ミケはベッドで寝てていいよ」
「そうするにゃ!」
お言葉に甘えてベッドルームも使わせてもらうことにする。わたしの髪も渇きにくいし、その間ミケにはゆっくりしててもらおう。
ミケも目を輝かせて、人の姿のままベッドに飛び乗る。わたしのベッドより寝心地いいのかも。ゴロゴロ喉を鳴らしてる。
(わたしも寝たいなあ)
すごく疲れたし。早く髪を乾かして、少し寝ようと思った。まだ夕方だけど、クロもゆっくりしていいって言ったし。
(いや、お風呂だけの話かもしれないけど)
でも多分、わたしたちの体力を回復させる目的もあるんだと思う。
勝手に解釈して、髪が乾いたらこれもご自由にと書かれていたペットボトルの水を一本貰って。
少しだけ、眠ることにした。
▽
久しぶりに、夢をみた。
その夢のなかで、わたしは少女だった。月明かりも、星明りもない、淀んだ闇の中で冷たい雨が体を冷やした。お布団もない。お風呂もない。安心できる家すらもない。
わたしは骨と皮だけで、泥だらけの手を擦りながらガタガタと震えていた。
(今日は来ないのかな)
はぁ、と手に息を吹きかける。それでマシになるはずもない。泥だらけの手と、泥だらけの足を擦りつけて少しでも暖をとろうとする。それでもまったく温かくならない。唯一、温かくなる瞬間は。
(みけ……)
わたしのように痩せた三毛猫。あの子は唯一わたしに温かさをくれる。
抱きしめたい。泥とホコリにまみれてる体は、わたしにとって唯一の救い。
――――ピーピーピーピー……
「っは……!!」
音が鳴り響き、一気に現実に引き戻された。
(あ、乾燥が終わったみたい……)
大事な夢を見ていた気がする。もう、思い出せないけど。
「ううん……桜ちゃん……こんどこそ」
わたしが守るにゃ……
ミケの寝言に、わたしの涙腺がバカになる。いつだってミケは、こうして側にいてくれるだけでわたしを救ってくれてるのに。
「……ふふ。可愛い」
腕のなかで眠っている、小さい女の子の姿をしたミケ。
どうしてだろう。もうこれ以上ないと思うほど愛しいと思っていた存在が、夢から覚めてもっと愛しくなった。
「大好きだよ、ミケ。ずっとわたしと生きてね」
わたしの涙がひと粒、ミケの頬に落ちた。
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