私のお猫さま 25歳を迎えて猫又さまになりました

月見こだま

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第四部

07:きょうだい

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「……きょう、だい?」

 さっき、クロは『みけ』にきょうだいと言った。

(――母猫に置いて行かれた猫は二匹。……でも、それは九尾のひと粒を持ってる。『みけ』はそうじゃない。――つまり、)

「なるほど。――お前、あの時の黒だったか。となると、あれもか」
「……そうなるな」
「いつ気付いた」
「お前の妖力を取り込んだ時だ」
「あの時か」
「気のせいだと思ったんだがな」
「俺もきょうだいは残らず死んだと思っていた。まさか、捨て置かれたお前たちが九尾の力を得るとは」

 二人の会話は途切れない。けれど、『みけ』の声質は徐々に変質する。一言ごとに何かを奪われていくような錯覚。
 息苦しさと喉の渇き。口の中はからからだった。
 不意に、隣で息を呑む音が聞こえた。

「若葉……?」

 クロと『みけ』を見ている若葉の顔に大粒の汗がにじんでいた。顔色は青白く、唇が震えている。

「若葉……!」

 尋常ではなかった。若葉がこれほど苦しそうにしているのは、幼い頃に高熱を出した時以来だ。

「姉さん、――俺は」

 若葉の、瞳が揺れる。いつもの色じゃないものが混じった。

「黒、話はここまでだ」

 『みけ』の左手が大きく開かれる。一振りすると、鋭い爪が伸びた。
 クロはきつく瞼を閉じた。

「ああ。最後に話せてよかった」

(――ダメだ!)

 クロが『みけ』から距離をとり、姿勢を沈めた。ピリッとした空気は嫌でもわからせる。どちらか、――どちらも死ぬかもしれないと。

「クロ……!」

 どうしよう。言葉を交わしても、価値観は覆らない。
 クロと同じように、跳躍のため『みけ』が姿勢を沈めた、その時。

「――――みけ!」


 ――――バチンッ


 金色が、弾ける。駆け寄った若葉がクロと『みけ』の間に滑り込み、目を合わせた瞬間だった。


 『みけ』の金色が大きく見開かれる。――そして。金の光に呼応するように、影がぽこんと跳ねる。化け犬の前足が影を持ち上げ、外に出ようとする。

「みけ様、お許しを」
「ごめんなさい、みけ様」

「お前たち……!?」

 犬たちはひどい傷を負っていた。それでも、『みけ』の前に立とうとした。

「俺は、何もしない……」

 若葉は呼吸を整えながら、ゆっくりと話す。
 その様子に、クロもどうしたらいいのか分からず戸惑っている。
 だけど、若葉はまっすぐに『みけ』と、化け犬たちにも視線を巡らせた。
 汗は引いていないが、顔色は幾分マシになった。

「俺の今の名前は若葉――久しぶりだ、みけ」
「――お前は」
「わかるだろう。この通り、俺は無事だし、楽しく生きてる」
「――……」
 
 ぽつり、と零れた名前。それが、若葉と『みけ』の繋がりだとわかった。
 『みけ』の表情は先ほどよりずっと穏やかだ。

「ずっと悩んでたんだろ、クロみたいに」
「こんなやつと一緒にするな!」
「いや、そっくりだ。――だから、『今』なんだろうな」


 過不足なく、計算された配置。ちぎれそうな線すら複雑に編み込まれ強制的に連れて来られた『今』


「お前の体質は他の猫又と違うんじゃないか。――なあ、せっかく数百年ぶりに会えたんだ。お前のことをもっと教えてくれないか」
「いつまでも飼主面しやがって……」

 『みけ』が爪をしまう。戦う気はなくなっただろうか。ひとまず安心だ、と胸を撫で下ろした。

(混乱してきた……まりなちゃんの前世はクロ、若葉の前世は『みけ』――こんなに綺麗に集まるものなの)

「桜ちゃん、降ろしてにゃ」
「あ、……大丈夫?」
「大丈夫にゃ!」

(じゃあ、わたしのミケは……)

「みんな仲直りしたにゃ! 家に帰れるにゃ!」

 空気が和らいだのを感じたのだろう。そう言って、クロたちのもとへ走って行った。
 ――この空気であれば、何か起きるわけはないだろう。

「――金の三毛猫」
「ミケにゃ!」
「俺も『みけ』だ。――単純な名だ」

(ごめん)

「ミケ。お前の願いはなんだ」
「桜ちゃんたちとずっと一緒に居たいにゃ!」
「お前は猫又だ。飼主は先に死ぬ。その後、どうする?」
「ふにゃ!?」
「ふ。考えたこともなかったか――望めば、猫として死なせてやれるぞ」

 ミケはうんうんと唸った。想像のつかない未来だ。それでも、確実に訪れる。

「――正解はないな」

 『みけ』がミケの頭を撫でた。

「俺には妖力が必要だ。定期的に同類を食わねば死ぬ」
「――同族である必要性はあるのか」

 クロが疑問を投げかける。『みけ』はクロを見上げ、言う。

「同族でなくとも構わないが、なじみ具合が違う。――俺は『あやかし』の妖力がないと死んでしまう。お前たちと異なる体質だ」

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