私のお猫さま 25歳を迎えて猫又さまになりました

月見こだま

文字の大きさ
51 / 62
第四部

08:桜の言霊

しおりを挟む

『みけ』が言う。

「そのなかでも、金の瞳の猫又は格別だ。一番なじむ」

 それは『みけ』自身が金の瞳だからなのか、他に理由があるのか。

「お前は、人間を食う体質ではないということか」
「そうだな。食おうと思えば食えるが……」

 無意識にはない、という。明らかにミケたちとは違う。――それは雄の三毛猫という特異性の問題なのかもしれない。

「さて、どうする。俺はこいつを食うつもりでいたが」
「うにゃっ!」
「もうその気はないだろ」

 『みけ』がミケの頭を掴んで言うが、力は入ってない。若葉に指摘されて、大人しく手を離した。

「お前はどうしたいにゃ?」

 ミケが、『みけ』の瞳をのぞき込む。多分、ミケは深い意味を持たずに聞いた。『みけ』が何かに迷ってるから、聞いただけだ。

 その言葉を受けて、『みけ』の瞳孔が細くなる。それは本能だったのだと思う。
 『みけ』は、妖力を奪うかどうか、奪われる側に託す。
 ミケが『どうしたい』と聞いたことで、選択肢が生まれた。

 さっきまで緩んでいた空気が一気に冷える。ミケがびくっと震えた。

(やだ、――)

 ――突如、ぐったりとした三毛猫の映像が脳裏を過った。

(わたしは二度とミケを失いたくないのに――っ)

 瞬間、記憶の蓋が開いた。

『あなた、ケガしてるの』
『んなう……』
『ちょっと待ってね』

 ケガをした三毛猫がいた。
 『わたし』は、その三毛猫の傷を手当した。
 その子は日に日に元気になっていって、寒い夜は抱き合って眠るようになった。
 あの可愛い三毛猫は、ある日を境に姿を消した。『わたし』が熱にうなされた夜が最後だった。

(もう失いたくない)

 クロも、『みけ』も、みんな。

 最悪の未来だけは変えないと!


 ひら、と視界の端で金色が揺れた。

『――――わらわのひと粒の欠片をもった娘』

 どこかから、女性の声が聞こえる。

『その言葉が最後だ。よく考えよ』

 あの時、猫の血が『わたし』に触れた。――きっと、それが、わたしの持つ九尾のにおいの元。

「桜さま!」

 ルナちゃんの白い毛が逆立つ。

「ルナの力で、増幅いたします!」

 わたしが何を言うか理解しているかのようだった。

「みんなの――」

 喉が焼き切れそう。わたしの中で、血が熱く巡る。

「これは」
「みけ様!」

 『みけ』の影から、化け犬が二匹現れる。主人に危機が訪れたと思ったのだろう。癒えていない傷をそのままに、『みけ』を守るようにわたしから遠ざけた。

「桜ちゃん!」

 ミケがわたしに駆け寄ってくる。

(大丈夫。誰も傷つけない)

 飛びついてくるミケを抱きとめて、祈る。

「――みんなが、望む未来になるように」

 選択できるように。傷つかないように。不条理な死が訪れませんように。

「自分で選ぶことができますように」

 パァン! と乾いた音が響いた。

 金の欠片がぱらぱらと舞う。――嘘のように喉の痛みは消えた。
 それが、わたしに許された最後の『言霊』
 砕けた名残が雪のように。

「お前たち、傷が」

 異変に気付いたのは『みけ』だった。深手を負っていた化け犬の傷が、光に触れたところから癒えていく。

(ルナちゃんが増幅したぶん、癒しの力が加わったって感じかな……)

 わたしも降り注ぐ名残を見る。たった一滴の血に触れただけで、この力だったわけだ。
 クロとミケがもつ九尾のひと粒がどれほど大きい力だろう。

「桜ちゃん、大丈夫にゃ?」

 腕の中で、ミケが頭を擦りつけてくる。

「うん、大丈夫。ミケは?」
「わたしは――元気にゃ! 今ならしっぽ増やせる気がするにゃ!」
「はは、まさか――」

 ん? 違和感。……さっきまで二本だったしっぽが……。

「三本!?」
「増えたにゃあ! このままいけば黒いのに勝てるにゃ!!」
「それはまだ早いと思うけど……クロ?」
「……わしは特に変化ないが……」
「九本の尾か……いざなってみると邪魔だな」
「『みけ』は九尾に!? どうなってるの!?」

 三毛猫のしっぽがゆらゆらと動く。ううん、どうしてこんなことに。

「お前の言霊の作用だろう。わしと三毛のひと粒がこの『みけ』にも平等に移ったようだ」
「わたしそんなこと考えてなかったよ!?」
「と、するなら。母様――九尾の狐か。きょうだいで仲良く分けよ、ということか」
「ミケはなんか……中途半端だけど。そのうち九尾になるのかな……」
「それはまだ若いからな。いずれなるだろう」
「うにゃ!? 新入りにも負けたにゃ!」
「まあまあ……」

 これは、わたしの言霊はちゃんと発動してた……ってことでいいのかな?

「おそらく、ごく狭い範囲にしか及んでいませんね」
「ルナちゃん」

 疑問に思ってたところだ。

「この市内程度には広がってはいるはずです」
「これで……悪いことは起きないよね?」
「価値観は変わりませんよ。桜さまの先ほどのお言葉には善悪は含まれておりませんでした」
「う、」
「ですが、悪いとは言いません。それが選ぶということです」

 ルナちゃんはわたしの肩から飛び降りて、『にゃあ』と一声鳴いた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

処理中です...