私のお猫さま 25歳を迎えて猫又さまになりました

月見こだま

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第四部

08:桜の言霊

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『みけ』が言う。

「そのなかでも、金の瞳の猫又は格別だ。一番なじむ」

 それは『みけ』自身が金の瞳だからなのか、他に理由があるのか。

「お前は、人間を食う体質ではないということか」
「そうだな。食おうと思えば食えるが……」

 無意識にはない、という。明らかにミケたちとは違う。――それは雄の三毛猫という特異性の問題なのかもしれない。

「さて、どうする。俺はこいつを食うつもりでいたが」
「うにゃっ!」
「もうその気はないだろ」

 『みけ』がミケの頭を掴んで言うが、力は入ってない。若葉に指摘されて、大人しく手を離した。

「お前はどうしたいにゃ?」

 ミケが、『みけ』の瞳をのぞき込む。多分、ミケは深い意味を持たずに聞いた。『みけ』が何かに迷ってるから、聞いただけだ。

 その言葉を受けて、『みけ』の瞳孔が細くなる。それは本能だったのだと思う。
 『みけ』は、妖力を奪うかどうか、奪われる側に託す。
 ミケが『どうしたい』と聞いたことで、選択肢が生まれた。

 さっきまで緩んでいた空気が一気に冷える。ミケがびくっと震えた。

(やだ、――)

 ――突如、ぐったりとした三毛猫の映像が脳裏を過った。

(わたしは二度とミケを失いたくないのに――っ)

 瞬間、記憶の蓋が開いた。

『あなた、ケガしてるの』
『んなう……』
『ちょっと待ってね』

 ケガをした三毛猫がいた。
 『わたし』は、その三毛猫の傷を手当した。
 その子は日に日に元気になっていって、寒い夜は抱き合って眠るようになった。
 あの可愛い三毛猫は、ある日を境に姿を消した。『わたし』が熱にうなされた夜が最後だった。

(もう失いたくない)

 クロも、『みけ』も、みんな。

 最悪の未来だけは変えないと!


 ひら、と視界の端で金色が揺れた。

『――――わらわのひと粒の欠片をもった娘』

 どこかから、女性の声が聞こえる。

『その言葉が最後だ。よく考えよ』

 あの時、猫の血が『わたし』に触れた。――きっと、それが、わたしの持つ九尾のにおいの元。

「桜さま!」

 ルナちゃんの白い毛が逆立つ。

「ルナの力で、増幅いたします!」

 わたしが何を言うか理解しているかのようだった。

「みんなの――」

 喉が焼き切れそう。わたしの中で、血が熱く巡る。

「これは」
「みけ様!」

 『みけ』の影から、化け犬が二匹現れる。主人に危機が訪れたと思ったのだろう。癒えていない傷をそのままに、『みけ』を守るようにわたしから遠ざけた。

「桜ちゃん!」

 ミケがわたしに駆け寄ってくる。

(大丈夫。誰も傷つけない)

 飛びついてくるミケを抱きとめて、祈る。

「――みんなが、望む未来になるように」

 選択できるように。傷つかないように。不条理な死が訪れませんように。

「自分で選ぶことができますように」

 パァン! と乾いた音が響いた。

 金の欠片がぱらぱらと舞う。――嘘のように喉の痛みは消えた。
 それが、わたしに許された最後の『言霊』
 砕けた名残が雪のように。

「お前たち、傷が」

 異変に気付いたのは『みけ』だった。深手を負っていた化け犬の傷が、光に触れたところから癒えていく。

(ルナちゃんが増幅したぶん、癒しの力が加わったって感じかな……)

 わたしも降り注ぐ名残を見る。たった一滴の血に触れただけで、この力だったわけだ。
 クロとミケがもつ九尾のひと粒がどれほど大きい力だろう。

「桜ちゃん、大丈夫にゃ?」

 腕の中で、ミケが頭を擦りつけてくる。

「うん、大丈夫。ミケは?」
「わたしは――元気にゃ! 今ならしっぽ増やせる気がするにゃ!」
「はは、まさか――」

 ん? 違和感。……さっきまで二本だったしっぽが……。

「三本!?」
「増えたにゃあ! このままいけば黒いのに勝てるにゃ!!」
「それはまだ早いと思うけど……クロ?」
「……わしは特に変化ないが……」
「九本の尾か……いざなってみると邪魔だな」
「『みけ』は九尾に!? どうなってるの!?」

 三毛猫のしっぽがゆらゆらと動く。ううん、どうしてこんなことに。

「お前の言霊の作用だろう。わしと三毛のひと粒がこの『みけ』にも平等に移ったようだ」
「わたしそんなこと考えてなかったよ!?」
「と、するなら。母様――九尾の狐か。きょうだいで仲良く分けよ、ということか」
「ミケはなんか……中途半端だけど。そのうち九尾になるのかな……」
「それはまだ若いからな。いずれなるだろう」
「うにゃ!? 新入りにも負けたにゃ!」
「まあまあ……」

 これは、わたしの言霊はちゃんと発動してた……ってことでいいのかな?

「おそらく、ごく狭い範囲にしか及んでいませんね」
「ルナちゃん」

 疑問に思ってたところだ。

「この市内程度には広がってはいるはずです」
「これで……悪いことは起きないよね?」
「価値観は変わりませんよ。桜さまの先ほどのお言葉には善悪は含まれておりませんでした」
「う、」
「ですが、悪いとは言いません。それが選ぶということです」

 ルナちゃんはわたしの肩から飛び降りて、『にゃあ』と一声鳴いた。




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